夜中の廊下に響く、自分の声。
電話越しの声を聞き漏らすことの無いように
実はしっかりと受話器を握る。
「・・・そっか、英士韓国にいるんだ」
「うん」
「ユンさんの誕生日19日だっけ。オメデトって伝えといて」
それほど時差がなくてよかった。
そう思うよりも、自分が従兄弟をとったということが
彼女を傷つけているという事実が頭に浮かぶ。
特別には二種類あるとはいえ。
悲しみを押し込めているのが筒抜けなの声に
英士は溜め息が出た。
受話器を外して、小さく息を吐く。
「・・・、」
「なぁに?・・・チョコは帰ってきたら渡すからね」
今日は2月14日。
韓国にでもある風習の日の夜。
もうすぐ日付が変わってしまう時刻。
誕生日はもちろん、イベントを大切にするは
今までくれなかったにしろ今年こそはと意気込んでいただろう。
「・・・・・・、」
「変な英士。国際電話って高いんでしょ?もう、切るね」
「っ、」
プツッと一方的に切られる電話。
海を挟んだ遠い距離での、彼女との唯一のつながり。
ツーツーという音が虚しく響くのが厭だったが
何故だか電話を切る気にはなれなかった。
「(ヨンサ、凄い顔してるよ)」
「(うるさい)」
先ほどまで眠っていたはずのユンがひょいと顔を出していた。
小声ながらも、怒鳴りたい気分だった。
この従兄弟は、かけがえのない人で。
失うことなんて考えたくもない、自分の一部で。
でも、それでも、彼女を悲しませている自分の不甲斐なさと
待っていてくれるという甘えからこちらにきてしまった
自分の考えの甘さがつきつけられて。
どちらも選べない自分が、なにより厭だった。
「(だめだなぁ、ヨンサ。昔教えたじゃない)」
眉間に皺が寄っているであろう英士の額を、ユンが
軽く弾いた。
にっこりと、そこには変わらない笑み。
「欲しいものは、ちゃんと欲しいって言わなきゃ」
現れたもう一つの気配。
ユンはそれをみて満足そうに微笑むと、部屋に戻っていった。
嘘だろ。
思わず呟いていたかもしれない。
驚きというか、衝撃だった。
ここは、海の向こうの異国。
俺のもう一つの故郷。
なのに、なんで。
「ハッピーバレンタイン」
「・・・なんで、」
「ユンさんからチケットきたの」
「(・・・ユンの奴)」
「驚いてくれて嬉しいよ」
ぽす、と丁寧に包まれたものが渡される。
受け取ると、微かな甘い香りと彼女の笑顔が伝わる。
彼女がちょうどいい距離を保ちながら、ずっとついてきてくれるから
俺は好きに生きていられるのだろう。
二者択一の世界で、選ぶことに後悔しないように。
太陽のように温かく輝く君に近づきすぎたら、全て
燃えてしまいそうだけど。
「えい、・・・!」
「・・・ありがと」
初めてくれた彼女のチョコは、俺には甘すぎた。