好きな人に好きといわれて、付き合って。
・・・・その後、どうすればいいの?
それがわからなくて、私は隠れて涙を流した。
そう。思い出せば、彼にあったのも、恋をしたのも、全て・・・・雨の日だった。
全ては雨の日
昼休みの終わりごろ。
お弁当も食べ終わり、ずっとゼリーをつまみ続けていた。
今日は昼休みが終われば、H・Rをして終了だ。
委員会があるので、委員の人が残るだけの、楽な時定。
「わぁー、青春!付き合って意識しちゃった途端、何話して言いかわかんなくなるなんて」
「う、うるさいっ!あんたにだってあったでしょっ?」
「ないない。すっげーイチャついてたよ」
「・・・・・・・・・・・・・・そうっぽいわ」
手をひらひら振って笑う友人に、ははぁ、と溜め息をつく。
そんなの頬は少し赤くなっていた。
自分でもよくわかってる。
そんな中学生日記か!とつっこみたくなるような恋愛を、するようなキャラじゃないってことは。
頭ではわかっていても、いっぱいいっぱいになっていたんだ。
むぅ・・・とゼリーの最後の一口を口に入れる。
友人はの意外な感じに笑って、よしよし、との頭を撫でた。
キーンコーンカーンコーン。
昼休み終了のチャイムが鳴って、先生が入ってきた。
「委員会の奴は忘れずに行けよ。二週に一回だったのを月一回に減らしてやったんだからな」
いい加減なの担任は、入ってきた途端それだけ言うと「はい、終了!」と
手を振って教室を出て行った。
あまりにいい加減なので、担任が入ってきたことに気付いてない人もいた。
「もう帰っていいってさ。相変わらずいい加減だね、うちの担任」
「はこれから委員会でしょうが。・・・・・なつかしの、郭と一緒のね」
「・・・・・・・・・・・・・・言わないで欲しかった」
「はいはい、ごねてないで行ってらっしゃいなっ!」
友人は、に鞄を押し付けて、笑顔で背中を押してきた。
鬼・・・・、とは睨んだが、相手が気にする様子は全くなかった。
外は、少し雲行きが怪しくなっていた。
今から、どれくらい前だっただろう?
英士とは、同じ委員会で出会った。
二人とも休んでいたら勝手になっていた、という感じだったけれど。
共通点とか、知り合った理由なんて、委員会が一緒ってだけだった。
委員会が終わって、ふとは窓の外を見た。
「わ、外・・・・・」
「外、雨だね。見事に」
一人だと思っていたのに、突然声がしたのでは驚いて振り返る。
隣のクラスの、郭英士。
「うっそだぁ・・・・今日、降水確率20%だったのに!」
「この頃天気予報当たらないね」
「そうなんだよね、特に私が見てるのなんて全然当たんなくってさぁ」
「まぁ、秋は天気が変わりやすいのもあるけどね」
英士は後から歩いてきて、の目線の先にある窓の桟に寄りかかった。
「あ、郭は傘持ってる?」
「まぁね」
「さすが勘で天気予報する男・・・・!」
「・・・・そういうこと言うと入れないよ?」
「わー、すみませんでしたっ。郭さん是非お供させて下せぇ!」
話すのは初めてではなかったけれど、話さないイメージのある英士。
意外と話せたので、は内心少しホッとしていた。
そういえばさ、格さんってお供する方だよね、とさり気なくつっこんだ英士に、
じゃあ私はうっかりハチベェで!とは笑った。
「悪いね、わざわざ入れてもらって」
「別にいいよ。家近いし」
「・・・・・うっそだーぁ、郭の家遠いって聞いたよ?」
「・・・・・・・・・・・・。あんま、変わらないよ」
外に出ると、意外と雨は大降りだった。
これで20%っていっちゃいますか、天気予報。
部屋の中が暖かかったから、外がとても寒く感じた。
雨の日独特のカビのような、湿った空気がには気持ちよかった。
「これさ、傍から見ると相合傘だよね」
「・・・・・傍から見なくてもそうなんじゃない?」
「ごめんね、こんなのが相手でー」
郭英士といえば、の学校ではかなりの人気で。
近くで見るとよくわかる、整った顔。
そんな美形と一緒の傘に入っているのが、こんな平凡な女だなんて。恋人かと思われたらかわいそうだ。
・・・・・あ、そう思われたら、靴隠されたりとかするのかな?
