ちょっと手を離したって、そばにいれると思っていた。
あいつには俺しかいないってわかっていたから。
C&F
あいつがいない日々に、ずっとひっかかっていた。
あのときの表情は、飲み込んでいた言葉は、いったいなんだったのだろう。
それを問いただそうにも、彼女は自分の前から姿を消して居場所もわからない。
誰もが、二人をあわせないようにしているように思えた。
「・・・・・・くそっ」
それでなくとも低血圧で機嫌が悪いというのに、今朝は夢のせいで
拍車が掛かっていた。
「三上、どうかしたのか?」
教室へと向かっている途中、隣を歩く渋沢はそう問うて眉を下げた。
同室のこいつにはわかっているのだろう。もう、長い付き合いだ。
ち、と小さく舌打ちをして三上は息を吐いた。
「別になんもねぇよ」
「・・・そうか。それにしても最近やけにお前注目されているな?」
元々人の目を集める容姿ではあるが、ここ数ヶ月は特異的だった。
オフの日に街を歩けば女に囲まれ、それを抜け出しても好奇の目でみられる。
学校でも周囲の人々は今までと違った目で三上をみていた。
特に今日は視線が痛い。
「・・・俺が何したってんだよ」
小さく毒づいて、三上は嫌そうに渋沢を睨んだ。
昼休みに入って、二人は屋上へと向かう。いつもそこで昼食をとっている。
重い扉を開けると同時に、元気な声が呼びかけてきた。
「あっ、来た来た。キャプテン、三上せんぱーい!」
「うげ」
待っていたのは、藤代と笠井。
いつものメンツであるのに、今日は藤代の声が三上にはやけに煩わしく感じた。
眉間にシワを寄せて、三上は笠井の向かいに座る。
パンを銜えていた藤代はもごもごとくぐもった声で三上に話しかける。
「あのっ、先輩」
「なんだよ」
「朝からずっと女子が騒いでてー、きいてこいっていわれたんスけど」
もちろん報酬ももらいましたけど、とにこにこ笑って三上を見る藤代。
あぐらをかいたその足の上には大量の菓子パンがあった。
・・・買収されてんじゃねぇよ。
「先輩、いつモデル始めたんスかー?」
「は?」
目を丸くしたのは三上だけではない。渋沢と笠井も驚いた表情で藤代をみた。
だってこれ!と藤代は雑誌を開いてみせる。
女性向けのファッション雑誌に載っていたのは、鏡に隔たれた金髪と黒髪の二人のモデル。
近日発売の香水の広告の一ページであった。
「これ、昨日発売の雑誌でー、あと朝CMもやってましたよ」
そこに写った黒髪の男に、四人の視線は集中する。
「・・・これ、」
タレ目の黒髪。整った容姿。
三上は声が出なかった。拳を強く、握り締めるだけだった。
「女子がこのモデル、三上先輩じゃないかって」
藤代がパンをかじりながら話し始める。
『三上先輩』という言葉が示すのは一人ではないことを藤代は
わかっていて、だがあえて気づいていないふりをしていっているのを悟る。
「でも先輩そんなこと言ってなかったし、別人だろうっていったんスけど」
「・・・・・・・・か、」
「最近デビューした新人で、色んな雑誌とかにも出てたし。もしかしたらって思って」
藤代が続ける言葉を遮るように、渋沢が口を開く。
「なぁ三上。これ、もしかして・・・」
「・・・・・・っ」
ずっと、ずっと探してた。
親に聞いても、答えてくれなくて。でも、会いたくて。
ききたいことがあって。
「、ですね。こいつ」
前に取材したことありますよ、と笠井が小さくいった。
この中でその業界とかかわりがあるのは笠井だけだ。
男モデルの、。
しかし彼らが思い浮かべたのは、ある一人の・・・。
「・・・・・・あの馬鹿・・・っ!」
三上は勢いよく立ち上がり、吐き出すようにそういうと駆け出した。
シャッ、シャッと、圭介が鉛筆を動かす音が響く。
会社の圭介専用の部屋にあるソファーで寝転んでいた平馬は
まどろみからふと目を覚ました。
そういえば、って勝手に呼んでたけど、名前あってんのかな。
昔出会った彼女の名前を平馬は覚えていない。
同一人物という確信はあるが、これで名前が違っていたらとんだ笑い種だ。
時々頭を掻きながら必死にデザインを描き続ける圭介を視界にいれて
そういえば、と思い出す。
「・・・な、ケースケ」
「何だよ?・・・あぁ早く次のデザイン出さなきゃ俺絶対スガに強制缶詰させられるっ」
ジュニアの全国大会のとき、平馬たちは同じチームだった。
有名選手でなくても、戦う相手の情報くらいケースケなら知っていたはず。
もう随分と昔の話であっても、もしかしたら。
「ジュニアの全国のときあったろー」
「あぁ、懐かしいな」
「ケースケが俺のこと愛し始めたのはあのときだもんな」
「んなわけないだろうが!」
「ベッドに忍び込んできたくせに・・・」
「あれは寝ぼけてお前が入ってきたんだろ!」
「・・・そんなことより」
確か、あの10番と二人で有名だった。
「双子のMFとFWのコンビって、名前なんだっけ」
「双子?・・・あぁ、準決で九州に負けたとこか」
「そう、タレ目の」
「目立ってたよな。女の子の方がずば抜けて上手くて、MFと息があってて」
「しかも可愛くてケースケも千裕も見惚れてた」
「ねぇよ!記憶を改ざんするな!覚えてるからちょっと待て。確か、えぇっと・・・」
圭介は少し考えて、あぁ、と手を打った。
「三上兄妹」