嫌なほど暑い今年の夏の
 
   冷房が壊れたこの広くない部屋で

   小さなテーブルにあるのはくしゃくしゃになって

   裏に計算とか落書きをされてる



   夏祭りの紙。














   涼しさ、下さいな




















   どうしてこんなに東海は暑いんだろう。

   爽やかに笑みを浮かべているお天気お姉さんが指差す天気図も

   自分のいるところが一番気温が高い。

   ついでにいうと、紫外線も多い。


   そして極めつけは冷房の故障。

   扇風機をフル回転させて、窓を開けて風を通す。

   しかし少しも休もうとはしない太陽は、元気に照っている。

   休もうよ、疲れちゃうよ。むしろ疲れておくれ。




   「・・・・・暑いんだけど」

   「わかってるよ!暑いよ、夏だしね!」

   「うわ、ケースケ並に暑苦しい」

   「そ、それは嫌過ぎる・・・!」




   あいつ練習の時もいつも通りでさー、と仮にも友人を思い出し
    
   目の前で平馬はぐでーっとなる。

   それでなくとも普段からやる気がなさそうなのに

   暑い今はそれに磨きがかかったように、間の抜けた声を出す。




   「だいだいさぁ・・・なんでこんなに暑いわけ、お前の部屋」     
  
   「好きで暑くしてるわけじゃないっての!」

   「・・・・・・そうだったのか」

   「・・・・・・・・。殴られたい?」

   「やだ。俺マゾじゃないし」

   



   はぁ、とは息を吐きたくなる。

   いつもならこの後、不毛な言い合いが続くのだが

   暑さにそれもできない。無駄に体力を使いたくないのだ、は。

  
   扇風機の前を陣取って、垂れてくる汗を拭うの前には

   そこら辺にあった漫画雑誌を勝手にぱらぱら捲ってる平馬。

   あいている手には朝顔と風鈴が描かれた団扇。

   疲れたのだろう、力なくパタパタと動いている。

   ちなみに、が昨日歩いていてもらった奴だ。




   「冷房壊れたって言ったよね?なんできたわけ」      
     
   「何でっていわれてもなー・・・。コンビニ行ったら傍にの家あったし」

   「・・・・・・・あんたの家の方が広いし涼しいじゃんか・・・」

   「まさか冷房壊れてると思わなくてさー」

   「前に言ったつーの!人の話を聞けぇ!」

   「うわ、暑苦しー・・・。いいじゃん、アイス持ってきただろ」          

   「見事に融けたソーダをね」

   「もっかい冷凍庫に入れれば同じ。問題ナシ」

   


   うんうん、と一人頷く平馬にもう呆れるしかない。
  

   3時のおやつを食べようとしたところに

   いきなり「よっ」とか言っての家にやってきた

   というか押しかけたコイツはそのまま居続けている。

   まさか来るとは思わなくて、ぎゃ!と奇声を上げたことを補足しておこう。  

   ちなみに渡された元アイスはドロドロ。感触は水。

   ・・・よかった、個別に入ってて。

   
   
   
   「昔の人って冷房なくてよく生きられたよね・・・」

   「同感。俺もう融けそうなんだけど・・・」

   「健全なサッカー少年?がいう台詞じゃないよ」
 
   「疑問符つけるとこでもないだろ、失礼な奴だな」

   「人んちいきなり押しかけてきて、暑い暑い連呼してる

    誰かよりは全然失礼じゃない」

   「誰だよそれ、常識無い奴ー」    

   「・・・・・それ、つっこんでいいとこ?」

   


   暑い。暑い。

   それだけが支配する部屋の中、平馬といると

   とても時間の無駄な気がしてくる。会話もほとんどないし。
  
   話はどんどん違う方向に行くし。   
 
   もっと涼しい人がほしいよ・・・。あ、でも山口じゃなくてよかった、本当に。

   


