まぁ肯定も否定もはっきりさせずに「さすがね」としか
言わなかった時点でやっぱ本当だったんだなー。
まさか、彼女に会いに行ったらいるとは思わなかったけど。
C&F
自室のソファーに寝転がりながら、携帯電話と手に取る。
かけるのは、昔の雇用主。
「もしもし?」
「どうも。横山です」
「・・・最近、よくかけてきてくれるのねぇ」
ふふ、と受話器越しに西園寺社長は笑った。
・・・一般人とか業界の人とかこの人の美しさに悩殺されてるらしいけど
俺、絶対無理。だってすっげー腹黒いの知っちゃってるし。
そう平馬は頭の端で思いながら、本題を切り出す。
「俺、『つばさ』みつけました」
静かに、そう告げる。
これで平馬は自由になれる。この人にかけることももうないだろう。
賭けは、俺の勝ちだ。
「あら、おめでとう」
なのに、西園寺社長はそれをわかっていたようだ。
「・・・随分嬉しそうですね」
「ふふ、そんなことないわ」
「・・・・・・」
「知ってしまったのね、あなたは」
ツバサのことだ。
そう、俺たちはある一つの賭けをしていた。
それはC&Fを設立する前のこと。
そもそも平馬は、西園寺玲社長のスカウトでこの業界に入った。
そして、社長と取引をして、平馬はスガたちと独立したのだ。
取引の内容は
「ツバサ、知りたくない?」
という不思議な一言から始まる。
須釜たちと独立を計画していた平馬はある日、社長室に呼びだされた。
散々撮ってきたモデルの名前を急に出され、首をかしげた。
「いや、別に」
「つれない返事ね。いいモデルだと思うかしら?」
「まぁ、楽ですよ」
要求をいうまでもなく全部勝手にやってくれるし。めんどくさくなくて、ほんと。
撮影もすぐ終わるし、文句の一つもいわないし差し入れおいしいし。
無難、の一言ってとこ。綺麗な人形みたいな感じ。
平馬の心の声が聞こえたかのように、社長はふふと笑った。
「よく知れば、きっと興味を持ってくれると思うのよ」
「・・・・・・恋人なんか嫌です好みじゃないんで」
黒髪が好きですし、と付け足す。
「あら、可愛いじゃない、ウチのツバサ」
「まぁ・・・人気はあるしそうなんじゃないですか」
社長の話の意図が掴めない。
わざわざ呼びされたってことは、多分あの話だろう。
「あ、そうそう・・・横山くん、独立したいの?」
ほら、きた。
内心呟きながら、えぇと答える。
もちろん反対されるだろうから、来週にでも勝手に辞表的なものだして
勝手に独立するつもりだった。
もちろん圧力がかかるだろうがそれでも構わないと思っていた。
しかし、社長は微笑んで意外にも
「いいわよ」
と承諾した。
もちろん、続きはある。
「でも、取引しましょう?」
愉しげに光る瞳が平馬を捕える。
「一年以内に、『つばさ』をみつけてちょうだい」
今考えると、あのとき「つばさ」っていったのは「ツバサ」でははくて
「翼」だったのだ。
音だけじゃわからなかったが、椎名翼のことを知って理解できた。
社長はツバサの中の翼を見つけろといっていたのだ。
つまり、椎名翼をツバサだということに辿りつけと。
「できなかったら、ツバサをあなたの写真集のモデルに起用して」
平馬の実力なら写真集が一冊とは限らない。
そのうちの一つでもかまわないという。
「できたら・・・なんだってあげるわ、私の手にあるものならね」
貴方の望みを私の全力で叶えてあげるわ。
どうかしら?と社長は微笑んだ。
「どうして、ツバサを?」
平馬は面食らって問う。
「時間がないからよ。少しでも長く、高いところに飛ばせてあげるの」
そうか、椎名翼には時間がない。
少年が青年に成長してしまう前に、撮る必要があるのだ。
「・・・俺、ツバサに全く興味ないんですけど」
「だから、取引するんじゃない」
その瞳の真意を、俺は知らない。
それに、と社長は続けた。
「横山くんならみつけられるわ」
誰よりもモデルを魅せる力があるが故に、限界を見つけてしまう君なら。
あぁ、今になってすべて理解できた。
賭けは俺の勝ちだけど、社長は初めから勝つ気なんてなかった。
そう、社長はツバサのメッキが剥がれるのを待っていたかのように思えるのだ。
「社長、賭けは俺の勝ちです」
「そうね」
あのときは何でもくれるといわれても、欲しいものなどなかった。
でも、今は違う。
「がほしい」
望むものはただひとつ、彼女だけだ。
「・・・・・・・・・・・・」
玲は満足気に口の端を上げた。