みせられたのは、なくした光。

   その手にすでに持っていたはずのもの。















     C&F












 
  


   翼とユンの仲はすごく悪いようだった。

   なんというか・・・そう、言うならば、相性が最悪。



   「『あ、、昨日と同じ用件。早く来て』」

   「うわっ、えっ、えい、」

   「『毎度同じリアクションありがとう。じゃ、切るよ』」
  


   という会話を朝からし、は家から直接スタジオへと向かった。

   よかった、迎えにきたりしないで・・・!


   






   昨日と同様マニキュアを塗られるかと思いきや

   今日はなぜか塗られず、衣装も昨日と違かった。

   メイクも違う感じで、極めつけに目に何か入れられた。

   


   「コンタクト・・・?」


 

   昨日の続きのはずが、何故?

   
   疑問符いっぱいのままがスタジオに入ると

   ユンがにっこりとした笑顔で待ち構えていた。

   今日はなんと、英士までいる。

   不貞腐れた顔のようにもみえるので、きっとユンが何か

   したのだろうと見て取れた。

   

   「あのー、ユンさん」

   「ん、何?」

   「今日は昨日の続きのはずじゃ・・・」

   「えー、そんなこといったっけ?」

   「・・・・・・・・・・・・」

   
      
   混乱し始めるとにこにことそれを交わすユン。

   見かねた英士が助け舟を出してくれた。



   「・・・昨日の撮影はあれで終わりだろ、ユン」
  
   「うん。あれ、言ってなかった?」

   「にはね」   
 


   三人でいるときの英士もいいけど、ユンといるときの

   英士はなんだか心の奥まで見せている感じがした。

   わがままを言っても、泣いても、感情をぶつけても、

   ユンはただ笑うだけなのだろう。

   英士の前にい続けるユンは、どんな気持ちで進んでいるのだろう。




   「と、いうわけで。僕、君のこと気に入っちゃった」

   「はぁ?・・・あぁ、どうも」

   
 
   話が繋がってないんですが。




   「今日は別のお仕事だよ」




   にっこりとユンが笑うと、英士はスタジオの隅の方へと移動した。

   
   ちょんちょん、とユンはの目を指差す。

   目に入れられた、コンタクト。

   しかしは視力は悪くないし、つけられたものも度は入っていない。  
  


   「・・・あぁ、カラコン!」

   「そう、よく出来ましたー」



   “Dools”という会社の、新商品。

   誰でも気軽に別の色へと変化できる。着替え感覚の色替え。

   
   納得したは、自分の衣装を見て首を傾げる。

   名前がドールズ、つまり人形なのに、衣装が合わない気がする。

   と、そのとき衣装さんに引き止められる。



   「くん、ちょっと待って!」

   「え?」
 
   「ごめんね、この子が衣装間違って渡しちゃって」

   「す、すみません・・・!」



   あぁ、とが納得すると同時、衣装を間違えたというその子に
 
   ふっと笑いかける。

   その子は頭を下げ通しで、ひたすら謝っていた。

   頭に手をのせて、優しく撫でる。

   気にしないで、と小さく言うと顔を上げてくれた。



   「俺はどれに着替えればいいのか、教えてくれる?」

   「あっ、はい」

   

   仕様の穏やかな笑みに、ユンと英士が何か話しているのを

   は肩口の横目で捕らえていた。


   もちろんスタッフの人気は高まるばかりだ。

     



 


 
   再び着替えをするとき、は正直固まっていた。

   

   「これ、本当に着るんですか・・・?」

   

   しかしにっこりと、えぇそうよ!と言われてしまえば
   
   モデルであるには返す言葉などなかった。


   英士が笑いを堪えていたような気がするのも

   すべて思い違いだと信じていたい。




   「わぉー、金髪」
   
   「なんか、違和感が・・・」




   どうやらやはりこのコンセプトは人形。

   カラコン自体がカラフルな色彩なので西洋のイメージ。

   着替え終わり、髪の色まで変えられたが戻ると

   セットもなにやら西洋風だった。

   書斎だろうセットは、アンティークでそろえてあった。

 
   まるで、本の中で見た貴族の住まいや

   避暑地の別荘のような。

  


