今ではもう、伝説みたいな感じになってるけど。
 

     あのとき実はかなり恐かった。楽しさもそりゃあったけど。

     たくさんの仲間が死んだ。私のいた部隊は私以外全滅だった。

     苦しそうに、一生懸命叫んでいた。表情に、瞳に、恐怖が映っていた。




     「・・・・・・先、輩・・・ぃっ」

     「や、だ・・・ぁっ死に、た、くない・・・・!」





     助けてあげたかった。巨大虚の大群なんて手に負えないだろう。

     新人もたくさんいた。そんなに大変な任務じゃなかったから。

     なのに。なのに。   
       
     気配を消せるそいつらに、皆やられていった。


     私だってまだなりたてだったんだ。

     十一番隊に入ったばかりだった。先輩たちはたくさんいた。

     私より強い人たちだって何人もいた。


     最後の一匹を切り捨てたとき、自分に跳ね返った血より

     自分が切りつけた虚の血に混じった

     仲間の血が、仲間の亡骸が。目に焼きついた。

     自分の全身に付いた生臭い血の匂いが仲間のものだと思うと、気が狂いそうだった。

     四番隊に即刻伝えないと。ふらふらと立ち上がったけどわかっていた。



     ミンナ、死ンデル・・・・。     


          


     「・・・・・・・・ごめんね。ごめん。護れなかった。

      私しかいないのに。護れなかった。ごめん。なん、で、だろうね・・・・・っ」


 




     あぁぁぁぁぁあぁあぁぁぁああぁぁぁ!!!!


   
     どうしようもない思いには叫んだ。

     嗚咽が混じった、その叫び声に空気が震えた。



     ごめん。ごめん。

     あんなに慕ってくれてたのに。みんな笑って帰るだけだったのに。

     帰って隊舎で手合わせして、そのあと飲みに行こうか。

     さっきまで、そういって笑っていたのに。





     「・・・・・・・・・・・・・・ぬかったな」

     「!」





     今にも膝をつきそうな状態だった私の背後から
   
     最後の一匹だと思っていた、倒したと思った、虚が襲ってきた。

     斬魄刀さえ握っているか怪しい状態だった。悲しく、虚しくて。

  
     確実に、やられる・・・・。
  
     目を瞑り、攻撃を覚悟した。死を覚悟した。





     「・・・・・・・ひゃあ、こらァまた」
 
     「い、」
  
     「射殺せ『神鎗』」





  
     死のかわりにきたのは、虚の絶叫と自分の体を支えてくれる大きな手だった。

     目を開けると、そこには綺麗な銀髪。

     冷たく、強い霊圧。

     羽織をまとった隊長とその斬魄刀。羽織には三の文字。
  
 



     「よう頑張ったなァ、

     「・・・・・・っ・・・市丸隊、長・・・・・・ッ!」





     
     抱えきれなくなった感情を、市丸の胸で解き放った。    

    
     凄く頼もしかった。心強かった。

     尊敬、した。











         あの頃の面影は











 

     なのに、なんででしょう。



     あれから数年が経った。私はあの後、席官に昇格した。

     心の傷は、きっとかさぶたになっているだろう。





     「これから暇やろ?ちょーっと、お茶してかん?」

     「遠慮します。仕事中ですので」

     「大丈夫大丈夫。剣八からの書類はこれで全部なんやし」
    
     「じゃあその書類で仕事をして下さい、市丸隊長」   
 
     「休憩くらいしても平気やって」

     「私これから手合わせがあるので。だいいち、私は十一番隊ですから」
   
     「そんなこといわんて、ほらお茶菓子もあるで。好きやろ?」


   
  

