今日は乙女の決戦の日らしいけど
学校は協力してくれず、授業は六限目まで。
すっかり日も落ちてしまったので
帰り道も寒いことこの上ない。
あまりの寒さにコンビニに寄ろうと帰路を歩いていたら
後ろから変なものがついてきた。
「なぁ、今日ってさー」
「火曜日だよ」
マフラーを口元までやっているせいでもごもごとして
聞き取り辛い気の抜けた声。
軽くあしらって、コンビニに入る。
暖房が効いていてとても温かい。幸せ。
「そうじゃなくて、」
「・・・あ、新商品発見!チェックしなきゃ」
明らかに話を逸らそうとしているのはバレバレなのだが
残念ながら私にそんな勇気は無い。
新商品のクッキーと近くにあったものを手に取った。
店の中までくっついてきている平馬とは、視線を合わせずに
新商品じゃない方を彼の胸に押し付ける。
もちろん顔なんて見ない。
すぐに踵を返してレジへ向かう。
するとまだくっついてくる。
盛大な溜め息をして、平馬は頭を抱えていた。
「・・・お前に色気を求めた俺が悪いのか」
なんだその言われようは。
会計を済まして、商品をうけとりながら振り返る。
「どーいう意味だそれは」
「フツー板チョコまんまで渡すか?」
「渡す」
「いやいやフツーは手作りか綺麗な包みのだなぁ」
「・・・いつから女に幻想抱くようになったわけ、アンタ」
ありがとうございましたー、と形式上の挨拶をバックに
コンビニをでる。
こいつのせいでのんびり出来なかったせいで、5分も経ってない。
しかもまだブツブツと文句を言っている。
それだからお前は、とか絶対山口圭介の影響だろう口調で
延々と繰り返す。
「・・・あぁもう、わかったわよ!」
いい加減ウザくなって。
自分より断然背の高い平馬に向き直り、思いっきり手を伸ばして
その胸倉をつかむ。
表情が乏しくてわからないけどきっと驚いているだろう
平馬の顔をみないまま、引き寄せる。
意外と簡単に近寄れたので、そのまま平馬の頬に手を当てて
一瞬だけ、唇に触れる。
よく考えたら、こんなことするくらいだったら
素直に手作りチョコかあからさまにそれ用のチョコを買って
あげたほうがよっぽど恥ずかしくなかったと思う。
触れた自分の唇は熱くて、顔もどんどん紅潮してくる。
それを気付かれたくなくてすぐに離れる。
「っこれもつけてやるかさ!満足!?」
思ってた以上に恥ずかしくて、もうヤケだった。
顔をあげられない。
そんな私を見て、平馬はフッと笑みを漏らす。
その笑みとともに離れようとしていた腕が引っ張られて。
「・・・まだ足んない」
「へ、」
ホワイトデーは三倍返しだっけー?と飄々とした表情で
訊く平馬の顔を、呆然とみつめるしか出来なかった。
口の残るチョコレートの甘み。
(三倍返しって、もちろんチョコのことだよね・・・?)