傷付いたって、進むしかない。

   そういって笑ったのは誰だったっけ?

   眩しくて届かないものだと思っていた側に

   此れから私がなるんだから。












     C&F














   つ、ついにきてしまったこの日。

   一部のファンとかにしか知られて無いから、あんまり

   騒がれることはないだろうけど。


   私の演技が全国にお披露目・・・!


   恥ずかしくて、は顔から火が出そうだった。

   朝から挙動不審。

   それもそのはず、出来上がったプロモを観ていないのだ。

   この前の社長といった撮影も謎のまま。

   恥ずかしさと混乱で頭がグルグルする。




   「この挙動不審者貰ってくよ」




   きゃー!という悲鳴をBGMに翼と柾輝が例の如く
 
   をずるずる引っ張っていった。

   
   そして着いたのは、いつもの場所ではなく

   視聴覚室。

   というか今、朝の本鈴がなったんが・・・!

   のツッコミなど気にする様子もなく
 
   翼は堂々とその中に入り、何かをセットする。

   柾輝はを真ん中まで引っ張り続け、席に座らせる。

   
   
   「あの、授業っ、てかここ、」


  

   あの、私は授業があるんですけど。

   ここ使っていいんですか?

      
   の文章にならない言葉にも翼は動じず、さらりと

   言葉を返す。

   
 
   「大丈夫、ここの使用許可も授業に遅れる許可も取ったから」

   「・・・だとさ」
   
  
     
   左隣に座った柾輝は、ぽんぽんとの頭を叩く。

   大きな手は温かかった。




   「今日、あいつらのシングルの発売日だろ」




    
   あと、お前のプロモの。 


   視線で問われて、は頭を縦に動かす。

  
   
   よし、という声と共に翼が右隣に座る。

   手に持ったリモコンを弄ると、電灯が消えた。

   代わりに闇に映し出されたのは、DVD表示。


         

   「玲からのプレゼントだってさ」

 
   

   同時に部屋が音に満ちた。溢れてくる音。

   大きなモニターにはイントロ部分の映像。



   自分じゃなかった。



   そこにいるのは、彼らがイメージした主人公。

   音と映像が合わさって、一つの世界が作り出されていた。
 
  

   
   “白紙の進路 未来なんて見えない
  
    一滴の涙と共に 破って降らす

    灰色の中舞うそれが 雪に見えた”   




   びりびりと進路希望の紙を破って降らしたあのシーン。

   本気の涙は、映像を通じているはずなのに

   とても鮮明に感じ伝わった。
 
  
   走り出すシーン。
  
   演じる前は涙が溢れそうなくらい辛かった話は

   第三者の目として映し出されている。
 
   圧倒される気持ちはあっても、もうそこに悲しみはなかった。

   心は落ち着いていた。        

      

      
   “変わらない場所 風が通り抜ける

    変わったことは 隣に無い笑顔

    君がいない日々は白黒で

    どうして世界は回っているの?

    表情も 心も消えたのに”




   絶望。
 
   本当にこの世の終わりのような表情だった。

   これが演じたのが自分だとは思えないくらい。
    
   
   心から欲し、偽りの無い部分を見せる

   結人の声が心に沁みた。

   色々なイメージではなく、本当の心を必死に伝えようとしているようで

   とても純粋な気持ちを受け取った気分だった。



   画面の中のが立ち上がり、倒れこむように、結人を抱きしめた。

   結人が、笑った。


  

   “もう少し、このまま夢を見させて”     
  
       

 
   涙が出た。

   悲しいのではない、あまりに綺麗な気持ちが届いたから。

   これを考えた結人はどんな想いだったのだろう。


   共感して欲しかった?
 
   慰めて欲しかった?

   かわりに、なってほしかった?      
  
