気がつけば、周りは私を見てなかった。
気がつけば、私は周りを見れなかった。
私は自分を出すことは決してできなかったし
周りは私という人を作り上げていたのかもしれない。
C&F
はい、休憩終わりー!という声がして、と結人は立ち上がった。
そのとき目があったけど、結人は先程のような表情はしていなくて
ただにっかしと笑っただけだった。
この人は、深い人だ。
会って間もないがそれだけは感じた。
改めてみると、何の纏まりもなさそうなあの三人を
繋げているのは彼の存在なのではないだろうか。
人の素質を見出し、貼り付けた人懐っこい笑顔で近づく。
興味や可能性を発見したら、その人は彼のお気に入りになる。
きっと、誰とも仲良くできる代わりに、浅い付き合いになってしまうのだろう。
そして、その中で見つけた深い繋がりを持てる人が、彼らなのだろう。
「残念ながら次のシーンからちょっと暗くなるよ。進路の部分ね」
そういえば、プロモって普通ストーリーの中に
アーティストが登場してないか?
ふとした疑問だった。
今までの撮影でその部分は無いし、英士と一馬は
ただ見ているだけにみえた。
といってもとしてみれば演技でいっぱいいっぱいなので
そんな些細な疑問をいつまでも
頭に残しておける余裕は無かったけれど。
「はい、これ」
「・・・なんですか、これ?」
「進路希望調査票」
「もうすぐそんな時期かぁ・・・俺まだ進路決めてないや」
「・・・ノリいいね、」
渡されたのは、白紙の進路希望の紙。
慌てて台本を見ると、書いてあった。そうだ、歌詞にもあったな。
しっかりしろ自分!と喝を入れて、イメージを膨らます。
「どういうシーンかはわかるだろう?君らがもうすぐ体験する」
「・・・未来なんて見えないから、必死にもがく」
「そう。それは同時にずっと一緒だった人との別れに繋がる」
「だから、書けないのかな、主人公は」
別れたくない人は誰でもいるものだ。
学校が違くても、とはいうが、そんな自信が無かったとしたら?
迷うだろう。自分の今まではその人によって築かれていたと
とってもいいのなら、なおさら。
「・・・・あれ、これって冬のシーンになるんじゃないですか?」
「あぁ、そうだね」
「進路希望の最終って秋ぐらいだし・・・。
雰囲気的に雪降っててもいいくらい凍てつく寒さのイメージなんですけど」
「・・・・・・いいイメージだ。大丈夫、そのくらい楽勝だよ」
「え?」
その言葉を言った途端、空が暗くなった。
驚いて上を見ると、空は雲がかかってきていた。
え、あの、何、この人はエスパー・・・?
天候すら操れるの・・・っ?まさか・・・!
「・・・・・・ごめん、。お前の考えたこと手に取るようにわかるわ」
「え、どういうこと、わか・・・結人さん?」
隣で呆れるような溜め息をつく結人に振り返る。
同時にせっかく結人って呼んだにも関わらず、片頬に制裁が来る。
あ、さん付けは禁止なのか!
「エスパーとか思っただろ、お前」
「え、違うのかっ?」
「・・・・・・・・・くくっ」
「あ、ヒド!」
「残念ながら、今日は天気が晴れのち曇りなんだよ」
「・・・天気予報?」
「そう、英士のな!」
視線がばっと英士に集まった。
本人は気にしてないようだが、少しいぶがしげに皺を寄せた気がする。
天気予報って・・・!
ますます混乱と驚きが増すに、一馬も笑いが堪え切れなかったようで
プ、と笑いを漏らした。
「・・・くくっ・・・・・タイミングピッタリで嬉しいよ。その反応も」
「・・・・・・・・・・・・」
「まぁ、そう拗ねんなって!いい感じの天気だろ」
それ以前に天気予報ができる人のほうに驚きですよ。
私が予想すると絶対反対になるから、いつもびしょ濡れだっていうのに・・・!
