どうしたらいいんだろう。
と、とりあえず社長に相談してみないとだめだよね。
来週くらいなら、多忙な社長も空いてるかな。
C&F
早朝からスタジオ入りして、今日はCM撮影だ。
は欠伸をかみ殺して、準備が出来るのを待っていた。
相手方の都合で、一日で撮るみたいでドタバタとあわただしい。
商品は『With』という名の香水。
フランス語で晩を意味する「ソワール」という黒瓶と、
朝を意味する「マタン」という白瓶の二種類がある。
華やかさよりもやさしく包むような淡い香りが特徴だ。
セットは少し特殊で、床に少し水を張ってあり、その水面には
なんの花かはわからないが、花弁が浮かんでいる。
そして左側には鏡のようなものが置いてあった。しかし、鏡面はない。
2mはあるだろう大きな鏡は、凝った細工がしてあり、まるで白雪姫なんかの
童話に出てきそうだ。
すごい、と思ってが見惚れていると、後ろから不意に声が掛かる。
「うわ、オモロそうやな」
そこにはと同じ衣装を着た、金髪の少年が立っていた。
目が合うと、彼はにっと笑った。
「おはようさん。今日はよろしく頼むで」
「はじめまして、です。こちらこそ」
少年こと佐藤成樹は今日の相方。
端整な顔立ちとその大人びた表情、人懐っこい性格から人気のあるモデルだ。
「それにしてもえらいべっぴんさんやな、自分」
「・・・・・佐藤さんに言われたくないです」
「あら、そう?」
おおきに、と彼はまた笑った。
写真集やDVDも出していて、女性ファンからの不動の支持を得て
最近はタレント活動が主である。
また、現在放送中の出演ドラマで、更に人気を延ばしている。
「、横山に惚れられとるんやってな」
「はい?」
急に平馬の名を出されて驚く。
昨日の突然の訪問もそうだが、平馬は何を考えているのだろう。
自分は、どうしたいのだろうか。
そして、一つ気になるのが平馬が翼に言ったこと。
何を言ったのだろうか、あの後翼はひどく苛立った様子で
そっけなく仕事へ行ってしまった。
「あのモデル殺しに見初められるなんて、大したもんやで」
口の端をあげて、シゲはいった。
天才的でありながら、モデルへの欲求は尽きることがなく
高みを望み、応えられなければ切り捨てる。
人気があろうと、有名だろうと関係なく「あんた、ツマンナイ」の一言で
二度と撮ることはないという。
え、と驚きで目を見開いていると、シゲは愉しげな光を宿して
を見た。
「それに、姫さんのパートナーっちゅうんも、ご苦労やな」
「・・・なんでですか?」
「せやなぁ・・・あのえらい可愛ぇ顔やさかい、な」
熱狂的なのも多いから、といいたいのだろう。
そうするに、ファンからの妬みだ。
俺も前に一緒にやったとき楽しかったで、とシゲは笑う。
「熱烈なラブレターや。刃物入っとったのなんてはじめてやから、ときめいたわ」
シゲとの会話はその後も続いた。
軽快で人の事をよく見ているのがわかる、巧みな話術。
バラエティーやラジオで人気なのもわかる。
「じゃあ二人とも、入ってー」
そうスタッフの声が掛かると、シゲの瞳が変わった。
はなんとなく、シゲの本心は自分を評価したがっているように思えた。
先日もらった台本はもう読み込んだ。
・・・やってやろうじゃないか。
暗めの照明の中、まずはシゲが主人公の「マタン」verから撮影が始まった。
ふらついた足取りでシゲは鏡に歩み寄り、ひどく疲れた表情で鏡に触れた。
その反対側についになるように、も鏡にシゲと手を合わせるように触れる。
シゲは虚空を見つめ、その瞳には何も写っていない。・・・死んだ、瞳。
はふっと微笑み、囁く。
「・・・来いよ」
手を伸ばし、鏡という境界から手だけを出して、シゲの頬に触れる。
「支えてやるから」
頬に触れた手をそのまま耳の横を滑らせるようになぞり、髪をすく。
手触りのいい綺麗な金髪から覗く、耳のピアスが光った。
は微笑みを深くして、諭すように言う。
「俺はいつでも、お前の傍に居るよ」
シゲが誘われるようにとの距離を縮め、その首筋に頭を擡げて
身体を預けた。はその頭を優しくなでる。
数秒間そうしたあと、シゲはふっと身体を起こす。
は消える。(正しくは、映らないように移動する)
だがその手にはの代わりに、白地に黒の細工がされた香水の瓶がある。
それを愛しげに抱え、シゲは幸せそうに見つめていた。
暗い照明の中、朝が来るように上から光がさした。
「俺は、お前の為に在る」
と、そのときの声が編集で入る予定だ。
「カット」
チェックが入り、すぐOKがでた。
さすが、シゲ。
は自分の出来にも安堵した。
しかし、まだこれからだ。
PV以来の演技の仕事。
晩、に訪れるあの淋しさを、はよく知っている。
そう、求めるのは。