     
   心の脆い部分を垣間見た気がした。    
 



   ふっと部屋が明るくなる。

   柾輝がまたの頭に手を乗せて、軽く叩いた。

   頑張ったな、という無言の言葉が伝わる。


  
     
   「ほら、これ」




   翼はDVDを取り出し、もう一つのケースと共に 

   に手渡す。

   そこに映っていたのは、社長といった撮影の

   背景は、崩れ落ち跡形も無い建物の山。

   廃屋なんかじゃない、瓦礫の隙間からは

   錆びれたパイプや鉄筋が人の手のように助けを求める。

   嫌に蒼い空には、嘘みたいな虹がかかり

   残ったのは、破れ土や血で汚れたセーラー服の少女。

      
   一目見て、あぁと納得してしまった。

   英士さんの歌だ。

   繋がっていた大切な右腕はなくなりもう二度と繋げない。
   
   繋がる相手ももういない。

   CDのジャケットから、英士の叫びが聞こえる。




   「・・・・・・なんかこれ、翼みたいじゃねぇ?」




   柾輝がボソリと呟いた言葉に、は顔を上げる。

   確かに、そっくりだ。

   あのとき被せられたカツラは翼の髪と瓜二つで

   まるで翼がセーラー服を着ているような・・・。



   「?」


   
   そこまで考えて、隣から眼光鋭い眼で

   ものすごく睨まれていることに気付き、と柾輝は顔を見合わせる。

   女顔を気にしている翼にとって、これは禁句だと柾輝が囁く。


   血の気が引いたの頭を、翼はがっしと握った。
  
   痛い痛い・・・!

   涙目になりながら翼に抗議の目を向けると、そこには

   にっこりと飾らない笑顔の翼が居た。




   「上出来」


  

   は顔が真っ赤になった。

   正式に仕事で認めてもらえた喜びと、もう一つ何か違う喜びがあった。
  
   
 
      







   そのまま授業を結構サボってしまった。

   すると二人に電話が入り、翼もも授業に出ることなく

   仕事に行くこととなった。


   
   「ここ、だな」



   電話は社長からで、指定された場所に服がおいてあり

   そこで着替えた。

   制服のままだったので、メイクは違う場所らしい。

   何でだろう、と思ったがよく考えれば女だってばれるからだろう。

   メイクも済まし、言われた時間ピッタリにはそこについた。


   今日の仕事はラジオ番組の出演。

   パーソナリティは結構綺麗な女の人だった。

   入ると同時に挨拶と紹介をされ、こんなことを聞きますよーとだけいわれて

   すぐに本番に入った。

   本番の場所は、人通りの多い場所で、透明の壁で外から

   見えるようになっている上、学生がびっちり張り付いていた。


   き、緊張しそう・・・。



   じゃあ、始めますよーという声と共には眼鏡をはずす。

   おし、もうだ。


   3、2、1・・・。



   「はーいこんにちは、今週も始まりました」


 
   パーソナリティの女性が挨拶を述べる。



   「そして、今日のゲストはあの有名な山口さん須釜さんの下

    横山さんが撮影するブランドC&Fの専属モデル、さんでーす!」

    

   パチパチパチパチ。
 
   外から、きゃあ!と言う悲鳴が聞こえる。

   はこんにちは、と挨拶をすると、外に向かって笑顔と手を振る。
     
  
   緊張してますか?など笠井のときと似たような会話の後

   本題に入った。



   「そういえば、プロモに出演したとのことですが」

   「あ、知ってるんですね!一応秘密裏にやってたんで(笑)」

   「一部にしか知らされてなかったんですよ」

   「でも今全国放送しちゃいましたね。うわ、緊張」

   
   
   今日の本来の目的は、プロモの売り込み。


  
   「初めての経験だったと思いますが、どうでした?」

   「すごい緊張しました。演技なんて初めてだし」

   「私も見たんですが、すごくよかったですよ」

   「ありがとうございます。大ファンの方の

    プロモに出られてすっごい嬉しくて、あの世界を出そうと頑張りました」


   
   結構マイナーな彼らを、メジャーに。

   そんなことよりも彼らの世界を再現したかった。

   出られる喜びと共にその願いがこみ上げた。

 


   「あっ、一つ情報ゲットですよ。さんは彼らの大ファン」

   「大大大ファンですよ、CDとか全部持ってるくらい」

   「予約はしました?」

   「いつもはしているんですけど、今回は出来ませんでした(汗」
   
   「これから買いにいきますか?」

   「いえ、社長からプレゼントされたんですよ!」

   「すっごく嬉しそうです、さん」
  
   「あはは、地が出た。ついでだからいっぱいCMしとこうかな」

   「テンション上がってきましたねー」



   その後、思う存分時間が許す限り、彼らの事を話した。

   あまり緊張はしなかった。

   最後に用意されたプロモとCDのセットにサインを書かされた。

   ・・・サインなんて初めて!