それはそれでちょっと楽しみかも。
そんなことを思っているを横目で見た英士は、クス、と忍び笑いした。
「別に、俺的には満足だけど。・・・・のこと、好きだし」
「・・・・・・・・・・・へ?」
返ってきた意外な言葉に、はぽかんと口を開けてしまった。
湿った空気が、口の中に入ってくる。
い、い、い、い、い、い、今・・・・・・なんと?
の様子など気にもしてない様子で、英士は目の前の家を指差した。
頭が、現状についていけなくって、
は呆然と英士の言葉に反応することしかできそうもなかった。
「ほらついたよ。家、ここでしょ?」
「あ、うん」
「じゃあ、またね」
「え、ちょっと、郭・・・・っ!?」
「風邪、ひかないようにね」
「うん、ありがと。じゃなくって!」
マイペースな英士にそのまま乗せられそうだった。けど、
「へ、返事は、オッケーだから・・・・・!」
が真っ赤になってそれだけ言うと、英士は満足そうに微笑んだ。
「また、明日」
雨で霞む中、英士は軽く手を振って、歩いていってしまった。
その姿を、はぼんやりと見つめていた。
こうして、二人は付き合い始めた。
「郭、テストどうだった?」
「別に普通だけど?」
「・・・・・・・・学年上位に名前が載ってても普通ですか」
「まぁね」
「くっそ、イヤミだ・・・・」
「イヤミだから」
「たち悪いっての!」
周りから見れば、上手くいっていたかもしれない。
英士が何かしたのか、イジメとかもされなかったし、会話もしていたように見えるだろう。
でも、
「あ、今日も練習?」
「うん、選抜の方」
「そういえば、この間の試合どうだったの?」
「2-1で勝ったけど。・・・・・あのときオフサイド取られなければ完全試合だったのに」
「あの、さ。オフサイドって何?」
サッカーが好きな英士と、サッカーより野球ラブなはあまり趣味が合わなかった。
特に専門用語なんて出てくると、ちんぷんかんぷん。
英士も野球にはあまり興味がないみたいだった。
それでなくても、クラスも違うし、時間が会わない二人。話題がないのは痛かった。
弾んでいるようで、そうではないような・・・・微妙な二人の会話。
息が詰まるほどではなかったけれど。
会話が弾む、という感じではない気がした。
いっぱいいっぱいで、楽しいような楽しくないような・・・・・・。
きっとお互い、友達といる方が断然楽しいだろう。
は、そう思っていた。
だから、
「別れよう。郭、私といてもつまらないでしょ」
「・・・・・・何、言って」
「・・・・・・・・・・今までつき合わせて、ごめんね」
付き合い始めた日と同じような雨の日。
英士が傷付かないように。英士じゃなくて、が悪いと思わせるように。
は、苦笑して英士の前から走り去った。
雨は、あの日と同じようなのに。
の心と同じように見えて。
傘も差さないで、涙を雨と同化させた。
あの日は心地よく感じた雨の日も、今は冷たくてとても辛かった。
雨の日になると思い出す。こんな、苦しい雨の思い出。
思い出したくないけれど、雨が降ると思い出してしまう。
あれから、は一歩も踏み出すことができていない。
久しぶりの委員会に行ったら、もちろん郭英士がいた。
・・・・・・・・・・・いなくていいよ。
なんでこういうとき、遠征に行ってないのさ!
