まったく・・・市丸隊長は凄い。
昨日だってちょっと恋次をからかったらやってきた。
いつもそうだ。恋愛話になるとあの人はやってくる。
おかげで昨日は、隊舎に戻ることなくそのまま帰宅してしまった。
「・・・・あーあ、怒ってるだろうなァ。剣八さん」
はのんびりと歩きながら一人ごちた。
十一番隊の書類なんて他の隊に比べたら少ないのだろうけど
実質はと弓親でやっているので結構辛い。
しかも弓親は気分が乗ったときにしかやらないし、他の人が
書類を破る以外に使う姿など想像できない。
「あ、」
「おはよう弓親。いい天気だねぇ」
隊舎に近くなったところで、弓親が歩いていた。
は駆け寄って、隣に並んで歩く。
「なに年寄り臭いこといってるのさ。昨日はどうしたの?」
「・・・・市丸隊長から逃げた」
「それはお疲れ」
弓親は明らかに他人事のようにいった。
言い返すとどうせ他人事じゃないかといわれるのでやめておく。
どうせ、隊舎の扉が目の前にある。
入って剣八さんに癒してもらおう。そういえば、昨日イヅルに貰ったお菓子食べてないや。
「おっはよーござーいまーす!いい天気だ、稽古しよう!」
サボってる奴をさり気なく睨みながら自分の机のところまで歩いていく。
どうやら剣八さんはいないようだ。残念。
と、机の上に
「な、な、な、ないっ!!」
黒白のつけかた
ない。ない。
の机は綺麗だ。というより物が無い。
書類がこれからの机にのせられていくが、今は筆と紙以外ない。
あるはずのものが。
「何でッ?私置いてった、確かに」
引き出しの中を探っても、無いものは無い。
大声を出しながら捜すに耳を軽く塞ぎながら弓親がやってきた。
「煩いね・・・。一体どうしたって言うんだ?」
「な、無いのさ!イヅルから貰った茶菓子が!」
部屋中に響くその声に、奥の椅子で寝ていた体がギクッと動いた。
それを見逃すはずも無く、弓親が冷たく声をかける。
「ねぇ、一角。昨日美味しそうに食べていたよね」
「くっ、食ってねぇよ!」
「醜いね・・・往生際の悪い」
「あんた、また私のもの食ったのッ!?」
「食ってねぇっつってんだろ!副隊長じゃねぇのか?」
「・・・・・・、一角の机の一番上の引き出しあけてごらん」
「了、解!」
「あー勝手に弄るんじゃねぇ!わかった、悪かった、俺が食ったって!」
その声と同時には一角の目の前まで詰め寄る。
他の隊員ががやがやと騒ぎ出す。
せっかく、せっかくイヅルがくれたのに。
イヅルはいつもが食べれるように茶菓子を置いていてくれる。
それも、の好物ばかり。ちゃんと別に置いてあるんだ。
確か昨日のは少し遠いところにある店のものだった。
イヅルが、自ら足を運んだかもしれないのに。美味しそうで楽しみにしてたのに。
「おい、どういうつもりだよ、一角。人の机の上にあるもんだろうが!」
「落ち着け、人格が変わりかけてんぞ」
「大丈夫、落ち着いてる。今、頭の中で
あんたをどうやって殺ろうか冷静に考えてる最中」
「それは冷静っていわねぇっつの!」
「十二番隊に送ってやろうか、骨の髄まで研究されてこい」
「だ、大体、机の上におきっぱなしなんて腐るだろ。だから食ってやったんだよ」
「それはいらない親切をどうもありがとう」
薄く微笑むと、は腰の斬魄刀の柄に手をかける。
ジャキ、と音が鳴った。
明らかに目がマジなので一角は一歩退いた。
弓親は溜め息をつきつつ仲裁に入る。・・・仲裁といわない気がするが。
「・・・・やるなら執務室以外にしてよ」
「当たり前。ここは十一番隊らしく刀で勝負!」
「上等だ!やってやろうじゃねぇか!」
「私が勝ったら、大和屋限定の豆大福買ってこい!」
というわけで移動。
もちろん隊員たちもついてきて、どっちが勝つかに賭けている。
「それじゃあ、どちらかが倒れるまで。・・・・早めに終わらせてよ」
「「おう!」」
声と同時に一角と、二人は木刀を握りなおした。
言葉よりも刀で語る、それが十一番隊。ってね。
あのすっごく美味しい豆大福、絶対胃袋に入れてやる!!
