えっと、朝一番に下駄箱のところに翼が立ってて
昨日の社長とそっくりの笑みを浮かべたかと思うと
教室に行く間もなくズルズルと引きずられているって
どういうことでしょう?
C&F
やっと手を放してもらえたのはいつもの場所。
定位置に座ると、先程と同様ににっこりと微笑まれた。
うわ、めっちゃ可愛いこの笑顔・・・っ。
だ、だ、だって、ツバサのときと同じ笑顔で、学校じゃやらないしっ。
「可愛いとか思っただろ、今」
「ひぇっ、そっんなことは・・・っ」
「顔に出てんだよ」
一気に男仕様に戻る。
勿体無いなぁ、と思っていると軽く睨まれたのでは苦笑を返す。
いつもなら助けてくれるはずの柾輝は日当たりのいいけど床の冷たい
翼さんの後で雑誌を顔の上に乗せて寝ていた。
夜遅くまで起きていたのだろうか、起きる気配すらない。
「・・・あ、あの、一体何の御用でしょうか・・・?」
「何そんなに怯えてるのさ。それに、敬語やめろって言ったよね」
「えっ、はい、だって」
「・・・・・・別にとって食おうとしてるわけじゃないんだから」
昨日の笠井と同じ台詞にドキリとする。
三単語くらいでどもってしまうのは、の昔からの癖だ。
驚いたときとか、慌てたときとかすぐにこうなる。
「いい知らせだから、落ち着きなよ」
「い、いい知らせ・・・?」
「お前に、仕事。しかも二件」
「仕事!?」
なんて嬉しいことだろう。
オーディションを受けることもなく、名指しでなんて!
受けては落ちてたのでこれは感動ものだ。
「玲が言うの忘れてたからってさ」
「そういえば、昨日も突然だった・・・」
「昨日?」
「あ、えと・・・昨日、対談の仕事があって」
「・・・へぇ、よかったじゃん」
笠井のことを思い出して、少し動揺しているに気付いたのだろうか
翼は少し間をあけた。
「・・・で、仕事っていうのはこれ」
言葉と共に渡されたのはメモ用紙。
書かれているのは社長の直筆だった。マニアに売れそう・・・。
内容は、
「ざ、雑誌が二件!?」
「・・・落ち着け」
「あ、この雑誌両方知ってる!ふぇー・・・本当にこれ?」
も知っていた結構有名な雑誌、“ELAN”と“Pieces”の雑誌。
“ELAN”は男向けの雑誌で“pieces”はどっちもだけれど
どちらかというと女の子向けのもの。
大勢の人に認められるようで嬉しかった。
「・・・・あのさぁ」
「はい?」
「喜んでるところ悪いんだけど、その撮影がね」
「・・・・・・・・・まさか」
「そのまさか。これからだから今すぐ行け!」
「へっ、あっ、はいぃッ!」
として通った命令の声には背筋をピンと伸ばして
立ち上げると、ダッシュで駆けていった。
ふぅ、と翼はそれを見送ると、バッグから雑誌とファイルを取り出す。
雑誌は昨日発売したものだ。
「まったく・・・玲の奴、連絡くらいしとけよな」
そう呟くと同時に後から、くくっと堪えた笑いが聞こえた。
それに反応し、翼が片眉をあげて振り返る。
「・・・・・・野暮なのは嫌いなんじゃなかったの?」
「なんのことだか」
「何、笑ってるのさ」
「いいや、別に?」
笑いの主は一人しかいない。
さっきまで後ろで寝ていたはずの柾輝はむくりと起き上がると
顔に載っていた雑誌を床に置く。
少し機嫌の良さそうな柾輝に比べ、翼の機嫌は悪くなっていく。
ツバサのとき飛んでいる花の代わりに、今はどす黒いオーラが飛んでいた。
「つーか、の奴サボり扱いになるんじゃね?」
「平気。俺が言っといたから」
「・・・・・・知ってたか?キューピーって、ツバサのファンなんだぜ?」
「・・・気が滅入ることいわないでよね」
二人して一気に嫌そうな顔になる。
翼の柾輝に対する不機嫌も飛んだようだった。
「社長も社長で、何でスケジュール言わないんだろうな」
「わざとじゃないの?」
「翼に言わせなくても、電話かメールすりゃ一発だろ?」
「・・・・・・の奴、ケータイ持ってないんだ」
「・・・マジかよ」
「大マジ」
はぁ・・・という翼の呆れた溜め息がその場に木霊した。
今日は珍しく仕事は午後からだった。
学校に来ていることが珍しいことだったのだが、にバレたときから
学校にも行けるようになった。
というか、玲に行かされるようになった。
「いいのかよ、翼」
「何が?」
「せっかく学校きてんのに、全部サボリで」
「・・・いいよ、疲れるし」
朝、をココにつれてきて用件を言って
そのまま翼たちはここにいた。もうすぐ四限目が始まるくらいだろう。
パラ、と雑誌のページを捲る。
「・・・・・・。翼、それ」
柾輝がパックのお茶を飲みながら問う。
今まで柾輝は違う方を向いていたので、翼はその視線にぎくりと反応した。
それを隠そうと、必死に冷静を装う。まったく、翼らしくなかった。
「それ、の奴が言ってた対談のじゃ・・・」
「たっ!たまたまだよ、玲に渡されたの!」
あまりみない翼の動揺と矛盾した言葉に
思わず柾輝は吹き出しそうになった。
やべ、ツボと気管に入ったかも・・・ッ。
「今日発売だったんだな」
「っ、みたいだね。ほとんど読んでないけど」
「・・・・・・、対談でどもらなかったか?」
「一度もどもってないみたいだよ、大丈夫みたい」
言ってから、はっと気付く翼。
柾輝は珍しく確信犯。
「それはよかったな。で、対談相手って」
「〜〜〜。笠井だってさ、武蔵森の」
「・・・・・・・・・」
柾輝がわざと口を噤む。
すると翼がその沈黙に隠された笑みに気付き
きっと柾輝を睨みつけた。
おぉ恐・・・とおどけてみせるが、珍しく動揺した翼の顔は
恥ずかしさからか少し紅くなっていたので全然凄みがない。
くくっと喉を鳴らして柾輝は笑った。
「いいって、もう。随分詳しいところまで見ているんだろ」
「・・・笑うな」
「無理、アンタ珍しく動揺するから・・・っ」
「柾輝?」
「はいはい悪かったって・・・っ」
肩を震わせて笑いながら言われても、説得力がない。
堪えきれるもんなら堪えてみせるけど・・・無理。
どうやらこいつは、意外に自分のペアを気にいっているらしい。
まぁ、波瀾なんてものはそんなとこにやってくるものだ。
俺もは結構気にいってるけどな。
今はいわないでおくとするかな、翼が怒るからよ。