緊張しまくってますが、

   心臓の音が聞こえないくらいですが、
 
   自分が一体今どんな感じなのかわからないですが、     


 
   目の前にいる人に圧倒されていることはわかります。














      C&F

















   あーあ、捕まっちゃった・・・。


   呑気にそばのカップをゴミ箱に捨てたあの人は

   悠長にそれはマイペースに欠伸をした。




   「・・・・・てことで、俺は横山平馬な。よろしくー」

   「どこが“てことで”なんですかぁ、横山さーん」
    
   「おぅ、ツバサじゃん。久しぶり」

   「相変わらずマイペースですね、絶対B型」

   「新人がきてる?あぁ、言ってたな。で、こいつ?」

   「は、はい。はじめまして、です・・・」

   「ふーん・・・男モデル、ねぇ」




   完全に噛み合ってない会話の中、どうやら

   平馬に紹介されたらしく、唖然とするばかりだ。

   平馬は少しを見た後、また翼に視線を戻す。

   それを確認すると、翼もにっこりと笑顔で話を戻した。
 


 
   「ブランドの説明とか、そういうのは一切無しですか?」

   「めんど・・・」


 

   何なんでしょう、この人のやる気のなさ。
  
   横山平馬という名前を聞いた瞬間、は固まったというのに。

   雑誌で見たのと全く同じ顔、名前。
  

   元々は重大で世界に認められた天才カメラマン。

   今回は友人との発案でC&Fというブランドを設立。

   自ら専属カメラマンをつとめる。 
 
   服をデザインするのは友人で、テーマを決めるのは横山。

   話題性抜群の、新ブランド。



 
   「えーっと、もう着替えてメイクもしてあるか」

   「横山さんが撮るだけですよ」

   「一応説明しとくけど。C&Fは“Cool”&“Fly”とか

    CとFから始まるテーマによって毎回変わる。

    男も女も関係ない、そんな服、雑誌にするつもり・・・らしいよ」




   例えば、と平馬はの服を見る。


   どこかの制服のような黒のすらっとしたパンツ。

   サイコロが連なるチェーンが腰についていた。意外に足が長く見える。

   上は学校のワイシャツみたいなものに、スペードやクラブの柄が入っている。

   所々破けていて、下に着ている黒いTシャツが見える。

   首にさげるのシルバーアクセは、手につけたものと同じ

   細い鎖のものと、南京錠。

   銀の重みを感じて、高価そうだな、とはアクセを撫でた。
   
   今は着ていないけど、ブレザーもあって

   それにはたくさんの缶バッチがついていた。  

   



   「今回のテーマは“Creation”&“Free”。創造と自由」 


  


   その証拠にほら、と次に平馬が指したのはツバサの服。 


   ツバサの服もどこかの制服を改造したようなものだった。

   レースをつけたり、重ね着したりとポップに元気な女の子に。 

   と翼の服は対になっているような、そんな感じだった。     


 


   「・・・・・もうわかっただろ?始めるから早く」



   お手並み拝見といくか・・・。そう、平馬の視線が物語っていた。

   緊張と高揚感が混じる。背中に一筋冷たい汗が流れた気がした。




   たった少しの言葉から感じて、考えねばならない。

   この人の、思っていることを。


   そうだ、もう私は“”じゃない。 

   私・・・いや、俺は“”なのだ。

   思いっきり、精一杯やることができるんだ。



   は大きく息を吐くと、カメラの前に立った。

   隣には、ツバサ。まずは二人での撮影だ。




   「ちょっと表情堅い、

   「はい」

   「次、視線はずしてみて」

   


   パシャ、パシャ、と音を立てて撮られる。

   それと同時に光るフラッシュ。本格的なセットが光って見えた。


   息を吐いて、カメラに集中する。

   ツバサと一緒だと考えると嫌でも緊張してしまう。

   それを頭を振って払い、適当なポーズをとっていく。

   心臓は、先ほどよりも強く打っていた。
 

   
   「・・・落ち着けよ、もっと意味を考えて楽にやれ」

   「・・・・・・わかった」

   「表紙だからな。頑張れよ」


 
   笑顔やポーズをとりながら、翼が小声でに話しかける。

   そうだ。

   今、自分は憧れたツバサの隣に立っているんだ。

   パートナー、なんだ。

   ではない、という違うモデルがツバサといるんだ。

   