     このしつこく言い寄ってくる男は。

     紛れもなく、三番隊隊長なのに。私がかつて憧れた人のはずなのに。





     「また今度お誘いください。吉良君が困ってます」

     「平気やて、僕仕事終わってん」
 
     「じゃあ何で、吉良君は後で縄持って睨んでいるんでしょうね?」

     「きっとそういう趣味なん、」

     「馬鹿なこと言ってないで仕事してください仕事ッ!」





     イヅルはにお茶を出すと、そのお盆を握り締めて怒鳴った。

     これが、三番隊の日常なのだ。




     「なァ、少しくらい休んだ方がええよ?」

     「隊長は休みすぎです。次は六番隊にいかなきゃいけないので。

      長居すると、他の人に迷惑が掛かると思いますので。では失、うわぁっ」

     「そんなこと言わんで、ちょっと付き合うて」



     
     即刻と立ち去ろうとするの体をさっきまで正面に座っていた

     ギンの腕で捕らえられる。

     さっきまで、確実に座っていたのにもかかわらず

     ギンはの隣に立ち、その体を強く抱きしめている。




     「いつの、間に・・・!ちょっ、離して下さい!」

     「厭に決まっとるやん。やらかいなァは・・・ええ匂いやし」

     「変態ですか・・・・ッ!」


 
   
     じたばたと暴れようと考えるが、相手は隊長格。

     そのような無礼をするわけにもいかず、はただ叫ぶのみ。


     それをわかっていて、ギンはこうして抱きつき、

     そして行為はどんどんエスカレートしていく。思い通り、に。



  
     「んー、じゃあギンって呼んだら離してもええで」

     「隊長は隊長です、呼べるわけないじゃないですか」

     「せやったらこのままやな。・・・・・、痩せたみたいやねェ?」

     「・・・っ、どこ触って・・・・!」
     




     の抗議の声と同時にバンッ!という痛々しい音が響いた。
 
     そして開放感。

     ホッと息を吐いて見上げると、イヅルがお盆を掲げていた。

     



     「痛ァ・・・・何するん、イヅル」

     「それはこちらの台詞ですッ。ここをどこだと思っているんですか!」
  
     「あ、ありがと吉良君・・・」





     助かった、はもう一度息を吐くと愛しのイヅルに

     お茶菓子貰ってくよ、と笑って三番隊の詰所から出て行った。

     後ろでは、イヅルの説教が続いていた。















     持ち帰ってきた茶菓子を机の上において、薄い束になった書類を持って

     はまた十一番隊舎を出た。




     
     「・・・・・・恋次、いますように」





     そう呟くと、は六番隊舎の中に入っていった。

     執務室への扉を軽くノックして、中に入っていった。


     あぁ、恋次・・・いて、お願いだからいて。

     朽木隊長だけだったりしたら、もういたたまれないよ。

     それでなくても十一番隊はいい印象がないんだから。




     「阿散井副隊長いらっしゃいますか?」

     「あぁ、さん。恋次さんなら奥に」

     「ありがと理吉君。蛇尾丸でたくあん切ったのは忘れてないよ」 
   

  


     あはは、と笑っては奥の方へ進んだ。
  
     朽木隊長は不在のようで、緊張感が薄かった。





     「阿散井副隊長ぉ・・・・起・き・て?」





     奥で突っ伏して寝ていた恋次の耳元で乱菊の声真似をして名前を呼ぶと

     ビクッと体が震えて、少し間があってから

     不機嫌そうな顔で恋次が起きた。眉間に皺がかなりよっている。




     「・・・じゃねぇか」

     「はい、書類。阿散井副隊長に届けてくれって頼まれちゃって」

     「団子おごりで、か」
  
     「ビンゴ」    
 
     「・・安いなお前・・・・・」
  
     「隊長がいないことをいいこと惰眠を貪ってるよりいいと思いまーす」

    


     勝ち誇った顔では言い、同時に書類の束を恋次の机の上にのせて

     その横に自分も腰掛けた。




     「そういえばさぁ。恋次はこんなに体力馬鹿なのになんで六番隊なんだろうね?」

     「お前、喧嘩うってんのか・・・・ッ?」

     「だってそうじゃんか。朽木隊長はお堅過ぎるほどの人なのに、

      なんで副隊長はこんなにカラッポなのか謎だよ全く」

     「カラッポとは何だカラッポとは!」

     「事実でしょう!報告書とかは全然溜めてないってきくけど、字は全く上手とはいえないし!
 
