迎え撃つ敵はただ一人。
だったら、俺はただ飛び続けるだけだ。
太陽を目指して堕ちていったイカロスのように
ぬかることなく、ちゃんと自身の羽で。
C&F
がスタジオに戻ると、ユンも翼もすでに撮影の準備が
完了するというころだった。
え、と心の中で呟いて、は慌ててユンのところに
歩み寄る。何してるんだ私・・・!
「っユンさ、」
「あ、今日撮った分はもちろん取り直しだから」
にっこり。
まるで境界線を引くように微笑まれて、は言葉に詰まる。
拍子抜けというか、毒気を抜かれたというか。
「は明日またきて。ヨンサに連絡してもらうからー」
「えっ、あぁ、はい」
有無を言わさぬその瞳に、は首を傾げつつも
メイクを落とし着替える為、再びスタジオを出て行った。
・・・追い、出された?
が出て行ったスタジオでは、撮影が再開されていた。
カメラマンもモデルも笑っているのに、のいなくなった
スタジオは異様な緊張感に満ちていた。
「じゃあ、撮ろうか。ピンはあまり使われないけど」
「・・・やだー、一言余計ですよぉ」
さっきのようにはいかないからね。
調子の戻った翼は、花を飛ばす笑みを咲かせる。
少し儚く微笑み、降ってくる花に手を伸ばす。
つかんだら大切に抱きこむ。・・・絶対離さない、花も、夢も。
微笑みながら、落ちた花を大切そうに撫でる。
花弁を摘んで唇を落とす。・・・愛しいものはいつか枯れてしまうのだろうか。
枯らさない方法を自分は知らない。
ただ、精一杯咲き誇るそれに敬意を示し愛でるだけ。
「今度はちゃんとできてるねー」
「・・・・・・・・・」
ふいにユンが話しかける。
静寂が破られても、緊張感は消えない。
「もうすっかり元気になりましたから」
「急に倒れるなんて、よっぽど疲れてたんだねー」
「・・・・・・、すみません」
「・・・それでも、プロのつもり?」
「っ、」
返す言葉がみつからない。
全部、自分の汚点。焦っていた自分が招いた事実なのだから。
「・・・これから、取り返します」
「・・・・・・。楽しみにしてる、とでもいっておこうか」
途切れることなく光るフラッシュ。
自分を輝かせる照明。
雑踏のような忙しさの中、ここだけは別世界。
選ばれた者にしか許されない聖域。
心から欲したもの。
「新人に、輝いてと喝を入れられたんでね」
追われる立場の身として、そんなヤワになるわけにもいかないし。
追いつかれたくも無いんでね。
にっこりと微笑むツバサの目は、しっかりと
ファインダー越しにユンを捕らえていた。
ユンの口が笑みを作る。
「・・・でも、いつまで飛べるのか楽しみだ」
独り言のように放たれた言葉は、核心をつく。
何もぬかっていないつもりだった。
でも、この男にはバレているのだろうか。
モデルとして致命傷の、秘密を。
「っどういう、」
「さぁね?」
心中の読めない男。だからこいつは厭だったんだ。
少しの隙に付け込まれる感覚が奔る。
いくら偽っても、全てを見透かされているような。
笑顔の下に互いの素顔が牙をむく。
笑顔が引きつりそうだった。
上等、と思いつつも笑みを“ツバサ”の明るい表情で
瞳は、挑戦的な翼の眼差しで、目の前の男を睨みつけた。
一歩だって、引く気は無い。
屈するほど俺は弱くは無いのだからと心が叫ぶ。
『輝いてよ!』
何度も反芻する声は心の奥で力となる。