最近は、10代の女の子向けのファッション雑誌が良く売れている。
その人気モデルは、芸能人と同じくらいのファンがいたりする。
それくらい、今のファッション業界は若年層にも広がってきている。
『一番好きなモデルは?』
「もちろん、ツバサ!」
「ツバサ!もう超可愛いv」
街中でアンケートを行えば、返ってくる言葉は異口同音。
今一番人気なのは、ティーン雑誌専属女モデルのツバサ。
その微笑みは天使の笑み。
女の子たちの憧れでもあり目標。ファンは男にも多く、写真集も発売されている。
赤茶のウェーブした髪はふわふわと柔らかそうで。
一番目立つのは、長い睫毛で影を落とす大きな瞳。
小さく、細い体は、どんな服も輝いてみせる。
何より、笑顔でも何でも全てから出される不思議な雰囲気が魅力だ。
オーラ、とでも言うのだろうか。
彼女の全てがシャッターチャンスといわれるくらい。
・・・・・それくらい、ツバサは凄いモデルだ。
10代の女の子で、ティーン雑誌を少しでも見る子ならツバサを知らない人はいないだろう。
C&F
多くの人が集まるオーディション会場。
その受付のそばで、一人の少女が悩んでいた。
「・・・・・うわー、ありえねぇ・・・・・・・・・」
周りを見ても、人、人、人・・・・・。
会場を見回して、気が遠くなる。眩暈がしそうだ。
今日は有名な人の新ブランドのオーディション。
この新ブランドのモデルとして、一人は超人気のツバサが決まっている。
そして、今日うかるのは一人のみ。実質、ツバサのパートナーを決めるようなものなのだ。
これにうかれば、一年契約だがツバサと一緒に雑誌に載ることとなる。
男女関係無い、とくれば一次の書類審査で大分落ちたとはいえ、応募者は多かったのも頷ける。
「すみません。20番、です」
「はい、さんですね。えっと・・・・奥にある、『45』というプレートが掛かった部屋にどうぞ」
受付の女の人に微妙にぎこちない笑みを浮かべると、
少女、は言われた通りに、奥にある部屋に歩いていった。
「・・・・・・・ホント、どうしよう」
ツバサはの憧れのモデルだ。
それを知ってか、社長は乗り気でこのオーディションに応募してくれたのだが。
でも・・・・・、
「こんなに人がいるって聞いてない・・・・・」
ずれた伊達眼鏡を元の位置に戻しながら、ははぁ・・・と溜め息をついた。
モデルの中では少し小さめの身長。
スタイルはいいと言われているのだが、兄にそっくりの顔のせいでか
女モデルとしての魅力に・・・・少し、欠けている。
自分でもそれを自覚しているので、この大人数のなかでうかるとは到底思えなかった。
少し歩いていくと、他の人が入っていく部屋の少し奥に、『45』とプレートが掛かったドアが見えた。
人数が多いから、遅い人は別室なのかな?
そんな疑問を抱きつつ、は奥の部屋の前で止まった。
プレートの掛かった赤いドアの前で、深呼吸。
はい、吸ってー、吐いてー。ひっひっふーぅ。ひっひっふーぅ・・・・。
「失礼しまーす・・・・・」
おずおずと、ぎこちない動作では部屋のドアを開けた。
うわ、緊張する。ここにはライバル・・・?がたくさんいるのか。
きつそうなお姉様方はいないで欲しいなぁ。
別に女の子を見るのは嫌いではないので、ちょっとハーレム気分になる。
や、別にそっちの気はないですけど。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
ガチャ。・・・・・バタンッ。
は、開けた扉を無言でそのまま閉めた。
ワタシ、何モ見テマセン。
エエ、何ニモ見テマセントモ。
「・・・・・・・・・・・・!!・・・・・・・・・・・・・・・・・!?」
一瞬、時が止まったかのように硬直した。そしてすぐに、
パニック状態。
今できることといえば、言葉にならない声で、パクパクと口を開くだけ。
ドアの前で頭を悩ませる。が、思考がついてこない。
え、何、今の。私ついに幻覚が見えるようになっちゃったか。
やばい、1.5くらいある視力、自慢だったんだけど。
カタン、と小さな音がして赤いドアが開き、にっこりと可愛らしい笑顔が顔を覗かせた。
「ちゃんだよね?・・・・入ってv」
「・・・・・・・・・・・・!?」
「はーやーくっv」
このハートがついてる可愛らしい声。
最後の言葉と同時に、にゅっと腕が伸びてきた。
・・・・そして、そのまま部屋の中に引きずり込まれた。
勢い余って、はそのまま地面に倒れた。お尻を打ったので、ちょっと痛かった。
原因の相手を睨みつけるように見上げると、そこにいたのは・・・・・
「・・・・・ツ、ツバサ・・・・・・・・!?」
そう、今まさに、の目の前にいるのは、憧れのツバサ。
にこにこと、憧れの天使の笑顔が目の前にある。
一応、着替え中だったらしい。
上半身は、本来なら見せてはいけないようなタンクトップ姿。
よっぽど慌てていたのか、綺麗な髪を乱していた。
それより、なにより。
・・・・・・・・・・明らかにおかしいところがある。
は先ほど見たのが幻覚ではないことを改めて思い知らされる。
幻覚じゃなく、見間違いでもなく・・・・・真実?
