対談ってさぁ・・・バレるんじゃないですか?

   私そんなに度胸無いんですけど。



   「バカはバカなりにやれってことだよ」



   兄ちゃんの言葉を思い出すと何だか大丈夫な気がした。

   ブラコンじゃないですよ、たまたまその言葉で励まされるだけで。














      C&F















   大きく息を吸って、ふぅ、と深呼吸。
  
   よぅし。俺はじゃない。

   
   自分に言い聞かせる。

   不安が押し寄せてくるから、必死に振り払う。




   「はじめまして、です。今日はよろしくお願いします」

   「どうも。笠井竹巳です、こちらこそ」

   


   事務的な挨拶を交わし、は左側に座った。

   ちょうど絵になる角度だろう。

  
   机にはアイスティーが一つずつ。模様の入ったグラスが綺麗だった。

   笠井が一口お茶を飲むと、担当の人が満足そうに笑った。




   「じゃあ、私は撮影だけするから。二人で自由にね」
 
   


   はい、と笠井とが返事をする。




   「早速、始めようか」




   緊張する。

   慣れない人と話すことの苦手なにとって対談はキツイ。

   しかし、今はなのだ。

   として、イメージを作っていかなければならない。

   一度決めたことを途中でやめるなんてこと、したくない。

   

   
   「今回はあのツバサとのペアとして話題の

    期待の新人、さんの内面を暴いちゃいましょう」

   「暴いちゃうって・・・」

   「大暴露、ってよりいいと思って」




   暴かれちゃったら命が無いんですが・・・!

   
   パシャ、パシャ、とツーショットの対談シーンがカメラに収められる。

   薄っすら笑みを浮かべるけれど、愛想笑いにすぎない。

   やっぱり、あぁいうカメラの前じゃなきゃダメなのかな・・・。

   慣れかとも思うけど、どうも居心地が、ね。



   「・・・・・・・・・・・・・・」

   「・・・・・・・・・・・・・・」   


   

   の切り返しが悪いのか、沈黙が走る。

   た、対談なのに沈黙ってやばいんでないか?

   そうは思うけれど、いまいちなにをやっていいのかわからない。

   というか目の前でカメラを向けられているのに、自分のことを話せるほど

   は図太く・・・いや、社交的ではなかった。

  

   そう、“”は。

 


   「・・・そんなに緊張しなくても、別にとって食いはしませんよ」

   「えっ、あぁ、わかってるんですけど・・・どうも、ね」

   「人見知りする方なんですね」

   「・・・みたい、です」



   うまくやらなくちゃ。

   そう思うたびに空回りする。




   「あー・・・なんだろう、カメラがいけないのかな?」

   「そういうわけじゃ、」

 

   は少し頬を紅くして、手を振る。



   「いいのいいの、そういうところも発見できたわけだし」


   
   随分ポジティブなものの捕らえ方だ。



   「これ置いていくね。あとで編集するから」


   
   そういうと、担当の人はボイスレコーダーを置いて

   個室から出て行った。


   微妙な沈黙があって、知り合いと二人きりという
  
   なんともスリリングな事態には息を吐いた。


   いや、逆にやりやすいんじゃないか?


   ここでのイメージをつけておけば、を思わせることなど無いだろう。

   ものごとは前向きに。それがの考え方だ。




   「続けようか。さんは中学生ですよね?」

   「はい、これでも中学三年です。幼く見られるんですけどね」

   「あぁ、じゃあ先輩ですね」

   「何のですか・・・?でも敬語は苦手なんで、普通にお願いします」

   


   だから、バカはバカなりにやればいいんだ。




   「じゃあ、質問といこうかな」

   「いつでもどうぞー。なんかドキドキする」
 



   今までと同じでいい。

   翼や柾輝と話しているとき、一番良いのは兄ちゃんと話しているとき。



   「デビューのきっかけは?」
  


   い、言えねぇ・・・・っ。言ったら殺される・・・!

