「ほら、口開けて」
   

   一口大のチョコを指に挟んで、唇に押し付けられる。
   前の席に後ろ向きに座った平馬は、ほら、と遠慮なく
   食べさせようとする。

   挨拶代わりの行為。
   いや、それは一緒にいる時に常に行われている。
   バレンタインが近いからだろうか。
   逆チョコの流行に乗ろうというのだろうか。
   いやいや平馬がそんな可愛いことをするはずもないし
   自分で食べるだろう。食欲は人の弁当を奪うほど旺盛だ。
 
   だけど平馬が私にチョコを食べさせようとするのは今日だけではない。
   ここ一週間ずっとそうだ。
   私が勉強していようとも、話の途中でも、帰り道でも。
   私をみるたびに平馬は口にチョコを入れてくる。

   

   「もう、何個目だと思ってんの。さすがにいい」
   「ダメ。ほら、あーん」

   

   ぐり、と更に押し付けられる。
   このままこじ開けられるのも何なので口を少し開けて
   その糖分を受け入れる。
   すると平馬は満足そうに自分もチョコを頬張った。

   思わずため息が出る。   



   「こんな頻繁にチョコ貰ってたんじゃ、太るっつの」
   「いいじゃん。、甘いの好きだろ」
   「好きだけど・・・」



   さすがにこれは、度が過ぎる。
       
 
  

   「なんでそんなに私に食べさせたいの」



  
   自分の小遣いなんだから、自分で食べればいいのに。
   平馬の持ってくるチョコはほとんどの胃に入っている気がする。




   「あれ、いわなかったっけ」




   の問いに、平馬はきょとんとした。
   口が空になったのを確認して、自分との口にチョコを放りこむ。




   「チョコ食うと、恋してるのと同じ効果があるんだってさ」




   テレビでやってたんだよ、脳の反応がどーとか。
   ころころとチョコを口の中で転がしながら、平馬は続ける。

  



   「俺と食べてたら、俺に恋してるのと同じ」 
      




   ずっと続けたら俺のこと本当に好きになるかもしれないし。
   
   そんな付け加えられた言葉に、は硬直した。
   言っている意味が突飛過ぎて頭がついていかない。
   それ以上に、平馬をそんな目でみたことがなかったから。

   平馬は表情も変えずに、チョコをもう一粒
   呆然と口を開けたままのの口に放り込む。





   「だから早く、俺のこと好きになってよ」








  甘 い 毒 薬






  
   心臓が嘘みたいにドキドキした。
   平馬がやけに男の人にみえる。
   初めて彼が異性なのだと意識した。
   自分の頬がどんどん熱くなっていく。
   目が、離せない。
   口の中にあるチョコがやけに、甘い。
   
   全部、全部チョコの幻覚なのだろうか。


   少しずつ与えられた甘い毒はもう、私を逃してくれない。










10.02.10