は改めて、声が出ないだろうとそれを言葉にしてみる。
心の声が声になるように。
「む、胸がない・・・・・お、お、お、お、お・・・・とこ・・・・・・っ!?」
「しー!黙れッ、静かにしろッ!」
声が出た。しかも、心の声もパニックなのも全て出ていた。
意外と大声だったその声に、ツバサはの口を両手で塞いだ。
もがっ、と変な声を出して、は口を閉じる。
それを確認すると、ツバサは絶対大声出すんじゃねぇぞ、と目で訴えてきた。
がコクコクッと慌てて頷くのを確認すると、ツバサは手を離して、
そのままどかっと近くにあったソファーに座った。
「落ち着いた?」
「・・・・・は、はい」
「あー、もうびっくりしたぁ。ちゃんいきなり部屋に入ってくるからっ」
ツバサはいつものように天使のような、可愛い女の子の声や振る舞いだった。
今までのは、幻覚?・・・・・ありえない。
さっきのことから、今のツバサは演技のようにには見えた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・って、今更演技しても意味ねぇか」
はコクコク、と頷いた。驚きを通り過ぎて、もう呆然としている。
声も出ない、とはこういうことかと変に納得してしまう。
さっきは出たのに、また声が出てこなくなってきていた。今は、日常会話もままならない状態だ。
ツバサはあーとか言うと、乱暴に頭をかいてめんどくさそうに、不機嫌そうに言った。
「もうわかると思うけど、俺は男なわけ」
「な、なんで男が女モデルなんか、やって・・・・・」
「・・・・・・ちょっとした、アクシデントと玲の陰謀」
「はい・・・・・・?」
はただ、ただ、驚くことしかできない。
頭はまだフリーズしたままのようで、何を言われても頭を抜けてしまう。
だって、普通そうでしょ?
誰だって、この状況に陥ったらみんなこうなるって。
男が女装してモデル?
しかもそれは自分の憧れでもあり、全国の女の子たちの憧れ。
その、超人気モデルが実は男でした。
スクープとかの問題じゃない、一番先に頭に浮かぶのは。
だってそれって、
・・・・・・・・・・・・・・詐欺じゃん!!
今のツバサはいつもの可愛らしい天使はどこへやら。
いつもみてきたツバサが偽者だというのは、ショックというよりも
逆に演技力を褒めたくなる。だって、異常だよ。
素を出したらしいツバサは、
声も、動作も、態度も・・・・・全てが完璧に男のもの。
ドッキリだったら幸せなのにな。はぁ〜いっ、ドッキリでしたぁ!・・・・って現実逃避。
「・・・・・実は、ね」
凝視しているを見て、ツバサは少しばつが悪そうに、
というかとても嫌そうに口を開いた。
そこまで言いたくないのか?でも、言ってくれるなら聞きたい。
始まりはちょっとしたアクシデント。
社長のはとこであるツバサは、容姿を含め全てを買われて、
お気に入りとしてデビューすることとなった。
しかし、写真を見たスタッフが間違えたのか、社長がわざとやったのか・・・・・
ツバサに用意された衣装は女物。しかも、雑誌も女物。
そう、全てが女のためのものだったのだ。
「な、なんだよこれっ!」
「なんか間違われちゃったみたいでね。いいじゃない、もう名は売れちゃったし、大人気よ?」
「・・・・・・・いいわけないだろ!」
「まぁ、一年契約だし。詐欺してると思って楽しみなさい」
「俺、降り・・・・・」
「契約しちゃったのよ?私の顔をつぶす気?
・・・・まぁ、あなたに多額の契約解除費が払えれば、やめてもいいけどね」
今でも忘れない。あの、黒い笑み。
その契約解除日は中学生じゃとても払えるはずがない金額だった。
ほぼ拒否権は皆無。
ツバサはその金を払うため、今もこうして嫌な女装をしているのだった。
「え、その。一年契約なら、もう終わってるんじゃ・・・・・?」
「・・・・・玲はそんな簡単じゃないんだよ。
人気が出ちゃうもんだから、契約は延長するわ、新しい雑誌に契約するわで増える一方」
「・・・・・・・・・うわぁ・・・・・」
「もう、引っ込みがつかなくなったってわけ」
は、なんとなく同情してしまった。
男が、こんな女物の服着るのなんて・・・・・屈辱だろうなぁ。
私だって、あんまり好きなほうじゃないのに。
「異常、じゃないですか・・・・?」
「あぁ、普通に考えたら異常だろうね。でももう引っ込みはつかないし。
騙されてる奴らの顔を見て、バカじゃないのかって心の中で嘲笑うのが
もう慣れたのか微妙に楽しくてね。バレたら大変っていうリスクも面白いし」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
黒く微笑んだツバサに、はもうなんというか
うわぁ・・・・としか言いようがなかった。だって、微妙に遠い目してた気がするし。
でも一応は楽しんでるみたいだ。一度始めたら最後まで突き通す人なのかな?
成り行きでモデルやって、面白半分でやっているのかわからないけど、
・・・・・・・・・結構、好きになれそうなタイプかも。
「・・・・と、いうわけで」
が同情と思いに浸っていると、ツバサは着替えをさっさと済ませ、立ち上がった。
・・・・・・・・・かと思うと、いきなりまたの腕を組むような形で掴んで、走り出した。
はわけがわからず、ただ引きずられていくだけだった。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁーっ!!」