予想もしない展開ばかりが飛び出す
 
   今の生活はまさにびっくり箱。
  
   てんてこまいな生活になろうというのに、なぜか

   心は今まで以上に晴れているんだ。














     C&F










 

   なんということでしょう。

   英士、結人、一馬の三人組が出した最新シングルを聴きながら
 
   仕事も無いので呑気に寄り道していた帰り道。

   
   目の前には、自分のポスターがびっしりって。


   どういうことですか社長!?




   『人気上昇中の“lost”が五十万枚突破!』


  

   「ブッ!」




   すみません汚いですココア噴出しました。

   でも、五十万枚って・・・!



   『彼らの魅力を引き出したPV映像』

   『PVと相まって曲も彼らも人気に』



   雑誌やテレビやラジオ、普段使う情報の場は

   すべて彼らの話題一色だった。


   そして、のことも。

  
   街を歩けば、学生たちは彼らの歌を聞き

   の出ている雑誌を片手に語りだす。

   誰かが言っていた。その歌が彼らを有名にした、と。

   
   インディーズの頃からファンだった身としては

   嬉しい反面複雑な気分もあり、苦笑ともつかない笑みを浮かべるだけ。




   「すごい・・・」




   まさか自分がCDショップの一角に飾られるようになるとは。

   なんとなく居た堪れなくて、はそそくさと家に帰った。


   が、そんな幸せを打ち砕くかのように

   貰ったばかりの携帯電話が鳴り響いた。




   「『?なにしてるの、早く事務所に来てちょうだい』」

   「へ?何ですか社長、急に、」

   「『仕事に決まってるでしょう?』」

 
  

   にっこり笑顔が電話越しにわかってしまうのが凄く恐い。
   
   わからなくていいよ!黒い・・・そうか遺伝ですか。


   その日の仕事はラジオ一件、雑誌三件というハードさで

   は帰るなりぶっ倒れた。












   学校には普通に通えるのだが、今までとは違い

   一日一件などという優しいものではなく、学校にいられる時間が

   とても恋しく感じた。



   「柾輝が癒しだよ・・・うう」

   「お疲れ。凄い人気だな、耳が痛いくらいきいたぜ」

   

   今日もこれから雑誌が二件。

   嬉しいことだけに、疲れたなどといえるわけもない。

   頭を撫でる柾輝の手が温かくて安心する。

   意外と柾輝は人の頭を撫でるのがすきとわかったのよ。



   「あれ、翼は?」

   「仕事。しばらくこないんじゃねぇの」

   「そうなんだ・・・。今までいたのにね」



   いつもの場所にない翼の姿を浮かべつつ、歯切れの悪い返事を返す。

   よく考えたら、大人気のツバサが学校でのんびりしている
  
   余裕など無いのだ。


   いつか登りつめてやる。

   今、はその第一歩を踏み出した程度でしかないのは重々承知だ。

   でもいつか。輝く彼のように。




   「・・・今まで、学校にきすぎてたんだよ」
  

   
   
   急に声のトーンが下がった柾輝に、は眉をひそめて

   え?と聞き返す。

   飲んでいた紅茶の渋みが、喉に張り付いた。



   「それでなくても忙しいスケジュールのくせに

    学校にきてたから・・・。無理しすぎなんだよ、あいつ」



   心配。柾輝の口調からにじみ出ていた。

   大丈夫かな、翼。

   
   そう思ったと同時、今日もまた社長の悪魔の囁きが

   電話越しに伝えられた。








   「調子悪いらしいよ、ツバサちゃん」

   「あのスケジュールだもんねぇ」

   「でも笑顔で頑張ってるよ、けなげだよね」


  
   仕事先のメイクの途中、スタッフの心配そうな世間話を

   耳に挟んだ。

   それはのメイクのときも話題になった。



   「くん、ツバサちゃんにあった?」

   「え、逢ってないけど。どうかした?」

   「いやね、なんかちょっと彼女の雰囲気が違うなぁって」

   「そうなんだ?事務所でも滅多に逢わないしなぁ」

   

   何度か仕事が一緒だったので、仲良くなったメイクさんが

   眉を八の字に下げていた。

      
  
   「まぁ、ちょっと違和感あったくらいだから、気のせいかもね」

   「・・・・・・・・・・・」

   「はい、できた。君、相変わらず肌綺麗だね」




   あのツバサが、堕ちるなんてことはないだろう。

   たぶん気のせいだ。


   雑誌の笑顔も、

   ラジオのトークも、

   テレビのCMも、

   全部いままでと変わらないツバサだったから。



   何か引っかかりつつも、自分にそんな余裕は無い。




   は大きく息を吐いて、現場に入るしかなかった。