監督さん・・・もうわからないからそう呼ぼう。
は、ひとしきり結人と笑った後、笑いすぎて出た涙を拭った。
撮影再開ということだろう。
「難しいシーンかもしれないけど、できるよね?」
「・・・・・・・・」
「じゃあ、始めるよ」
その声に三人で固まっていた結人が動く。も慌てて位置についた。
結人は屋上の入り口の向こう側でスタンバイだ。
「はい、スタート!」
カメラが回される。
英士に認めてもらわなければ。
この仕事で、必ず認めてもらう。
今までとは違う緊張が走った。
いつもの屋上だけど、空がいつものように明るくなく、暗い。
空に掛かる雲はまるで、主人公の心の中に似ている。
屋上の柵に凭れ掛かる。
手にあるのは、進路の紙。書けるわけ無いだろう、という言葉の代わりに
自嘲し、その紙をびりびりに細かく破った。
小さくなったその紙屑を、風に乗せて屋上の外へ捨てた。
ぶわっと吹いた風に乗せられてそれは、大きく舞って空へ溶け込む。
灰色の空にそれはとても白く、雪のように見えた。
ふぅ、と大きく溜め息をつく。
別れたいわけ無いだろう。今までずっと一緒だったんだ。
いつまでも一緒だと笑ったのはいつだ?
距離が離れれば、きっと彼は遠くに行ってしまう・・・!
血の気が、サアッと引いた。
自分の今の状況と一緒だ。先なんて見えない。
として活動して、その後どうする?
今までと仲良くなった人たちは、離れていく。
そうだ、はまだひとりぼっち・・・・・・。
「・・・・・・ちょっと止めて!」
え、とは顔を上げた。
つかつかと英士が近づいてくる。
「・・・ねぇ、それ本気でやってるの?」
その視線は冷ややかだった。
「遊びとは違うのはわかってるよね。ふざけてるの?」
「え、どういう・・・っ」
「どうもこうもないよ。自分で確認でもしてみたら?」
そういうと、英士は冷たい目でを一瞥し、
一馬のところへ戻っていった。
代わりに来たのは監督さんで。
その表情は、苦笑していた。
「うーん・・・英士君は手厳しいなぁ。でも本当、今のはないよ」
優しく言われたその言葉は、に突き刺さった。
ちょっとおいで、といわれて見せられた、先ほどの部分の映像。
それをみて、はっとする。
なんて顔してるんだ、自分・・・。
その顔は、ガチガチだった。
まるで、昔の“”みたいに自信の全く無い顔。
演技じゃなく、無意識に出たような。
この曲のイメージとも違った。これは違う顔だ。
彼がいなくなると思った自信の無い顔ならいいが、これは
自分に自信が無い顔。
演技にすらなっていない。自分の顔が自分に見えなかった。
「・・・ちょっと、長めに休憩にしよう。これきりだよ」
そういわれた言葉が、ずしりとのしかかった。
は逃げるように、屋上を出て行った。
その向こう側で準備していた結人にぶつかって、何か言われたが
は構わず走り去った。
階段が、永遠に続くような気がした。
は、勢いに任せて走った。
途切れることなく浮かぶ思いを振り払うように。
出てくる涙を吹き飛ばせるように。
気がつくと、グラウンドの端まで来ていた。
校舎の近くの段差で、はしゃがみこんだ。
体育の授業はないらしく、誰もいなかったのが嬉しかった。
『ふざけてるの?』
英士の言葉が甦る。
そんなつもりじゃなかった。ただ、認められたくて。
人に呆れた、期待はずれだという顔をされるのが
にはとても恐ろしいことだったから。
あの英士の表情は、耐え難いほど辛かった。
思い出して、涙が出た。
泣くな、俺はなんだ・・・じゃ、ないんだから・・・。
止まらない。どうしよう。
このままじゃ、また“”に戻ってしまう。
自信の無いに。何一つ満足にやれないに。
厭だ。厭だ・・・!