   「・・・殿下、ってとこかな」



   ユンが、の姿を見て呟いた。


   そう、の今着ているのは黒を主とした

   中世ヨーロッパをイメージした服。

   首や袖元にはフリルがついている高そうなもので。
   
   歴史の教科書くらいでしかみたことのない、王子様の

   イメージにピッタリな服。

   
   瞳は、碧眼。




   「じゃあ、始めようか」




   王子、王子、王子・・・。


   どこかの小説で読んだことがある。

   紳士は身のこなしも指の一本一本の動きまで

   優雅でしなやかで。

   微笑むと、そこには薔薇が咲き誇るかのような

   温かくも華やかな雰囲気が出来上がる。


   想像を精一杯膨らませ、幼心で恋焦がれた   
  
   理想の紳士を演じる。


   壁に寄りかかり、近くにあった本棚から
  
   一冊の本を取り出す。

   それを指の動きに気をつけながら

   読み進める。紙を捲る音がやけに大きく響いた。
  

   金色の髪と綺麗な湖の底のような碧眼の
   
   穏やかな微笑は陽だまりのよう。

   張り詰めたものを溶かしてくれる、温かい王子。




   
   その後何回か撮ると、はまた色を変えられた。

   今度は、銀髪に蒼い瞳。

   衣装は先程よりも王子、という感じの

   茶色の生地に金の縫い取りが施されたフリルも増した服。

   セットは石造りの城だった。

   主としてはゆるやかな螺旋階段。   

   暖炉や本棚、が下の階にあるのが見える。

   

   「・・・片目が紅でもよかったな」



   独り言をもらすと、は階段をのぼる。
  
   振り返って、視線をあわせてみる。

   一番上までのぼると、今度はゆっくりと、一段一段を

   大切に降りてきた。

   
   きっと石造りの冷たい城で、一人きりだろう。   
     
   少し先は暗くてみえないような城で彼は何を望むだろうか。


   世界の破滅?・・・そうだ、自分の世界を壊してくれる相手。

   救世主?・・・そうだ、凍った心を溶かしてくれる相手。   


   誰からももらえなかった愛を、与えてくれる相手。




   
   
   「・・・綺麗なだけで、中身はカラッポな唯の人形」




  
   
   ふいに英士が、そう声をかけた。

   ユンが口の端をあげて意外そうに微笑う。   
   



  
   「綺麗だけど、どこか足りない」





   まるで、誰かさんみたいだね。

   そう付け足したユンに、は視線を奪われた。

    
   違う!と叫びたかった。

   私の人形はただの器じゃない。王子は、みせかけじゃない。

   
   感情を動かす人になりたがる人形たちは、いつも
  
   どこか遠くを見ているけれど。

   本当は、心から欲しているんだ。

   今より汚くなるかもしれない、自分じゃなくなるかもしれない。

   そう思っても、感情を表して笑いたいと

   心の奥で叫んでいるんだ。 
   



   「・・・人間より何よりも素直で綺麗な心を
 
    持っているかもしれないだろ」




   思わず口から出た言葉は、はっきりとスタジオに響く。

   目を逸らさずに言える。正しいと思える。



 
   「外見だけじゃわからない、何かを秘めているんだ」




   人間になりたくて、必死にもがいてるんだよ!




   の声は、まるで映画のワンシーンのように
  
   その場の雰囲気も、人々の表情も変えた。



   










   本番用の撮影は終わったが、フィルムがあまってるということで

   ユンがポートフォリオをねだった。

   もちろん撮られるだけなので、喜んで承諾した。



   「あ」

   
 
   まだ銀髪に蒼い瞳のままだったは、そのイメージにぴったりな

   ワンショットを思いついた。

   ユンさんに駆け寄って、はその考えを話す。

   すると、ユンは満面の笑みを浮かべて、同意した。


   

