いい事がありすぎて、顔が緩みっぱなしです。

   でも、それくらい許してください。

   さぁ、今日はどんなことがあるのだろうかな?   

   ・・・・・・お願いですから、悪いことだけは無い方向で・・・!

















     C&F
















   撮影が終わって気が緩んだのか、は終始笑顔だった。

   今日は社長に了承を得て、制服のままで事務所に向かった。

  
   はず、なのだが。

   なんで今私はこんなところへ・・・?


 
   
   「・・・・えーっと」

 


   ない頭と急な展開についていけない脳みそをフル活用して

   思い出す。


   確か、学校休んで事務所にいって

   社長、何か用ですか?って聞いたら




 
   「えぇ。あなたを一度見てみたいという人がいてね」


  


   というにっこり笑顔付きのお返事を頂きまして。

   そのあと、どうしたんだ。
  
   あぁ、へ?っていつもながらマヌケな声を出したんだ。




   「ほら、惚けてないで。この中に用事があるのよ」



   
   そうそう、こんな感じであの綺麗な人形みたいな手に

   見た目からは考えられないくらいの力と圧力で腕を引っ張られて、   

   車に押し込まれて、ここにいるんだ。

     
   って社長、また引っ張って・・・!

   お、恐ろしすぎて振る解くことなど私には出来ないよ・・・っ。





      
 











    
   ふぅ、とようやく頭が回るようになって、自分がどこにいるか

   わかるようになった。

   どうやら、高層ビルの上の方の一室らしい。

   ガラス張りのここは太陽に光がよく入り、明るかった。

  
   社長は優雅に皮のソファーに座り、先ほどまで

   を考えられない力で引っ張ってきた、しなやかな人形の指は

   これまた高価そうなティーカップとソーサーを持っている。


   がちゃ、と音がして、黒髪の少年が入ってきた。

   身長は低く、翼と同じ位かそれより低い程度だった。

   年齢もと近く見える。

    

  
   「準備、できました」

   「ありがとう。急に頼んだりして悪いわね」

   「いいえ、構いません」 
  


   
   どうやら、紛れ込んだことかではないらしい。

   むしろこのビルの持ち主に近いようだ。




   「それじゃあ、行きましょうか」




   その言葉に少年は頷き、はまた引っ張られることとなる。

   その状態のまま着いたのは、先ほどの階から二つほど下のフロア。

 
   エレベーターから降りる際、少年が少し訊ね辛そうに

   に視線を向けた。

 

   「あの、こちらの方は・・・?」

   「あら。紹介が遅れたわね、この子は今日の主役」



   チラ、と社長に視線で指される。

   ほ、本名でいいのかな?いいんだよね?



   「、です。はじめまして」

   「はじめまして!あっ、僕は風祭将です」



   重そうな大きなドアを開けると、そこには

   見慣れた、撮影用のセット。

   唯一違うのは、背景部分が緑ということ。

   天気予報で使うような合成用だった。


   
   って、ちょっと待って!?
  


    
   「しゃ、社長、どういうこと、ですかっ」 



   

   慌てて訊ねてみるが、社長は微かな笑みを返すだけで

   何も言おうとはしない。
 
   それどころか、どんどん奥に進んでいってしまう。     
 
   渋々ついていくことしか出来なかった。     



     
   「よろしくお願いしますね」




   奥から出てきた人たちに、社長が言ったその言葉と同時、

   はまた混乱することしかできなかった。


   何、強引なのは血筋ですかっ?
    
   何を考えるのも追いつかず、はただ為すがままにされた。


 
   為すがままに、着替えせられ

   為すがままに、メイクされ

   為すがままに、ヘアメイクされ

   為すがままに、カメラの前に立たされていた。




   「忘れ物よ」



 
   社長がぱさりとかぶせたものが、カツラだって気付くのは

   すぐ傍にいた将が焦った様子でお茶を差し出してくれたとき。

   ・・・・カツラかぶるなら、髪整えなくていいんじゃない?



