夏の一歩手前。三年は部活を引退したところばかりで、それに比例してか
校内の青春モードが盛り上がっている。ピンク色に。
気がつけば周りはどんどん恋人もちで、あたしのお気に入りだった非常階段も
そいつらに取られちゃって。
三上と顔あわせる屋上に行かなきゃいけなくなっちゃったし。
あーあ、なんだかなぁ。
夏とか秋大会で引退する人たちはこれから燃え尽きるからいいけど、帰宅部の
あたしとしては目前に迫った期末のおかげで早く帰れるや嬉しーくらいだ。
今日もバイトは夜シフトで、さっさと帰ってバイトまで寝てようと歩いてたら
三上に肩を叩かれた。
「お、いたいた」
に、と口元を上げた三上。?とか思ってたけどなんとなく気が付いた。
あーぁ、さよならあたしのお昼寝タイム。
我が校誇りのサッカー部の脚に敵うわけもないから、逃げることもできなかった。
「はい、毎回恒例」
「・・・藤代の補習、ね」
つれてこられたのはサッカー部の部室。
何故か部員からパチパチ拍手されて、微笑まれながらは賛辞とエールをもらい
彼らはそのまま部室を出て行った。
部室に残っていた渋沢は三上の隣で苦笑した。
「悪いな。他のやつじゃやらないし、担任もお手上げでな」
「直々ご指名オメデトウ」
「やったー!先輩!」
ぽんぽん、と三上に肩を叩かれる。
うわ、絶対こいつら悪いと思ってないよね!
はぁ・・・はにこにこと上機嫌に尻尾でも振ってそうな藤代と
その前に積まれた四教科分の課題プリントをみてため息をついた。
*
勉強を始めて、一時間半。
空は燃えるような夕暮れから蒼い夜空へと変わろうとしていた。
「なんだ、藤代。できるようになってるじゃん」
「でしょでしょっ?」
「じゃあ、あたし帰っても・・・」
「やだ!俺、先輩いたほうがやる気出るし」
「・・・・・・はいはい」
どーせあたしは暇人ですよ。
バイトは夜シフトだし三上が電話したのか知らないけどなんか
今日来なくていいよーとか店長から電話来るし。
あ、店長もしかしなくてもこいつらの知り合いだったりしちゃう?
・・・わかっててやったな、藤代。
は息を一つ吐くと、部室の冷蔵庫から苺オレを二つ取り出すと
藤代に差し出した。
渋沢からの差し入れで、勝手に取っていいといわれていた。
自分の好物を知っているところがにくい。
「はい。ブレイクターイム」
犬は餌と鞭で手なずけるのだ。課題もあと二枚だし。
頑張ったな藤代。というかあたし。
できるなら初めからやっといてくれると嬉しいんだけど。
「あ、そーだ」
シャーペンを置いて伸びをした藤代が、を見た。
苺オレをすすりつつ、外の練習をみていたはんー?と曖昧な
返事をした。
「・・・この間、告白されてましたよね」
ぐ、と口に含んでいた苺オレがつまる。
変なところに入りそうになるのを何とか堪えた。
「一昨日の昼休みに、中庭で」
「・・・・・・、悪趣味」
「たまたまみえたんですって」
が睨むと、藤代は肩をすくめた。
「で、何?」
「いや、その・・・」
珍しく藤代が口ごもる。
あぁ、触れたくなかった話題。流して、お願い、それか誰か来て。
まさかよりによって藤代にみられてたなんて。
は平然を装って苺オレを一口飲んでいった。
「まだ、返事はしてないよ」
「っ」
ぐい、と手首を掴まれる。強い、力。
苺オレのパックが落ちる。ほとんど中身が入ってなかったそれは
軽い乾いた音を立てた。
驚いて視線をむけると、そこには真剣な眼差しの藤代がいた。
傷付いたような瞳でまっすぐを射抜き、怒っているような、また違うような
複雑な表情をしていた。
「俺、気持ち伝えましたよね・・・?」
目を逸らしたくても、できなかった。
二ヶ月前の出来事。
「俺の気持ち、知ってるくせ、に」
心臓がつかまれたように痛い。
胸も、喉も、何もかもが詰まったように、痛い。
の中にずっとあって、気を張っていないと込み上げてくる感情の名を
藤代は知らない。
「・・・あんたが引退するまで、あんたと恋愛禁止って言われてるの、女子」
搾り出した言葉。
サッカー部は我が校の誇りであり、そのエースで選抜やユースに選ばれて
将来が確立されている彼の道を阻むことはならないと
思春期の選手にとって恋愛は感情や関係で不調を出す者も多いから、と
女子は教師や学校からいわれていた。
それに気づいたのか、の声があまりに苦しそうだった為か
藤代は一旦俯いた。
その瞬間に見た、酷く傷付いた顔。
こんないい子の将来を変えてしまうのがには堪らなく恐い。
じゃあさ、と藤代は小さく言った。
「先輩は今、好きな人います?」
「・・・いない、よ」
嘘。
「3年、カップル増えましたよね」
「ねー」
さっきまでとは一変した雰囲気に心の中でこっそり安堵する。
いつもの調子で話した。
「先輩もほしくないんスか?」
「んー、欲しいよ、そりゃぁ」
軽い口調。
かわせたのかな、と油断した。
「今疲れてるしさ、癒しとトキメキが欲しいなぁー」
「・・・一昨日の人にオッケーすれば、彼氏、スよ」
また、あの真剣な目。
一瞬の隙を突いて切り込んでくる。
「・・・・・・、よく知らない人とは、付き合わないよ」
それに、と付け足す。
「今は、恋愛したい気分じゃないしね」
よく言うよ、自分。
心の中ではもうずっと燃えている想いがあるっていうのに。
「ほんとスか!?」
藤代は、すっごく嬉しそうな顔をして、目を輝かせた。
え、とが反応する前に藤代は続ける。
「じゃあ、俺が予約しときます」
同時に、唇への、確かな感触。
「先輩がその気になるよう、頑張りますから」
・・・・・・・・・っ!
(ば、ばかじゃないのっ、)
導火線に火は付いた
そんなことしなくたって、あたしの心はとっくの前から
あんたの分でいっぱいいっぱいだっつーの!