   「「英士!」」   




   二人の悪戯な笑みの先には、撮影を見学していた

   従兄弟こと英士。

   有無を言わさずユンは計画を実行した。





   「あははははっ、やっぱ似合う!」

   「流石ヨンサだねー。キレイ、キレイ!」

   「・・・・・・・・・・・・」





   満足な二人に対し、めちゃくちゃ不機嫌な英士は

   ものすごく厭そうな顔をしていた。


   それもそのはず、が思いついたのは

   石の城に閉じこもった王子が見つけた、異邦の少女という希望。


   着替えているときに気付いた、

   衣装の中にあった、少女の民族衣装を思い出したのだ。

   もちろんこの場に撮れる少女などおらず

   の計画通り、英士が着ることとなったということ。


   ウィッグの見事な黒髪のストレートロング。

   しなやかなその髪が垂れる肩は男とは信じられないほど細くて。

   桃色の生地にビーズの飾り、裾に刺繍がある服。
    
   頭からかぶるように着るそれに白い下穿き。

   どれも英士にピッタリだった。


      
   「本当は帽子を被ってもらいたいんだけど、」

   「アハハー、ヨンサ超不機嫌だねぇ」

   「だから今は諦めるとするよ」



   とりあえず、英士の機嫌をどうにかしてくれませんか?


   が苦笑すると、ユンはまっかせて!と胸を叩いた。

   すす、と英士に近づいて、肩を抱いた。

   耳元で何か言っているのはわかったが、内容までは

   はわからなかった。



   「(これでもっと売れれば、とまた一緒に仕事できるよ?)」

   「・・・・・・・(バカじゃないの、ユン)」



   しかし英士はスタスタとセットの中に入ってくれた。
   
   一体どんな魔法を使ったの、ユンさん!



   「・・・素直じゃないなぁ、ヨンサは」



   ユンは小さく息を吐いて、カメラの準備を始めた。

   
   すごいなぁ、やっぱ従兄弟って。

   結人や一馬にはできない芸当だよね、これ。



   「早くしてよ、。俺に無駄に長くこんな服着せないで」

   「あっ、はーいはい!」

        
  
   撮影がまた再開された。

   

   は階段を降りる英士の手をとり、エスコートする。

   何回も往復するが、いつでも英士より先に。
 
   降りるときは、一段下で。



  
   希望を手に入れた王子の表情は、輝いて。

   瞳に光が、心に温かさが。

   一番望んだものが今この手に。




   一段上の英士の髪をとる。
 
   今は手袋越しだったが、それはとてもしなやかで。

   軽く口付けると、英士自身からだろうキレイな水の香りがした。

   
  
   「・・・殿下ねぇ」

   「貴女も姫だろう。そして俺は、」

   「・・・?」

   「君を守る騎士でもある。望むなら、俺は君にただ忠誠を誓うよ」


    
   名残惜しく髪を手放すと、英士は手を差し出した。



   「・・・じゃあ、誓って」

   「御意」

      
   
   フッと意地悪い笑みを零し、は英士の手をとって

   細いそれに唇を落とした。


   まるで、お伽話の中のよう。




   何よりも欲しかった、光と愛情を少女は与えてくれた。
 











   「・・・本当は、人間よりも人間らしいのにね」


   
   探しつづけていたものは、初めから自分の中にある。

   きっかけを与えてくれる人を希望と、彼らは呼ぶのだろう。


 
   小さなビデオカメラの内容をチェックしながら

   ユンは、微かに口を笑みの形にした。儚い、笑み。












      
   お疲れ様でしたー、と声が行きかう中

   は着替えを済ませ、覗いた時計の指す時刻に悲鳴をあげる。

   ドラマなんてみれないんだね、もう・・・!


   
   「

   「あ、はい」



   ユンのいるところでは、仕事が終わっても眼鏡はかけない。

   伸びをしつつ歩み寄ってきたユンに、笑みを返す。



   「ヨンサが気に入った理由、わかったかも」

   「はぁ」

   「今日はいいものがみれたよ。あとで送ってあげるね」

   「ありがとうございます。英士の女装なんて、」

   「うん、結人がみたがるよねー」

   


   撮影中も感じたが、ユンの声はとてもキレイな物語のように

   人魚の歌のように響く。



   「・・・ツバサと仕事して、楽しい?」

   「っはい」
   
   「でも、好敵手じゃないよね」

   「?」



   着実に心を蝕む、氷の瞳。




   「君は、男だもんね」




   輝くだけだと決めた羽に、黒い触手がふれてくる。


   少しずつ、少しずつ

   白い羽が染まってく。大きな羽が堕ちていく。