   スッと、何かが弾けた感じがした。





   そう心の中で呟くと、自然に笑みが浮かんできた。

   ちょっとパンクにしたり。元気にしたり。

   意味深にツバサの方に流し目したり。

   小道具にカラーを持って微笑んでみたり。           




   「これでいい?」

   「・・・・・・上々じゃないの?」




   他に平馬の指示通りにツバサと絡んでみたりした。

   男、女などの性別などなく、そこにあるのは築き始めた信頼だった。     

 
   今回のテーマ、創造と自由。

  
   簡単に意味を砕くとつまり・・・、



 

   「「自由に創り出せ!」」
   




   の考えていることが伝わったのか、翼の口から   

   同じ言葉が出てきた。

   二人の声が重なった。気持ちも重なった気分だ。


   平馬がカメラ越しに口の端をあげた気がした。


 
   
  









   もういいよ、と言われ、次は一人の撮影。

   女である自分が、売れなかった自分が、通用するのだろうか。

   不安はあった。だが、今は撮影の気持ちよさが勝っていた。

   服を着替えたときにはもう、迷いは掻き消えていた。




   「どうやら、緊張はなくなったみたいだな」

   「・・・とても楽しいですよ」

   

   臆することなどない。

   “”は誰からも好かれる、明るい男の子。

   笑うことが苦手な“”とは違う、笑顔の眩しい人。   

   

 
   「あいつ、ちゃんとできてんじゃん」



  
   紅茶を飲みながら見ていた翼が、小さく呟いた。

   男のときと、女のときの存在の強さが違う。

   本人は気付いていないことを、平馬は感じているのだろう。




   楽しい。

   撮影は、カメラはこんなに面白いものだったのか。

   いつもならありえない心情。

   男の格好をしただけで、自分じゃなくなれる。

   


   「それにしても、って小さいな」

   「失礼だな、成長期が来るんでいいんです!」

   「・・・別にそんなに怒ることないだろ」

   
   
    
   平馬は途中途中で話しかけてきて、とても楽しかった。

   ファインダー越しの視線が心地よかった。

      


   型にはまった自分にはもう飽きた。

   誰でもない“俺”だから。

   その意思表示をしようじゃないか。


   そうさ、  
     
   男も女も関係ないだろ。
   
   男は男物、女は女物、そんな普通は破っちゃえ!     
  




   「・・・・・どうやら、今回のテーマをそう捉えたんだな」


   
  
   型通りの制服、

   スタンダードな組み合わせ、

   破いて、汚して、片方を変えて、色々改造し放題で、

   表したい“自分”色にしよう。
 



   「これが、俺です」




   眼鏡を取って、カメラの前に立ったらもう、私は“”だ。
 
   完全にやってやろうじゃないか。


   翼がいったことが判る気がする。

   違う自分がいるのはとても気持ちが良い。

   自分ができないことももう一人ならできる。

   こんなに楽しめる。

   そのためなら、私は頑張れる。

  


   ・・・・中途半端は、自分の心が許さないから。


























   翼の撮影に、やはりは圧倒された。

   一つ一つの仕草が、可愛らしさ、個性を出している。

   全神経をレンズに向け、一気に被写体に入る集中力。

   女の子の憧れであるあの笑顔。

   プロ、という感じがした。



  
   あっという間に撮影は終わり、はメイクを落としてもらい

   先ほどツバサに借りた服をもう一度着る。
  
   今日はどうやら自分の制服では帰れないようだ。

   息を吐き、眼鏡をかけたところに、翼がきた。



   「お疲れ、

   「あぁ、ツバサ。お疲れ。やっぱ可愛いね」

   「口説き文句?ありがと、嬉しい」



   てっきり本来の言葉で返されると思っていたものが

   女言葉で返されたので、背筋がぞわっとした。

   お互い本性を知っているのだから、何故・・・?と首を傾げる。


   そういえば、まだ周りにはスタッフがいたのか。

   だから自分も翼の服を着ていたのだった、と思い出す。

   翼も撮影前の服に着替えていた。



   長居する必要はないので、翼に急かされて

   は控え室からバックを掴み取った。



   
   「あー、

   「は、はいっ」



   部屋を出たところで平馬に話しかけられ、はビクッと反応してしまった。   
     
   先ほどまでの度胸は一体どこにいったのだろう。


        

   「意外と面白いね、お前」

   「はぁ・・・」

   「・・・・・・・・。・・・これから長い付き合いになるだろうけど、よろしく」




   意味深に間をあけた平馬の発言。

   ちょっと引っかかったが、は気にせずにこちらこそ、と返した。





   「・・・・まぁ、発売を楽しみにしてろよ」
 

  


   ???



   ヒラヒラと手を振って去っていく平馬の言葉を残し、無事に撮影は終了した。




   どうやら、逆転生活の第一試練は乗り越えられたようです。