   適当に話を作ればいいのか。  
  

   
   「社長に声をかけられて、です。ナンパかとドキドキしたよ」

   「どこで?」

   「今の事務所の傍です。あなた、ちょっといい?って社長が」

   「確かにナンパっぽいね」

   

   カラン、と氷が融けてグラスから音が鳴った。
  


   「一旦仕事から離れるよ。趣味は何かある?」

   「伊達眼鏡を集めてます」

   「伊達?ということは視力はいいんだ」

   「ちょっと自慢な位いいよ、1.5くらいあると思う」

   「・・・・・。今日は確かオレンジだったよね、眼鏡」

   「楽しい気分というかそういう気分の日は、オレンジ」

   「いつもかけてるの?」
 
   「仕事中は外してる。なんとなく」
  
   「他に何か趣味はある?」

   「あとはー・・・・・・秘密です」



   でもいい、でもいい。

   も元は同じだ。として、を出してもいい。

   


   「えっと、典型的な質問。好みの女性は?」  
  
   「うわ、やっぱりきた!苦手なんですよ、こういうの」



   心の中で渇いた笑いを浮かべる。

   女の私が女の子好きッていうのもなぁ・・・。




   「女の子は苦手?」

   「そういうわけじゃけど・・・。最近全く恋愛してないから」

   「してない、ってことはしたいんだ?」

   「そりゃあ。だって、恋愛してるときって幸せだから」

   「それって女の子だけじゃないんだ」

   「俺の場合は幸せ、かな。あ、でも恋愛してる女の子は確かに可愛いよね」

   「そうかな・・・・・・?」

   「・・・女の子に興味ないのって、笠井のほうじゃない?」
  
   「で、好みの女性のタイプは?」   
 
   「うわ話逸らした。えっと・・・その人自身を見通せる人、かな」

   「それはどういう意味?」

   「そのまんま。見た目だけじゃなくて中身も見て。

    いえないでいることとか誰も知らないような本当の自分を理解する人」



 
   例えば、ツバサが翼であるように。

   あの笑顔の下の言葉が通じるような。

   態度だけで、言葉だけでわかった気でいるような人じゃなく

   飲み込んだ言葉をわかってくれる人。



   
   「随分細かいね・・・あれ、もしかしてそういう人いるの?」

   「いないって!そんなに簡単に見つからないだろうし」

   「そうだね。じゃあ、嘘は許せる派?」
  
   「仕方が無くとか事情があるなら。傷付けるための嘘は嫌だな」

   「まともな意見。自分もつかない?」

   「あんまり。上手じゃないし、なるべくつきたくないかなぁ」   


     
   まぁ今、実際、嘘を幾つもついてるんですけど・・・。

   仕方が無い嘘、ってことで。



   「嘘は、されてやなことに入る?」
 
   「入る、かなぁ。一番されて厭なのは嫌がらせとかですけど、あと悪口」

   「体触れられるとかは平気?」
   
   「スキンシップは平気!」



   自体はあまり得意ではないが、本当に仲がいい相手なら平気だと思う。

   はもちろん、大好き。セクハラは無理かも?・・・でもするのは好き。



   「一番幸せ、と感じることは?」

   「何だろう・・・笠井は?」

   「好きなことしてるときかな。意外と難しいね」

   「ホント。俺は・・・仕事があるとき!周りの人が褒めてくれたらめっちゃ幸せ」
  
   「・・・それは暗に褒めてっていってるの?」

   「違う!寝てるときとか幸せだし。四月馬鹿の日に巧く騙せたときとか嬉しい」

   「・・・・・・・幸せって人それぞれってことかな」

   「それ、ちょっと失礼じゃないか?」



   器用にやれ、なんて誰が言った?普通でいいんだ。




   「あ、これは確信かも」

   「営業用ってことでいいのかな?」

   「・・・素直なのは結構だけど、慎んでくれると嬉しいよ」

   「・・・・・・・・・・」



   いつの間にか自然に言葉が出ているに気付く。

   考えることなどしていない。

   ただ、普通に親しい人と話すように。



   「ツバサと組んだことについて・・・どうだった?」

   

