わわ、若菜結人、さん、だって!

   一昨年の春の終わり頃、かなりへこんだときに聞いた

   彼らの曲は、私の心を満たしてくれた。

   あの笑顔の下に隠された泪を、感情を、知りたいと思った。

















     C&F
















   結人について歩いて、約5分。

   ついたところは、見慣れたファミレス。

   ちょっと裏通りにあるそこは、人があまりいなかった。

   


   「え、と・・・此処ですか?」
  
   

   は恐る恐る訊ねる。

   社長のメモで書いてあった場所と違うところだったからだ。



   「俺が遅いときはここで待ってるんだよ、アイツら」

   

   今も待ってるってメールきたし、と結人は笑うと

   店内を見回した。

  
   お!という声に反応し、は結人の視線の先を追う。

   そこには、落ち着いた雰囲気の人と、ツリ目の人がいた。

   何か話してたらしいその二人は、結人の大きめの声に振り返った。



   「結人、遅いぞ!」

   「一回でもいいから遅刻しないで欲しいよ、まったく」   

   

   悪ぃ悪ぃ、と結人は少しも反省の色を見せずに謝ると、
   
   二人のいる席に歩いていく。

   をみた二人の表情が、一瞬強張ったのは気のせいだろうか。

   ははっとその後をついていく。



   「す、すみませんでした!俺のせいで」

   「違う、違う。お前のせいなんかじゃないって」

   「でも俺を助けたから・・・」

   「どっちにしろ結人は遅れるから変わらないよ」

   「そうそう」



   頭を下げたにかけられる言葉。

   ちょっとそっけないと思っていた二人だけに、それはとても優しく感じた。

   結人は失礼だな、と笑うと向かい合って座っていた二人のうち

   ツリ目の人の隣に座る。

   がその場で立ちすくむと、落ち着いた綺麗な人が自分の隣を指した。

  

   「何立っているの?座りなよ」

   「あ、はい、失礼します」

   「なんだぁ、緊張してんのか?俺の隣がいいって?喜んで!」

   「そ、んなわけじゃないですけど」



   は大人しく指された席に座る。

   隣にいるのが彼らだと思うと、とても緊張した。

   でも、俺はなんだ、と気合を入れなおす。

   バレたら最後。大丈夫、雑誌の撮影だって平気だったんだ。



   「おい結人、何でそんなに馴れ馴れしいんだよ」

   「えー、だってコイツ俺のファンだって言うし?」
    
   

   どうやらツリ目の人は人見知りらしい。

   先程からちょっとこっちを見るだけで、目を合わせようとしない。

   雑誌を読んで知ってはいたけど、本当なんだ・・・。

   ただそっけないだけじゃないんだなぁ。



   「そうなの?」



   隣に座っている人が、の顔を覗き込むようにして訊ねてきた。

   あまりに驚いて、後ろに仰け反る。
   
   こここここ、こんなに綺麗な顔が近くあったら・・・!



   「えっ、はい、昔からファンで・・・」

   「へぇ。じゃあ名前は知ってるんだよね」
   
   「はい、モチロン!美人な貴方が郭英士さんで、ツリ目なのが真田一馬さん」



   興奮したのか、少し声が大きくなり、笑顔も自然とこぼれた。

   三人が少し面食らったような顔をした。



   「あ、俺はって言います。よろしくお願いします」

   「・・・よろしくね」



   英士の顔が、少し微笑んだ気がした。

   気付かれないくらい微かに、の顔が赤くなる。

   綺麗!近くでみると、いや、本物は本当に綺麗!


   惚けたようにしていると、店員が結人との前にグラスを置いた。
  
   中身は、アイスティー。

   だけど少し香りが違うように感じた。

   頼んでないので、え?と見ると結人が笑った。



   「ついでに頼んどいたけど、ダメだったか?」

   「いえ、ありがとうございます」

   

   自然に顔が綻ぶ。

   結人はとても話しやすい印象だ。・・・知っている人に似てて、少し恐いけれど。



   「敬語やめろよな、。俺らより年上だろ?」

   「え、でも」

   「いいから!飲み物取り返すぞ?」

   「結人、やめろよ」

   「わかり・・・わかった。のど渇いてるから、それだけは勘弁して」

  

   自然に、再び仕様になった。

   は微笑んで、前のアイスティーを飲んだ。


   途端、入ってきた変な味。




   「っ、何だこれ!ゴホゴホッ、変な、味が・・・っ」

   「よっしゃ、引っかかった!」

  

   嬉しそうにガッツポーズをする結人。

   隣の一馬が心配そうな顔でを見て、結人に呆れた視線をやる。

   
   な、何この変な味!

   今まで飲んだことのない味だ。

   あまりのマズさには大きく咳き込む。



   「大丈夫?」

   「ゴホッ、だ、ダイジョブっ、」

   「・・・には、みえないね」
   
   「こっ、ゴホッ、何味・・・っ」



   英士が心配そうに訊ねるが、は喉に残った味をかき消そうと必死だった。   
 
   眉をひそめて結人を軽く睨んだ。



   「それはなぁ・・・結人様おすすめ罰ゲーム用、お酢入りアイスティーだ!」

   「・・・・・マジかよ」

   「嘘、嘘。ちゃんとした商品。健康は大事だぜ?な、ゴーヤティー」

   「なっ、んで、そんな、ゴホッ、もの・・・っ」

   

   ゴーヤ!?