そう思えば思うほど、涙は溢れた。
助けてくれる人などもういないんだ。自ら手を振り解いたのだから。
大切なのは、自分の両腕。
わかっているけれど、それは今の自分には難しいことだった。
支えが必要なんだ。でもその支えをなくしたのは自分。
どうすればいいかなんてわからなくて、ただ嗚咽を漏らした。
膝に顔を押し付けて、落ち着くのを待った。
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・っ・・・・」
「聞いたぜ、さっきのこと。まぁ俺も、正直言ってがっかりだったな」
上から聞こえてくるのは、結人の声。
辛かった。唯一希望の見えた人に、そういわれるのは。
「お前は違うと思ってたのによ。逃げんのか?このまま」
「・・・・・・っ・・・やめ・・・・・・」
やめたくなんて、ない。
「とりあえず、俺は上で待ってるぜ。英士は呆れてるだろうし」
あっさりと、足音が離れていく。
どうすればいいのだろう。
このまま上にいっても、前と同じになることは必須だ。
自分の考えが纏まらない。
前のシーンまでは、普通にできたのに。
どうしてこうなった?“”は失敗なんてしなかったのに。
仲間なんていない。助けなんて無い。
それに縋ればきっと前と変わらないのだろう。
「・・・・・・ひっどい顔してるね、随分」
思いつきもしなかった声が、頭上から聞こえた。
顔は上げれなかった。
すると、その人物はの隣に座り、頭を小突いた。
そして、ムリヤリ顔を上げさせた。
「玲に言われてきてみれば・・・何してるわけ、こんなとこで?」
「・・・・・つば、さ・・・・・っ?」
「大体わかるんだけどね。・・・ほら、タオル」
溜め息とつきながら、顔にタオルを押し付けられた。
翼が、何で此処に?
しかも、ツバサの格好のままだった。
でも偽ることなく、翼はに接した。
「どうせ、うまくできなくて郭に何か言われたんだろう?」
「・・・・・・・」
「図星だな。あいつは誰にでもそうだけどね」
「・・・・・・何だか、自信が無くなった・・・っ」
「元々あったわけ?自信なんか」
「・・・無いよ、これっぽっちもない・・・!なのに、違う・・・っ」
ぽつり、ぽつりと言葉を吐き出す。
になってから、嬉しいことばかりで。
撮影も、対談もうまくいったから、今回も楽勝だと思ってた。
でも、違うんだ。そんなに甘くなかった。
呆れられるのが恐くて、でも心の中で浮かんだことが
ぐるぐる廻って離れなくて・・・になれないよ。
「うまく出来ない自分が厭だったから、っていう人ができたんだ」
「・・・・・そう」
「自分の本当になりたい姿が、。自分を見せる勇気があって
何があっても挫けることのない力を持ってる」
「・・・で、お前はだろ?」
「だけどになれてないよ。もうどうすればいいの・・・ッ?」
自分に自信が無いのはもう厭だ。
明るく振舞うことがどれだけ大変か。どれだけ強いことか。
自分を持てることが羨ましい。
そういう人たちに魅せるために自分はを演じることにしたのに。
「・・・でもさ、お前はお前なんだろ?」
「そう、だけど・・・?」
「俺は、ツバサやってて気をつけるのは笑顔。
あれがなくなったら、ツバサはツバサじゃなくなるんだ」
「・・・・・・ツバサの笑顔・・・・」
凄く、可愛らしく微笑む。
幸せを喜びを振り撒くように。
「だけどさ、ツバサと俺は別人。だから俺の笑顔じゃいけない。
でも、俺の笑顔とツバサの笑顔の意味は一緒なんだ」
何て言えばいいんだ、と頬をかいた翼だけれど、
はなんとなく、わかる気がした。
別人だけど根っこは一緒。伝えたいことは同じだから。
「・・・お前のやりたいように、やれるようにやるだけだろ?」
そういうと翼は立ち上がった。
恥ずかしいのだろうか、顔は少し上を向いていた。
「指示通りに動く人形なんてつまらないだろ。それは
プロとは言わないし、俺は少しも偉いとも思わないよ」
「・・・・・・そう、かな」
「そうなの!いい加減うじうじ悩むのやめたら?」
「・・・・・うん」
「素直でよろしい。・・・気合入れてけ!見返してやれよ!」
ペシッとの頭を軽く叩くと、翼はじゃあなと歩いていく。
は立ち上がった。
「翼!」
翼が少し遠くで振り返る。歩くのが早いなぁ。
社長に言われてわざわざきてくれて、慰めてくれた。
すごく、嬉しかったよ。
「・・・ありがと!」
は感謝の気持ちを込めて、笑った。
心の底から、気持ちを込めて笑えた。本気で笑えた。
翼は面食らったように固まり、少しして
あぁ・・・と満足そうに微笑んでいた。
翼の貸してくれたタオルは、洗剤と微かな甘いいい香りがした。
おっし、これからが本番だ。
気合を入れなおして、翼のためにも頑張ってみせる。
翼の隣に胸を張っていられるように。
とは同じと、そういえるように自信を持って前を向く。
をナメんなよ・・・・!