      しかもすぐそうやってキレる!十一番隊のほうがあってるっての!」

     「うるせぇ、お前には関係ないだろうが!」

     「あるよ、大有り!あんたのせいで私まで引き込まれそうだったんだっつーの」

     「・・・・・・マジかよ?」

     「嘘に決まってんじゃん、オモシロ刺青マユゲ副隊長」
 
     「こっんのやろーッ!!」

     「きゃー、阿散井副隊長が襲ってくるぅっ、私の純潔を奪う気ねこの強姦魔ぁ!

      誰か助けてください、このままじゃ犯される夜の相手になっちゃいますぅぅぅ!!」

  


     誰がお前なんか喰うか!どんなゲテモノ趣味だ俺は!

     ゲテモノって何さ、光栄に思いなさい。しかも私は先輩でしょうが言葉を慎め!

     自分で普通に話せって言ったんだろうが!

     そうだったっけ、まぁいいよ。とにかくゲテモノを撤回しろ!変なくらいにしとけ!

     それでいいのかよ!     



    
     なんてやっていると、理吉が笑いで薄っすら涙を浮かべながら

     二人のところにやってきた。



 
     「あのー、盛り上がってるとこ悪いんですけど」
  
     「何、理吉君もそう思う?ありがと、仲間ね」

     「人の話聞けよ。何だよ理吉」

     「恋次さん、朽木隊長に頼まれていた書類、いいんですか?って隊員が」

     「・・・・・・・げ」





     恋次の顔が、一気に凍りついた。

     理吉はやっぱり終わってなかったんだ・・・と小さく息を吐いた。





     「やべぇ!これ持って行かなきゃいけねぇんだった」     

     「・・・なーにィ、恋次は私と仕事で仕事を取るんだァ」

     「当たり前だろうが!」

     「そう・・・・私を捨てるのね。あの夜はあんなに激しく思いをぶつけてきたのに・・・!」

     「そ、そうなんですか恋次さんッ?」
    
     「誤解を招くような発言をすんな!理吉も信じてんじゃねぇ!」

     「誤解だなんて・・・私は真実を述べているだけなのに」

     



     恋次をからかうのは楽しい。

     もっと遊んでたいのになァ、と心から思う。

     しかし、恋次としては周りにいいように解釈される為、やめて欲しい。
    
     怒鳴るように、いいかげんにしろ!と言おうとした。




     が、





     「ん!・・・やばいっ」

     
 
     
         
     が突然立ち上がったので、それは実行されなかった。

     そんなことを気にすることもなく、はきょろきょろと、周りを見回している。

     疑問に思い、恋次も霊圧を捜してみると、微かだが
  
     隊長クラスの霊圧が感じられた。

     しかし恋次には誰のものだかわからなかった。


 

     「誰かきたのか?」

     「・・・・・・・・・!」




     どうやら、には誰が来たのかわかるようだった。

     その表情はやっちゃった、といった感じと

     関わりたくない、というのが感じられた。  



       
     「・・・おい、?」

     「い、・・・・・・・・・・!」

     「い?」
   
     「・・・・・・・ごめん恋次、また今度ね!」




     へ?と恋次が聞き返す間もなく、は恋次の前から消えていた。

     どうやら本気で逃げて行ったらしく、瞬歩まで使っている。
   
     相変わらず、速いな・・・。





     そう思っていると、後から声がした。
    
     




     「なァ、六番副隊長さん。が此処に来んかった?」

    




     さっきの霊圧は、この人だったのだろう。

     ギンは息一つ乱さずに、を追いかけてきたのか。

     あのバカみたいに足が速い、を。     





     「・・・・・・たった今、出て行ったところです」

     「そうかァ、行き違いになってもうたか。ありがとなァ」

     「いえ・・・」





     というか、たったそれだけのために

     この人はわざわざ六番隊舎まで来たのか。

     も大変だな、と恋次は内心同情した。本気で。

     
     くるり、とギンは方向を変え、恋次に背を向けて

     帰ろうとしていた。

     しかし、そうそう・・・と、その首から上だけを恋次のほうに向けた。



   
     
     「・・・・・・・に手ェ出したらアカンよ?僕、何するかわからんから」



 

     真っ黒い霊圧を強められ、恋次はただそこに立ち尽くして

     ギンの背中を見送ることしかできなかった。 
     
        
 



     ・・・・なんとなく、が逃げたのが恋次には判った気がした。