いつもならこの寒い風に舞っていた長い栗色の髪。

   それが今は、傍に座る彰のもとまで届くことは無い。
   変わらないのは髪から香る桃の匂いだけだ。




   「ちゃん、元気、ないぬ」



 
   あんなに綺麗な髪だったのに。

   それに触れることが禁忌かのように、俺は一度も触れなかった。
   手を伸ばしたら、遠く離れ、消えてしまいそうで。
   
 

   「・・・そんなこと、ないよ」

   「あるのよーん」

   「女の命削ったから、じゃない?」



  
   自嘲するかのように微笑う
   心の中が見えないのが、本当に口惜しい。
   

   信子より、マリコってこよりも長かった髪を、どうして切ったの。

  
   訊ねたくても、できなかった。
   知りたいと思うほど、の表情が辛く見える。
   あんなに大切そうに扱っていた髪を、切り捨てたの。 
   俺があの髪を好きだと知っていたはずなのに、ねぇ、どうして?
  


   せめて、一度だけでも。
 


   後で嘆くことになったとしても、触っておけばよかった。


   短くなったの髪は、精々彼女の頬を撫で付ける程度。
   以前のように伸ばすことはない、と苦笑するが遠く見えた。
   髪とともに、何かが失われたような感じがして。





   「・・・・・・、」





   あわなくなったの瞳。
   隣にいるだけなのがもどかしい。声が届いてしまうのがつらい。
   絡むことの無い視線は、一体どこに向いているのだろう。



   命を削ったは、とても儚く見えた。

   

   (命を削ってまで断ち切りたかったのは、何?)