   ゴーヤといえば、あの沖縄の有名なにがうりだよ、ね・・・?
 
   なんでそんなありえない飲み物が残ってるわけッ?


   いつまでも残る強烈な変な味には既に涙目だ。

   結人は一人大笑いして、自分のを飲んだ。

   じ、自分のは普通の紅茶なの・・・!



   「ゴホッ、ゲホッ、んで、だ・・・っ?」
   

   
   しかし、飲み込んだ途端、結人もと同様に咳き込んだ。

   涙目になりながら、英士と一馬に助けを求める。

   

   「だず、げ、ろ・・・っうげ、マズ・・・っ」

   「自業自得。ほら、これ飲んでいいから」

   「ありがとう・・・・っ」

   「てめぇ、英士・・・すり替えやがったな・・・・っ」



   パタ、といった感じで結人は力尽きる。

   その間には英士に勧められたアイスコーヒーを飲んだ。

   ノンシュガーだったのでこれはこれで苦かったが、

   ゴーヤティーに比べればなんとか・・・。



   「あれ、苦いのダメだった?」
   
   「え、まぁ・・・でも、大丈夫。助かったよ」

   「・・・大丈夫か?」

   「ほら、こっちはまともなアイスティー。貰っておきなよ」

   

   結人が本来頼んだ方のグラスを英士がの前に置く。

   ようやく強烈な味が去ったは、そこで結人の状態に気付く。

   ぐったりして、ちょっとヤバそうなのでは・・・?

   
   
   「うわ!ちょっと、平気か?死にそうじゃん」
   
   「み、水・・・っ」

   「やらなくていいよ。じゃあ、仕事始めようか」

   「そ、そんなわけにも」



   英士は結人に冷ややかな呆れた視線を送って、
   
   はぁ・・・と大きく溜め息をついた。
    
   
















   英士が、机の上に何枚かの紙を置いた。

   なにやら書き込んである。

   丁寧な字と、乱雑な字のもの。

   乱雑な方が結人だと考えなくてもわかった。



   「・・・プロモーションビデオ?」
 

   
   は目を見開いて聞き返す。

   確かに、雑誌のでもなく、対談でもない。

   でも、ちょっと待って!
   


   「そう、俺らの新曲のプロモ」

   「そこに書いてあるだろ、歌詞」

   「凄く素敵な歌詞ですね。いや、そうじゃなくて」

   「どっちだよ」

  
   
   ちょっと社長!とは心の中で泣きたくなった。

   雑誌一筋、しかも売れないモデルだった

   演技なんて器用なこと・・・できないって。

   一応、という役はできているけれど、演技なんて・・・。


   が混乱していると、一馬がボソリと呟いた。



   「でもよ、今回の詩も恋愛なんだよな」

   「そうだけど?」

   「イメージの案出したとき、探してたのって、女じゃなかったっか?」


  
   おかしいよなぁ、と一馬は首を捻る。
    
   反対にはぎくりといわんばかりに強張った。



   「・・・そう、それが問題なんだよね」

   「何でだ?別にいいじゃん」

   「結人、考えて話してくれる?疲れるの嫌なんだけど」


   
   はぁ、と英士は溜め息をついた。

   
   今回の新曲は二曲。

   三人交互に曲を作る彼ら。今回は結人のものと英士のもの。
  
   結人の曲は恋の歌で、少し悲恋っぽいが希望が見える。

   英士の曲は完全な悲恋でとても悲しい曲。

   メインはどうやら英士らしいが、どっちも視点は女だ。 

   結人はどちらともとれるが・・・。


   つまり、必要としていたのは女。

   結人のほうはまだしも、英士のほうをどうするかと悩んでいるのだ。

   まったく、西園寺社長はどういうつもりで・・・?



   考えてる英士、、一馬に向かって

   結人は自信満々に、笑顔でとんでもないことを言った。





   「だーかーらっ、が女役やれば良いことじゃん」




   間。



   ちょっと、待って・・・。

   沈黙が流れる。というか、時が止まる。




   「・・・はぁ!?」

   「そ、れは、いくらなんでも・・・」

   

   と一馬は驚愕して、結人を見遣る。

   ありえないだろう、それは。二人とも意見は同じだった。



   「なぁ、英士!それは、」

   「何でだよ、いい考えだろ?英士はどうだよ」

   「えっ、えと、真面目に言ってんの・・・?」  


 
   英士は何か考え込むように黙っている。

   反応といえば、をじーっと観察するように見ているだけだ。

   は疑問符を浮かべて、眉をひそめる。



   「か、郭さん・・・?」
 


   そして、英士は何か面白いものを発見したかのように
  
   ふっと微笑んだのだ。





   「・・・・・・いいね、それ。面白そう」



  

   その笑みが黒かったことに、いきなり言われた無謀なことに、

   は危うく意識を手放しそうになった。