よくよく考えれば、撮影に成功したとしても

   本当に大切なのって、読者の反応でした。














      C&F












   




   朝から心臓がバクバクいっている。

   受験の時の感じ。どうなんだろう、どうなんだろう・・・!って

   ずっと落ち着かない。学校に着てからも、挙動不審だった。


   来るまでにも電柱にぶつかるし、

   トラック3台バイク5台の計8台に轢かれそうになるし、

   よく命があったなぁ、としみじみ思う。


   そして、がらりと開けた教室のドア。

   いつもと同じところなのに、いつもと違う。





   実は、あの撮影から一週間以上後の今日は

   ・・・・・・言われていた、C&Fの発売日なんです。






   「・・・・・・・・どうしようぅ・・・」





   ブカブカの青い縁の伊達眼鏡がずるずると下がる。

   教室にはもうほとんどの人がいて、周りから声がするたびに

   はビクビクしていた。心臓に悪い。


   バレる?バレちゃうのもう!?

   
   今まで人気のなかった自分が売れるなんて無いよね。

   しかも男装だよ?隣にツバサがいたって無理無理。
    
   ・・・・そりゃあ、楽しかったですけど。


  
   
   「ねぇねぇ、見た、これ!?」

   

   
   教室中に響くような高い声。

   いつも雑誌を持ってくる中心の子。

   ちなみに、椎名翼さんのファンクラブ会員番号03です。


   その人の声に教室中にいた女子が集まり

   机の周りに人の囲いができた。

   は我関せずにしたい・・・!と必死に視線を逸らす。

   

   「それ、今日発売のC&Fじゃん!」
 
   「えっ、嘘、みせて!私まだなんだっ」
 
   「やぁ〜!ツバサ可愛いv」 

   「これ近くのコンビニの最後の一冊だったんだぁ、いいでしょお」

   「うっそ!昼のついでに買おうと思ってたのに!」

   

   きゃっきゃ、という感じ・・・なのだろうか。

   ツバサのパートナーのオーディションが発表された日もこんなだった。

   雑誌をもって叫ぶ女子。
  
   興味なさそうに見えて実は興味深々で一人買った奴に群がる男子。


   クラス全員が審査員のようでは小さくなる。

   合格発表なんか聞きたくない。でも、それも定め。


 

   「そういえばさぁ、ツバサのペアって誰になったの?」
      
   「みればわかるよ。私もまだ見てないんだ」


 
   ファンクラブ会員番号03がパラ、とページを捲っていく。


   ドクン。
 
   ドクン。


   耳はダンボ状態で、は泣きそうだった。


   

   「な、」


   
   バレる?もうやだ!今日びの中学生たちは辛口なんだから・・・!







   「何この人、超かっこよくないっ!?」


    

 

   ・・・・・・・へ?




   
   「ホントだ!誰なの、これ」

   「だって。知ってる?」

   「知らなーい!あ、新人だって、同じ事務所の」

   「え、かっこいいんだけど、マジメに!」




   先ほどまでツバサに向かっていた高い声が

   一気に黄色い声に変わる。

   きゃっきゃ、に近かった声はぎゃー!とかキャアアア!に近い。

   


   ・・・・えっと、これは。



 
   「どんな人かと思ってたけどさぁ、この人なら合格!」

   「ってか有望じゃん?チェックしよ、私v」

   「うわ、出たよこいつの早モノ買い」

   「でもホントかっこいいねぇ」




   緊張の糸が途切れたは、そのまま机に突っ伏した。

   にやける口元と嬉しい気持ちを抑えることなどできずに。
 



   





  





   一日とは実に早いもので、あれよあれよと昼の時間。

   午前の授業なんて全然頭に入ってない。


   認めてもらえた。

   期待の新人、そういってもらえた。

   初めて読者に褒められた。

   
   嬉しいことばかりで、朝とは違う意味で上の空だった。
   

  
  

   「ねぇ、今日ってはきてないの?」





   キャアアアアアアアアアア!!



   そんなの思考を現実に戻してくれた黄色い声。
 
   その声を出させた主は実に不快そうに眉間に皺を寄せていた。

   もちろん、耳に手を当ててである。

     


   「・・・・・・・。相変わらず煩いね。というか質問に答えてくれる?」

   


   冷静に・・・少し苛立った様子で椎名翼は言葉を続ける。

   だが、ファンクラブ会員が多いの組では、まともに言葉を紡げる

   普通の思考回路の人などいなかった。


   翼は溜め息をついて、周りが総無視でつかつかと歩いていく。

   そう、歩いてくる。

   歩いて・・・? 




