バレバレなの芝居は、また始まった。
   竜が全てを知って呆れ顔でみているのを誰もしらない。
   


   「タケちゃん」



   ハートでもつきそうな甘い声で、が前を歩くタケを呼ぶ。
   タケにしがみつくような体勢で歩く
   タケの隣にはつっちー、その後が竜。
   そして、の後ろを歩くのが・・・隼人。
 
   帰り道、待ち合わせした俺たちは一緒に帰っていた。
   本来はちがう意味のはずだったのだが。


   「何々っ?」

   「んー・・・好きだよ!」

   「えっ、マジ?」


   (俺も大スキ!)口に出す前に、頭に拳骨が降ってきて
   タケのその言霊は音にならずに消えた。

   竜以外も気付いているだろうに、誰一人として
   その素振りを見せない。タケ一人が可哀相な思いをするだけだ。
   ご愁傷さん、と心の中で手をあわせもしない。
   こんなときだけは薄情になれるものだ。

   あの珍しいほど可愛い甘い声で話しかけられるより
   あとでタケに恨まれるほうが、よっぽどマシなのだ。



   「あのさ・・・啓太って呼んでいい・・・?」

   「(上目遣い可愛い!)えっ、うん、でも、」   
   


   あぁ、ちゃん可愛いよ!
   俺より断然ちっちゃいし、目も大きくてまんまるだし、甘い匂いするし。

   でも、

   
   (隼人が恐いんだってば!)



   そのタケの心の叫びと同時、隼人が動いた。
   さっさと動けっての、ばーか。




   ぐいっ。
   タケが心配そうに見守り、竜とつっちーが呆れた視線を送る中
   の腕はがっちりと隼人の骨ばったでかい手につかまれ
   タケから離されて、そのままみんなから遠のいていく。  

   いつの間にか肩にもがっちりと手が乗っていて。



   「(逃げられそうもない)っ隼人、い、痛いよ」 



   返事はなかった。

   その手にしているいつも違う指輪が目に焼きつく。
   胸が痛くなる。あぁ、頭が重い。
   でも、そんなに反応できるほど、はもう素直ではない。
   もう、慣れてしまった。自嘲が漏れる。

   涙なんて、出ないんだよ。



     

   「お前、何なんだよ」
   



   
   大分遠くまで来たとき、隼人が急に立ち止まって
   まっすぐ目を見ていった。
   
   その目からは明らかに怒りがみえていて。



   

   (タケとベタベタ、恋人みたいに、)
      

   俺とは隣を歩くことすら拒むっていうのに。
     
   嫌がられる気持ち、わかんのか?
   何十人何百人の女に好かれようと、本命が手に入らなきゃ意味ねぇんだよ。
   キスを拒まれた時、お前がどんな表情してたと思ってんだ。   
   薄く涙浮かべて、苦しそうに顔を歪めて。


   お前が返してくれた好きという返事は、現実だったはずなのに。

   
   は隼人の心なんて知らない。でもそれは逆でもあるんだ。
   友達と言っていた頃はこんな風に笑わないなんてことも
   なかったのに。
   でも今更、友達になんて戻りたくない。


   
   怒気を含まれていようが、返す言葉は決めていた。
   言わせないで欲しい。



   「・・・何、自分の浮気は許せて、私はダメなんてずるいんじゃないの?」



   親の敵を見るような目で、隼人を睨むような真似をさせないで。
   したくない、と思っても私の心も限界だった。

   紡がれた言葉は、もうなかったことにはできないけど
   それはまぎれもなく本心だから。



  
   
   (ちく、しょう・・・)


   真っ直ぐ隼人を射抜く目には、決して出さないようにしている涙が、みえた。
   言わせているのは自分。
   竜に渡したら幸せになるのだろうな、と思っても
   絶対に手放したくないと心が叫ぶ。

   誰に寄りかかることなく、ボロボロのくせに
   健気に自分の足で立っているが愛しく、脆くみえて。



   思わず、抱きしめて深いキスをした。



   初めての深いキスだった。 
   キスだって、どれくらいしていないだろう。  
   両腕にすっぽりと納まってしまう小さく細い身体。   
   このままどっかに閉じ込めて、俺だけをみていてくれたら。
   
   キスの後のように、俺だけを求めた口で
   惚けた顔でいつまでも俺だけを見ていてくれたらいいのに。

   続きが出来れば、の心も全部俺のものになるのだろうか。




   「・・・ずるいよ」


   再び合わなくなった視線の先に、が呟いた。

   
 
   (私はそれで、許してしまいそうになるのに)



   どんなに傷付いても、互いが見えなくなる距離までは
   離れられないのがその証拠。


   
  
  
   (隼人が、好き)

   (が、好き)





   届くこと無い心の叫び。

   いつか届く日がきてほしい。救ってよ、この痛みから。
   それができるのは貴方だけだから。