 
   「今週のプレゼントはさんのサイン入りのこのセットです」

   

   にっこり笑ってはそれを外の人たちにみせる。



   「是非観てくれると嬉しいな。プレゼントのご応募待ってます」


      
   ヒラヒラと手を振ると、番組の終わりの音楽が流れ始める。

   外の人たちが名残惜しそうな顔をしている。



   「ではもうお時間です。さんオススメ

    大絶賛のシングル“lost”は本日発売です!」



   そうパーソナリティが締めると、番組は終了した。







   
   終わったあと、どこで着替えようか悩んでいたところに

   携帯が鳴った。

   社長ではなかった。非通知。

   よく考えればまだ全然入れてない。



   「もしもし?」

   「『おっ、!久しぶりだな。今からちょっと時間あるか?』」

   「結人、さん・・・っ!?」

   「『またさん付けしたな、後で覚えとけよ!』」

   「えっ、ちょっ、」

 

   ツーツーツー。

   場所を言付けると、一方的に電話は切れた。


   何で、結人さんが番号知ってるんですか?
  
 
   その疑問を胸に、は前に打ち合わせしたファミレスに向かった。
 
   あぁ、もう外はこんなに暗いのに!

   いつになったら帰れるんだろうか。ドラマが始まるんです、けど・・・。




   
   「よっ!驚いたか!」
 
   「・・・はぁ」

   

   ファミレスにつき、中に入るとブンブン手を振っている結人が居た。

   その隣には一馬。

   悪いな結人が、と言わんばかりの表情だった。   
   

  
   「じゃあ、俺行ってくるから!」
   
   「はぁ?」

   「ラジオ番組!」


   
   一体何のために呼び出したんですかあなたは。

   
   そうつっこみたかったが、本人が居なくなったので溜め息だけが出た。

   そうか、よく考えたら一馬は話すのに向いてないのか。

   ラジオなんて声だけだし、話さなかったら意味ないよね。
 
   結人向き、というわけか。



    
   「お前に、渡したいもんがあって」 

   
   
  
   バツが悪そうに口を開いた一馬が手渡したのは、今日何度も見た

   CDとプロモ。

   ただ一点違うとこがある。




   「サイン入りの初回限定盤・・・・・・っ!」



   そう、三人全員のサインが入ってるのだ。

   中を開くとなにやら紙が入っていたので多分コメント付。


   ふぁ、ファンなら死ねる・・・!


   
   「・・・もう買っちゃったか?」

   「いやっ、これは家宝っ聴くなんて勿体無くて出来ないって・・・!」

   「意味ねぇじゃん」

   「保存用に決まってるだろ!もう一つは聴き倒し用に決定だよ」

   

   喜んでもらえて嬉しい、と英士だったいうんだろうが

   一馬の口からそんな言葉が出るはずもなく、ただ安堵の息を漏らしていた。



   「あと、これ」

   
   
   机の上におかれたのは、一枚のMD。

   はただ首を傾げる。



   「今、新曲作ってるんだけど」


  
   一馬の声に喜びが含まれているように聞こえた。

 
   
   「英士の曲が、明るくなった」



   “懸命に羽を伸ばして 夢をみてたあの頃

    今の自分を胸を張って見せられるだろうか”


   “あの頃の自分に恥じないように

    羽を伸ばすことを忘れた自分を変えていこう

    夢見た場所に自分は立っているのだから

    夢のように輝いて生きていこう”    
  
      

   英士の歌は、この間までと印象違かった。
   
   何曲も何曲も聴いているけれど、こんなに上を向こうとした曲を  
   
   一度も聴いたことが無かった。

   本来なら、変わってしまったら悲しいはずなのに、

   の心は何故か嬉しさで溢れていた。



   “踏み出したんだ

    変わり始めた喜びを

    もう手放すことなど出来ないだろう?
 
    進むことしか知らない僕らは

    所詮 諦めることなど出来ないのだから”



   ずっと自分で生きていくんだ

   一人一人の背中には羽があるのを忘れてた。

   思い出し、再び伸ばした羽は力強くなっていく。