へへ、とは窓の桟に座って美味しそうに茶菓子を頬張っていた。
もちろん、豆大福。
「あー、美味しい!」
幸せそうにもう一口を口に入れる。
隣には弓親が椅子を持ってきて座っていた。
その手にも、豆大福。
「いいのかい、僕まで貰って」
「断然オッケー。こんなに食べられないしね」
そういうの膝の上にはたくさんの豆大福。
大和屋のは限定なのにたくさん入っているんだ。おすすめ。
といっても、イヅルに教えてもらったんだけどね。
口の中に広がる美味しさをかみ締めていると、蹴飛ばすように
扉を開けて剣八が入ってきた。
「・・・・・・お前、また大福か」
「隊長もどうですか?一角が買ってきたんですけど」
「に負けてですけどね」
またか、と剣八は心の中で呟いた。
どうせまたの菓子を食べたのだろう、莫迦が。
その証拠に一角が少し離れて苛々している。反対には上機嫌。
「あれ、やちる副隊長は?」
「あぁ?俺の背中に、」
「いないですけど」
「いないですね」
「・・・・・・・あの野郎」
剣八は溜め息を一つつくとチリン、と鈴を鳴らして
窓から出て行った。
お願いですから急に出て行かないで、大福が落ちるかと思った。
「やちる副隊長がいないとなると・・・・どうするよ、この大福」
「でもまぁ、もう無いし」
「えっ!弓親そんなに食べたのッ?」
「そんなわけないだろう。ほら」
よく見ると窓の下に恋次がいた。
走り去っていくが、その手にはちゃっかり豆大福。
どうやら弓親が渡していたらしい。いつの間に。
「いつの間に・・・」
「隊長と話している間」
「食べれないなら言えばいいのに」
・・・言っても、どうせ食べさせるかもしれないけど。
飲み込んだの言葉をもともとわかっているようで、弓親はさらりと言う。
「何個食べたと思ってるんだい。太って醜くなりたくないからね」
「・・・・・・私に対する嫌味か」
「いや、いいんじゃない太らないみたいだし」
残りはあと二つ。
は一つを手にとって、また頬張る。
こんなに美味しいのに・・・・いくらでも入りそうだけど。そんなに甘くないし。
「・・・・・・それより、あれをどうにかしたら?」
「へ?」
弓親はお茶を音を立てずに啜って、一角の方を指差した。
苛々とした様子で鬼灯丸を触っている一角は
言っては悪いけど、敗者らしかった。
人のお菓子を食べた罰だ、ざまあみろ、と言いたくはなるが
罪悪感というか・・・せっかく美味しいものを食べているのに
幸せじゃなさそうな人を見てられないというか。そんな一角を見たくないというか。
「一角ー」
「・・・・何だよ」
「大福一つあげるからこっちおいで」
「いらねぇよ」
「こい」
にっこりと微笑むとその後ろにあった黒い霊圧を感じたのか
渋々、といった感じではあったが一角は窓の桟、つまりの隣に寄りかかった。
よろしい、とは笑って膝の上の大福を手渡そうと、した。
した、である。あくまでも。
「あれ、最後の一つは・・・・?」
「あぁ、これ?」
しれっとした感じで言ったのは弓親。
さっきまでお茶を飲んでいたかと思うと、豆大福の最後の一口をいれていた。
ごちそうさま、なんてのんびりとしている。
な、なくなっちゃったじゃんか!
一角は何も言わずにただ黙っている。
怒ってるだろう。見せ付けるように弓親が食べたのだから。
・・・・あ、そうか。
「・・・・・これ食べな、一角」
「はぁ?これ、って」
「私はもう飽きちゃった。食べすぎ食べすぎ」
一角の目の前に差し出されたのは、が先ほど一口食べた豆大福。
くっきりと食べた分だけ欠けている。
「どうしたの。ほら?」
ほら?といわれても・・・・。
一角は思いっきり溜め息をつきたかった。
「・・・・・いらねぇよ」
「嘘だ!苛々してたでしょうが」
「してねぇよ」
「食べ物を粗末にするんじゃない!」
そういうと同時に、は一角の口に豆大福をつっこんだ。
やった、といった感じのはお茶を入れに
部屋の奥に走っていった。
そのの様子を見届けた後、弓親と一角は顔を見合わせた。
クス、と笑った弓親に対して、一角の顔が心なしか赤い。
役得じゃない?と弓親が呟いたことをは知らない。
今日は珍しくギンの霊圧は感じられなかった。