市丸隊長の目撃情報が増えてきている。

   まだは遭遇していないが、最近めったに会わなくなったので
 
   油断はならない。なにより十一番隊員がみているのだ。

   そして噂によると、イヅルが無理やりさせていた仕事を
 
   藍染隊長が手伝ったおかげできれいさっぱりなくなったとか。



   ちょっ、藍染隊長の莫迦ー!

   腹黒なのわかってるから直接はいえないけどさ!

   なんで三番隊の仕事量減らしてるの!手伝っちゃだめでしょ!

   ・・・なにより、市丸隊長を自由にしないで下さいよ!



   「け、剣八さーん・・・」

   「んだよ」

   「弓親知りませんか?」

   「知るか」

   「そんなぁ・・・。ち、ちなみに剣八さん?」

   「書類運びなんざやらねぇぞ」

   「・・・ですよね」




   は両手に抱えた書類を見て、ため息をついた。

   いつもは小さくて可愛らしくて強くて愛らしいやちる副隊長の
 
   笑い声すら聞きたくないほど嫌な気分である。

   どうして三番隊かなぁ・・・。




   「・・・そういや弓親が土産に上物の酒買ってくるとかいってたな」

   「っ!今すぐ行ってきます!私が戻ってくるまで飲まないでくださいね!」

   


   言うやいなや、は瞬歩まで使って即行三番隊舎まで向かった。


   





     



 
     番犬注意?












   三番隊舎の前で大きく息を吸って、吐いて。

   何度も深呼吸を繰り返してから、中に入った。

   ・・・うわ、するよ。めちゃくちゃするよ、あの人の霊圧。

   
   背中に冷や汗をだらだらかいて逃げ出したい気分だったが、弓親が

   わざわざ土産といって買ってくる酒といわれては飲まれるのは惜しい。

   みんな酒豪なのでちんたらしていたら全部飲まれてしまう。

   それに弓親のことなので味も当然ながら、酒瓶も凝ったものが多く
 
   はその中から気に入ったものをいくつかもらっているのだ。



   「・・・さん?」

   「ぎゃっ!・・・って、イヅルー!」

   「お届け物ですか?いつもありがとうございます」

   「ううん、イヅルの顔もみたかったし、いいの」



   そういうと照れたように笑うイヅルに抱き着きたい気持ちを

   おさえながら、隊長室へと向かう。

   うわー行きたくないー。



   「大丈夫ですよ、大分落ち着いてますから」



   まるで飼い猫のように自分の隊長のことをさらっといったイヅルは

   ノックをしてから扉を開いた。
   
   その手にも書類があったので、の持っているものよりも重要なものだろう。




   「イヅル!なんやもう戻ってきたんか・・・」

   「書類です」

   「なァ、今聞いたんやけどな。知っとるか?が髪結うたんやて!」

   「はぁ」

   「なんやその反応!あのがやで!細い首筋に白いうなじ・・・絶対綺麗やったろな」

   「・・・はぁ」

   「ボクがここにこもっとる間にそんな素敵なことあったんやで!少しは罪悪感を、」

   「感じません。そして仕事してください。近況報告したらする約束でしたよねっ」

   


   ・・・中に入らなくてよかった。

   は隊長室の前で二人のやりとりを聞きつつ固まったままだった。

   このまま逃げ出そうかな、と思ったそのとき。



   




   「なんや、おるやん!!!」








   ぎゃあああああああ!!

   は思わず悲鳴をあげた。

   声と共にギンがを思いっきり抱きしめていたのだ。   




   「このぬくもりが恋しかったんや・・・」

   

    
   背中や腰に回された細いが逞しい腕のせいで、逃げることも叶わない。
   
   耳元ですんすん匂いを嗅がれても、むなしい抵抗しかできない。




   「は、な、し、て、く、だ、さ、い!!」

   「厭や」

   「セクハラで総隊長に訴えますよ!?」

   「しないくせに。あ、ちょうどええわ。、髪結うて?」

   「厭です。私不器用ですし」

   「なら、ボクが結ったるわ」

   「余計厭ですっ!!」

   「せやかてボクがあげた簪使ってくれんやもん、寂しいわァ」

   「だったらお返しします、から」


 

   ギンが話すたびに耳に息がかかってくすぐったい。
 
   それに、冷たい彼の体温を感じるこの体勢が冷や汗かくほど嫌なくせに

   恥ずかしさから熱くなる耳が厭でたまらない。


          

   「それに、こんなにきれいな髪なんやし、いじったらんと・・・」



  
   ギンの指がゆっくり動いて、の髪をサラ、と梳いた。
     
   


   「っ」


 
   
   ただ梳かれただけだというのに、無性に恥ずかしい。
 
   というより、市丸隊長がやるとエロい。手つきがいやらしいのだ。

   むしろこの人自身からありえないほどの色気が出ているといっていい。



   
   「い、市丸隊長・・・っ!!」



   いっ、いつもならここでイヅルが助けてくれる・・・!

   






   はずなのに。   












   「・・・って、イヅルがいない!」

  



   目の前でニコニコ上機嫌のわけはそれか。
 
   え、ちょっと待って、私売られたわけじゃないよね?

   イヅル所用で呼び出されたとかそういうわけ?え、ちょっと殺生な!




   「、いつもと違う香りやね」

   「へ?」

   「誰ンや」




   ぐるぐると葛藤していたを戻すような、低い声。
 
   そしてそのまま、くん、と鼻を髪から耳、首筋まで鼻で少しずつ

   なぞるように嗅いでくる。
  
   ん、とギンは小さく呟いて、顔をあげる。


 
   「これ」



   もうリアクションするのも、疲れた。

   それに先日昼寝の最中に寝込みを襲われた疑惑が晴れないので

   相手をすると調子に乗りそうで怖い。

   はため息交じりに答えた。



   「・・・市丸隊長のじゃないですか?私結構三番隊舎に来ますか、ら・・・!」

   
     

   !!!



  
   「ボクと同じ香りなんて、可愛ぇなは!」




   もう我慢できへん!
 
   してないでしょ!!



   そんな言い争いの中、は悲鳴をあげながらまた抱きしめてくるギンを

   本気でひっぺがそうと最大限抵抗する。

   ・・・いっそ鬼道くらい使っても死なないよね?


   ってか誰か助けてー・・・っ!!

  

   
  



   ガチャ、と扉が開く。






   「おい市丸、ここにの奴きて・・・」






   ・・・・・・・・。

   ・・・・・・・・・・・・・・・・。







   「・・・何してんだ、お前ら」




   チリン、と鈴の音とともに呆れた、大好きな声。
   



   「みての通りです剣八さん!助けてくだざいぃぃぃぃ!!」



  
   の必死の叫びに、呆れ顔の剣八は一つため息をつく。

   そしてそのままずかずかと歩いてきたと思うと、二人をひっぺがす。

   はそのまま剣八の肩に荷物のように担がれた。




   「・・・持って帰んぜ」

   「そんな殺生な!」

   

   ギンの叫びも空しく、剣八はそのまま三番隊舎を後にした。


  

   「ありがとうございます!さすがです・・・!」

   「遅ぇと思ったら・・・」

   「剣八さんだけですよあんなことできるの!大好きですっ」




   は剣八の逞しい首にぎゅーっと抱き着いた。

   地獄からの生還。
   
   しかも救世主は剣八さんだなんて!


   嬉しさが重なって、はさっきまでの恐怖で震える体を落ち着かせるように

   剣八の体温にすがりついていた。

   


   無骨でとても大きな手が、そんなの頭をがしがしと乱暴に撫でた。