チラ、と横目で盗み見たは、そのままがっくりうなだれていた。
委員長の言うことなどもちろんの頭には入っていない。
いいんだ別に、もう一人の方に任せているから。
そんなことを思いながら、英士と目が合わないようには、必死に思い出と格闘した。
クラス順で座ったので、ちょうど斜め後くらいに郭が座っていて。
そこら辺からの視線を感じた気がした。
「はい、今回はこれで終わりです。しっかり連絡してくださいね」
委員長の声で、ははっと意識を戻した。
特に話すことがなかったらしく、今日は早く終わった気がした。
考えに浸っていたからもあるだろうが、久しぶりにしては短かった。
みんなが教室から出て行く中、は座ったままぼーっとしていた。
「久しぶりって感じがするね」
後から話しかけられて、振り返る。
あの時と同じように、郭がそこにいた。
時が巻き戻ったような感覚がした。戻るはず、ないのにね。
英士は特に笑うわけでもなく、またあのときのように窓の桟に寄りかかった。
「ほんと、なんか懐かしい感じ」
「そう?」
「うん。この頃委員会なかったじゃん?クラス違うからよけいに、ね」
「そういえば、前は二週に一回は逢ってたね」
「何回か遊びに行ったりもした、よね」
「・・・・・・・・・なんか、同窓会みたい」
「まだ中学卒業もしてないっていうのにね」
懐かしい。
でも、微妙にぎこちない会話。は心の中で苦笑した。
そう、全然時は経っていないはずなのに。
「外、雨だね」
あの時と同じ台詞。同じような、雨。
嫌でも、思い出してしまう・・・・・・・・・・あのときのこと。
もう、昔のことにしたはずなのに。
何で・・・・・涙が、出そうになるんだろう。
「、今日は傘持ってる?天気予報当たってたけど」
・・・・・・・考えたく、ない。
英士に嫌な思いさせた自分。
会話がなくって、つまらない思いをさせた。
『・・・・何、言って』
そういった英士の辛そうな顔。あんな顔、させたくなかった。
「そういえば何にもメモってなかったみたいだったけど、大丈夫なの?」
何で皆みたいにできないのだろう。
口下手じゃないはずなのに、何を話していいか分からなかった。
また、あんなふうになったら・・・・・。
あのころから、気持ちは変わっていない。
自分から別れを切り出したくせに、全然変われていない。
ずっと黙っているに、英士は微笑した。
「無視、しないでよ」
その言葉と同時に、はその場に崩れ落ちた。
椅子に座っていたのに、そのままズルズルと崩れていく。
その瞳には・・・・・涙。
とめどなく流れ続ける涙。止められなくて。
頬をどんどん伝っていく。拭っても拭っても頬は濡れていく。
「・・・・・・・好きです」
あの頃から、全然変われていない自分。
いつの間にか好きになった彼を、忘れられないまま。
「今でもずっと、ずっと好き。別れたくなんて、なかった」
絞り出すような、の声。
英士は驚いたように目を少し見開いていた。
「付き合うとか、恋愛とかよくわからないから、なんか恥ずかしくって。
話とか何話していいかわかんないし、変なこと言って嫌われたくなくて・・・・・」
話せば話すほど、自分が知られてしまう。
嬉しいことだけど、英士の知らない汚いところや嫌なところが出てきそうで。
嫌われたく、なくって。
だからの心は常にいっぱいいっぱいで。
泣き続けるの前に、英士はしゃがみこんだ。
普段と変わらないような・・・・・少し、笑っているような表情だった。
「・・・・・・・それが、別れた理由?」
「うん・・・・」
「なんだ、そんなことで」
「そんなことっ?」
「嘘」
英士はの頭をゆっくりと撫でた。
「何でもいいんだよ。俺はのことが知りたいから。
何も気にすることなく、本当の自分を出してくれれば、俺は嬉しいんだから」
「で、も・・・・」
「の嫌なとことか意地汚いとことかだって、たくさん知ってるから」
「・・・・・・・それ、喜んでいいの?」
「いいの。嫌いになることなんてありえないから」
やっと通じた思い。
余計なことを考えてしまうのが、恋なのかな。
「か、郭も何でも話してよ?」
「英士って呼んで」
「・・・・え、英士も我慢しないで何でも言って?嫌いになんて、ならないから」
が恐る恐る言うと、英士は薄く微笑むと、顔を近づけてきた。
・・・・・・・そしてそのまま、自分の唇をのそれに押し付けた。
「すごく、キスしたい。もう・・・・我慢しない」
「・・・・・・・そ、そ、そういうのは我慢した人が言う台詞だってーのっ!してから言うなぁぁ!!」
の叫びも、強くなってきた雨音にかき消された。
付き合い始めたのも、別れたのも、雨の日。
そして、復活したのも・・・・・同じ雨の日。
「・・・・・・・・・・・両思いって、難しい」
そう思いながら、は今日も英士の傘に入って帰った。