   笠井の目がちょっと細められた。

   微かだったので、普通は気付かない程度だったが。

   真剣、ということなのだろうか。真意は不明だ。


   しかし、この質問がにとって一番答えやすい。

  

   「えっと、凄く嬉しかった。憧れというか素敵な人だなぁ、と思ってたんで」

         

   “たんで”の部分を少し強調する。

   いや、だってまさか我が道を行く椎名翼とは思わなかったから・・・。



   「・・・さん、もツバサファン?」

   「でいいって。うーん、ファンっていうか目標?」

   「なるほど」



   あんなふうに見ている人を笑顔にできるあの表情、笑みが

   とても、とても、美しく見えたから。



   「決まったときは急だったしわけわかんなくて、」

   「混乱した?」

   「そりゃあもう!え?え?とかずっと言ってた」

   「普通はまぁ、そうだろうね」
   
   「だってツバサちゃんだよ?こんな凄い人が俺の隣にいる・・・!みたいな」

   「撮影のとき、緊張はした?」

   「はじめなんてガチガチだったよ、表情も強張るし」

   「そういえば、カメラマンは横山さんでしたよね」

   「あの人にカメラを向けられて、隣に翼ちゃん!もう運使い果たしたって」

   「この世界・・・モデルの夢なのかな?」

   「夢だね!覚めないでって願ったよ、素で」  



   見事に実話だ。

   笠井とは知り合いだがこんなに話したことは無かった。

   
   
   「あぁ、もうこんな時間・・・じゃあ最後に一つ」

   「えっ、もう?」

   
  
   ボイスレコーダーの録れる量も残りわずかだった。
   
   (もちろん、今までの会話も量の関係で省略してあります)



   「これからの意気込みをどうぞ」

   「そうだな・・・まだまだ未熟だけど、ツバサに相応しいような

    みんなに認めてもらえるようなモデルになりたいです」



   翼だけではなく、ツバサと同じところへ。

   あの場所へ行きたい。



   「他にやってみたいことは?」

   「うーん、CMとかやってみたいとは思うけど、モデルだけで手一杯」

   


   ピピピピピピピピピピピピピピピ。


   が嬉しいような苦笑のような笑みを浮かべると

   ボイスレコーダーから音が鳴った。

   もうこれ以上録音できません、ということだ。



   ということは、

   

   「はい、ありがとうございました!」



   今日の仕事は、無事終了した。










   ありがとうございました、と周りに挨拶するとは眼鏡をかけ

   店の外に出た。   

   ホッと安堵の息を吐く。

   すると店の扉が軽やかな鐘の音を鳴らし開かれた。中から笠井が出てきた。

   気を抜いていたところだったので、ぎくりと緊張する。



   「、ちょっといい?」

   「・・・な、何か用?」
  
   「あのさ、ちょっと気になって。失礼だけど、初対面・・・だよね?」

   「え、あぁ、そうだけど」

   

   気付いたのだろうか。

   今まで特に疑った様子もなかっただけに、の体が強張る。

   しかし笠井は少し考えた後、眉間を押さえて首を振る。



   「・・・・ごめん、今の忘れて。多分俺の気のせいだから」
    
   「いーえ、別に気にしてないけど」

   「本当になんでもないから。変なこと言ってごめん」

   「いやいや、いいって。今日は楽しかったよ、またな」




   そういうと同時には手を振って小走りで帰っていった。

   これ以上ここにいたくなかった。        

   
   社長の考えていることがわからなかった。







   プルルルルルル・・・。



   「あら、久しぶりね。・・・えぇ、いいわよ、喜んで」


   社長は赤い日が差し込む中、一人クスリと微笑んだ。  

   





   どうやら、今までどうやっても出せなかった本当の自分を

   “”という仮の姿で出せたようです。