   「なぁ、さん?その耳は飾りなのかなぁ、きてるなら言ってくれなきゃ」

   「へっ、あっ、すっ、えっ」

   「・・・・通じる言葉を話してほしいね、全く」


 

   ぐいっと手を引かれて立ち上がらせられると

   翼はも周りも無視してそのままずるずるといつもの場所まで引きずり続けた。







   すみません、痛いです・・・けど・・・っ。






   その言葉をが言えたのは、いつもの場所で柾輝に苦笑されたときだった。
 
   もう腕は開放され、翼は一番上で、

   その下に柾輝、その下には座っていた。

   いくらなんでも遅すぎた・・・。
 
   過去の事を文句言ったことになり、それでなくとも

   おかしい日本語が更におかしくなった。
    

   

   「全く、なに放心してるわけ?」
  
   「えっ、えっと、その、」

   「はい深呼吸」

   
    

   すー、はー、すー、はー・・・。




   「落ち着いた?」

   「え、はい、まぁ」

   「・・・・・。ほら」


 
   バサリと音を立てて、柾輝との間に何かが降ってくる。

   あ、C&Fだ・・・。


   そう思ったときに頭に衝撃。

   がん、ごん、がごん。

   三連打で降ってきたのは、パン2つとパックのお茶。

   ありがたかったけれど、同時に頭も地味に痛かった。



   「乱暴に扱うなよな、翼」

   「だってこいつ起きてないみたいだし?」

   「あのなぁ・・・」



   頭をさするの上で二人が話す。柾輝の苦笑がみずともわかった。

   というか、もう昼休みだったのか。

   それすらわかってなかった自分が馬鹿だと思う。

   

   「お前、パンでよかったか?」

   「あ、うん、ありがとう柾輝」

   「いいって。いつもおにぎりだったみたいだからよ、平気か?」

   「平気。わぉ、アップルパイに焼きそばパン!」

   「苦手か?」

   「ううん、大好物!よく知ってたね」

   「あー・・・」


   
   柾輝は意味深に視線を逸らした。
     
   すると上からゴホン!というわざとらしい咳払い。




   「で、はこれを見たわけ?」

     


   これ、とはもちろんC&Fのことだ。

   今はちょうどと柾輝の間にある。


   は焼きそばパンを銜えつつ、雑誌を手に取る。

   裏返しになっていたそれを表に戻したと同時にはふご!と叫んだ。

   焼きそばパンは落としてない。


  
   ひょ、表紙!本当に表紙になってるよ、これ!
  
   
   表紙はツバサと共にコブシを前に突き出したもの。

   ツバサはちょっとおどけた表情で、はニヤ、という感じの黒い笑み。

    
   恥ずかしくなって、急いでページを捲った。




   「どうよ、感想は?」

   「・・・・・・・っ」

  

   言葉が出てこなかった。

   あのときのほとんどが映っていて。

   平馬のおかげだろう、写りが凄いよくて。


   まるであのときの時間をそのままくりぬいたような。


   とても、綺麗だった。生き生きしていた。
 
   自分じゃないようだった。

   本当に“”ではないのか。でも、本当に全然違う。

   
   自然に笑みが出た。

   楽しかった。嬉しかった。自分のピンも多かった。

   あのツバサと同じくらいの量だった。


   今までだったら、ありえないことだった。





   「・・・まぁまぁ、かな」





   はっと顔を上げて翼の方に振り返る。

  
   にっ、と翼が笑った。

   柾輝も微笑っていた。




   ・・・・認めてあげるよ。



   そう、本当に言われたみたいで嬉しかった。

   読者にも、こうして翼にも認めてもらえた。

   それが心だけでなく形になった。

   一冊の雑誌だけど、にとってはそうではなかった。
   




   よく考えると、椎名翼のときの笑顔を初めてみた。

  


  
   予鈴と共には教室に戻っていった。

   その足取りは軽やかで、顔は幸せに満ちていた。







   「・・・・・・。・・・なぁ、柾輝」

   「何だよ」

   「・・・じゃなかった、ってどこかで見た気がしない?」

   「そうか?」

   「ほら、特に表紙とか」

   「? 気のせいだろ」

   「何か、微妙に誰かに似てる気がするんだよね・・・」 

  






   というわけで、デビューは無事成功したようです。


   誰も男ということを疑わなかったしね!