昼休みにわざわざ抜け出してきて、タケとかつっちーとか
   日向に、義理って思いっきり笑顔で渡してたのを俺は遠まきにみていた。

   俺は俺でと同じ桃女の子とか他の学校の子とかに
   何件も呼び出しくってて、まとめて紙袋にいれて持ってきて
   もらったりしていた。  
   朝学校へくるときも女が群がっていて、俺の身体から甘い香りが
   消えることはなかった。染み付いたその香りを嬉しいとは何故か思えなかった。
 
   でも、貰えるもんはもらっておく主義だ。
   オトモダチ程度の付き合いの女たちが側にいるのは楽しいし。     
   まだ若い青春時代なのだから、遊んでいたい。
   いくら、本命という名の彼女がいたとしても。
 
   きゃっきゃと高い声でメッセージ付のキレイな包みの
   チョコを渡す女達にいい加減面倒になりながらも、笑顔で返していた。


   
   






  額についた気持ちの痕









   
   義理チョコを渡している場面をみるのはなんとも思わなかったが
   帰りにの元へ寄ったときに、その鞄から甘い匂いが皆無だったのに
   少し腹が立った。

   付き合ってるはずの俺に、なんで何も無いんだよ。

   

  
   「おい、」
   
   「・・・何でしょう、矢吹君」

   「(何だその、他人行儀な言葉遣いは)」

   

 
   追いかけっこのようにスタスタと歩くの後ろを隼人は
   ずっとついて歩いていた。
   振り向きもせず、本来確実に貰えるはずのものは一向に
   出てくる気配がない。

   そしてずっと繰り返される同じような問答。
   
   の声はあからさまに不機嫌で。
   思いつくあてがなくて、更に苛々する。


   
   「俺の分は?」
 
   「(あんだけ貰っててまだ食うか)ない」
 
   「はァ?お前料理下手ってわけでもないだろ」

   「・・・失敗したんじゃなくて、あげる気が無いの」
 
  

   なんだよ、それ。 
   そう思わず呟きそうになる。

   朝、女に囲まれて色々と貰っていた俺をおいてさっさと
   学校へ向かっていた竜に、が駆け寄って
   タケたちとは違う、綺麗な包みのチョコをあげいたのをみていた。
   その顔は紅潮していて、竜もまんざらでもなさそうだった。

   おいしくないかもしれないけど・・・なんていう乙女な発言があったかまでは
   流石に遠くて声は聞こえなかったのでわからないが
   竜がにとって特別ってことを証明された気分だった。



   「大丈夫だって、ナミちゃん以上の味は期待してねぇし」

   

   照れ隠しだと思って、隼人はそう軽口をいった。
   手作りだから、きっと他の女のことを考えて言ったのだと安易に考えていた。
   ちなみにナミちゃんは桃女の巻き毛の料理部の子。
   確かと同じ組だったと思う。
   小さな桃色の唇でプレゼントまでくれたしな、と小さく呟いたのは
   完全な独り言だから、には聞こえてないはず。   

   は肩をビクッと震わせて急に立ち止まり、振り返った。
   やっと隼人の方を向いたは、眉間に皺をぎゅっとよせて
   苦しそうに顔を歪めていた。
   
   


   「・・・っあげる気がないって言ってんでしょ、このバカ野郎!」

  

   
   その言葉に一瞬あっけとして、隼人は状況を
   把握した途端、叫んでいた。



   「え、なに、マジなわけ?」

   「耳が悪いの?それとも理解力が足りてないの?」

   「いやお前フザけんなよ!今日って恋人たちの三大イベントじゃんか!」
   
   「誰が恋人?耳なら耳鼻科、頭なら大学病院へどうぞ」



   立ち止まってることでようやく隣に立てた隼人は
   視線を合わせず淡々と台詞を読み上げるようなの口調に
   耐え切れなくなって。


   ぐい、と顎をつかんで、顔を引き寄せる。

   
   反対の手はもちろん細い腰に回して、固定する。
   ちょっと紅潮したの頬と息が掛かるほど近い距離。
   花のような香水の甘い香りがした。 
    



   「・・・なら、いつもくれないコッチで」




   は驚いて目を見開いていた。
   反論をきく前に、隼人は自分の唇をのそれに近づけていく。
   早くも食べたチョコの香りが自分の口からした気がする。


  
   (フザけたこといってんなよ、ドアホ)



   あと三センチというとき、





   スッコーン!





   擬音をつけるならまさにそんな感じの勢いで
   隼人の額に硬いものが直撃した。



   「いってぇ!」

   「これでも食ってろ!」

   

   涙目になりながら隼人は直撃したせいで
   赤くなっている額を押さえ、に訴える。

   綺麗な顔の一部であるデコの赤みは目立って、ちょっと
   やりすぎたかな、と一瞬頭によぎったけど。
 


   『桃色の唇でプレゼントまでくれたしな』



   先ほどの隼人の本音とブラさげている紙袋をみて
   その考えは泡となって消え去った。






   (私のチョコは、もうとっくにアンタの鞄の中だっつの!)  






   一つだけカードの入っていないチョコに気付きもしない
   あの大馬鹿野郎を、誰か罰してくれませんか。









   (相思相愛が発覚!の咲さんへ嫁がせます)