   「落ち着きました?」

   「あっ、うんっ。ありがとう、えと、」

   「将でいいですよ」

   「ありがとう、将君」




   とりあえず、状況整理からいきましょう。

   今日こんなのばっかだけど、そうしないと追いつかないしね。

   
   えと、メイク・・・ってことは、撮影をするんだよね。

   自分の服がどのようなものなのかは、上から巻かれた布のせいで

   全くわからない。
      
   というか、撮影って・・・何の?




   「しゃ、」


  

   社長、というつもりだったはずの言葉は続かず、途切れる。


   既に、目の前に社長がありえないほど

   黒い雰囲気を出して立っていた。

   カツ、カツとヒールの音を立て、社長はの隣に歩み寄る。


   
   
   「・・・彼らとの撮影で、もう自分の足で立てるでしょう?」

   「え・・・?」
    
   「あのことに対して、あなたはどう行動するの、今」


   

   小さく告げられる言葉は、ずしりと重く

   そして、音量以上にの心に大きく響いた。
  
   
   どう、行動したい・・・?    
   
   忘れられない、あの日を。

   でも、忘れなきゃいけない、乗り越えなきゃいけない日を。

    


   「・・・・・・・・・・・・・・・」





   すっ、とかけていた赤縁眼鏡をはずす。

   社長はなんの反応もせず、ただそれを受け取った。




   
   「答えがでているなら、そのまま立っていればいいのよ」




   
   ばっ、と巻かれていた布が剥がれ、は後ろを向かされた。

   カツ、カツという音が遠ざかり、代わりにフラッシュがたかれた。

   何の撮影なのだろう。


   ふと視線を下に向ける。

   セーラー服、だった。

   しかし、それはボロボロに破け、土の汚れや・・・血、だろうか

   赤黒いものが付着していた。

   左腕の袖は破りとられ、よくみると、は靴すら穿いてなかった。

   なんで気付かなかったのだろう、自分は。

   体中にも同じような傷のメイクが施され、絆創膏や包帯まで

   してあった。


   ・・・・どんな、撮影ですか?


   

   「、ちゃんと立ちなさい」




   静かに響く社長の声に、背筋を伸ばす。




   『自分の足で、立てるでしょう?』

   


   ・・・そうだ。私はもう、あの人に依存していてはいけない。

   自分の足で、立ち上がらなければ。

   そして、何があっても、自分の力で立っていなければならないんだ。

  
   眼鏡も取ったし、今はカメラの前だ。  
      
   私は、であってではない。

   時は経ったのだ。傷は癒えていないのではない、そう思い込んでいるだけだ。

   とっくにかさぶたになっているものを、痛い痛いと叫んでいるだけなんだ。
   

   撮影にやっと集中できる。
        
   上に掛かった照明が、雨上がりに差した光に似ていた。






              
       



   社長は、心なしか機嫌がよく感じられた。

   理由はわからないが、口元に笑みが浮かんでいる。   

   あれ、そういえば将君以外誰にもあってないけど

   今日は誰に呼ばれたんだろう・・・?




   「そうだわ、あなたに渡す物があったの」   


   

   撮影の後、ビルを出た車の中。

   相変わらずの黒塗りには緊張し、社長がいつ暴走するか

   怯えているところだった。いや、こういう性格の人って荒いじゃないですか。  
 

   落ち着きなさい、でもなく社長は視線をこちらに向けた。

   不便でしょ、と差し出されたのは携帯電話。

   
 
   「いつまでも、翼たちに連絡役させるのも悪いし、

    なにより・・・あなたがこれから必要になるだろうから」



   もちろん仕事用よ、と微笑んだ社長は、何だかとても楽しそうに見えた。

   
       


   「・・・・・・ありがとうございます」





   多数の意味の、お礼だった。

   
   気付かせていただいて

   捕らえてくれて

   仲間をくれて

   自分で考えさせてくれて


   自身の足で立ち続け、誇りが持てるようになったとき

   私は胸を張って笑っていたい。

   を消して、として。