   「薄着しても無駄とかどうよって感じ」

   「海とかプールとか行けば?」

   「・・・水着着用の塩素風呂だってさ」

   「だろうな」
 
   「氷も全部融けたし、もう打つ手は無い・・・」
   
   「あ」




   小さなテーブルの上においてあった二人分のグラス。

   二人とも何口か飲んだので、もう半分くらいしかない。

   その中に浮かぶ妙にキレイな氷が、融けてカランと涼しげな音がした。

   グラスはもうすっかり汗をかき、水が次々に流れていく。




   「キャミソールでも暑いんだよ?一体私は何を着ればいいのさ」

   「ここは夏らしく浴衣とか。・・・マジかよー」

   「うわぁ、涼しそー。でもその前にめんどくさ・・・」 

   「言うと思った。・・・やっちった」

   「でもよく考えれば浴衣って布一枚だもんね、涼しいよなぁ」
 
   「・・・・・・・団扇壊れたし」
   
   「今日母さんがいれば着れたのになぁ、平馬の分もあるんじゃないかな」

   「・・・・・・・あーあ、使えねぇじゃんもう」

   「つーかさぁ、夕方になっても暑いなんて詐欺じゃないの?」




   扇風機向かって声を出す。親父臭いなぁ、と思いつつ

   平馬は読んでいた雑誌を放り出す。

   そして先ほどまで使っていた、いや、使えていた団扇を   

   ぐりぐりと弄る。骨組みのところが折れて、取れてしまった。

   脆すぎるだろ、いくらなんでも。
  
 
  

   「いっそ風鈴でもあったら涼しいかもね、気持ち的に」

  


   かき氷も食べたいけどなぁ、家では作れないし・・・。

   汗を拭いながらうーん、と考える

   平馬は何も言わず黙って団扇を弄り続けていた。

   はそれに気付いているのだろうか。




   「そういえば今年は風鈴ないんだよなぁ、かき氷もまだ、」



 
   ぶつぶつと暑いという言葉から逃れようと考えるの言葉が

   中途半端なところで途切れる。

   代わりに独特の笛の音と太鼓の音が小さく聞こえた。

   外は太陽が沈んできて、大分暗くなってきていた。

   しかし暑さは変わらない。蝉の音も変わらずだ。     
    








   「じゃあ、行くか」








   へ?と聞き返す間もなく、扇風機の電源は切られ

   腕を引っ張られて立ち上がらされる。




   「な、何っ?どうしたの平馬っ」
 
   「ほらさっさと歩けよ出かけるぞー」

   「はぁっ?何言って、」

   「金はちゃんと持ってけよ、俺奢れるほど金ないからな」


    
   
   気付くと平馬はすぐ傍にいて、の手首をがっしり持って

   ドアをがちゃりとあけてホラホラと急かしてくる。

   さっきまで、暑い暑い連呼して全くやる気も生気も無かったのに。






   「お祭なら風鈴も売ってるだろ?」

   


   
   が財布を掴んだのを確認すると

   平馬は行くぞーと珍しくスタスタと歩き出す。

   

   え、いや・・・私がお祭り行きたいの知ってたわけ?



   でも平馬は、そりゃあもうマイペースでやる気が無いしめんどくさがりだから

   どうせ無理だしとか思ってたんですけど。
 
   今日もサッカーの練習があるだろうから、諦めてたんだけど。     




  
   「俺、かき氷食いたいし」
  




   手首をがっしり掴む手が、大きくて骨ばっていて。

   前を歩く背中が、とても広く感じた。


   


   「・・・・・・・っ」





   暑い中、引っ張られる手首から伝わる熱は

   不思議と嫌じゃなかった。

   汗ばんでくるだろうけど、なんだか愛しかった。   




   「ねぇ、平馬。屋台があるなら、花火もやるかな?」
   
   「あー・・・やるんじゃねぇの」

   「大きいの上がったら暑いのなんて吹き飛びそうだよね」


   

    
   ちりんちりんと鳴る涼やかな風鈴は


   夏の一つの思い出として


   私の窓に下がるでしょう。

  


   微妙な温度の私たちに暑い夏はちょうどいいのかもしれない。





   「・・・風鈴って、もちろん平馬の奢り?」

   「何で俺が」

   「あれー、団扇壊したの誰でしょうね?」

   「・・・・・・・・・誰だろうなー」
 
   「冷房直るのもうちょっと先なんだよね。扇風機も寿命だし?」
   
   「・・・・・・・・・・・ちっ」





   
   平馬が壊した団扇の代わりに、風鈴はちょっと高価いのを頼もうかな。


   小さいのを平馬の部屋にも明日下げてやろうっと。





 



05.8.9