冬の無駄なものを全てそげ落とした白い世界が、彩きだした。
先日降った雨が淡い雪をとかし、まだ少し肌寒い風が運ぶ
春の香りは、君に似ていた。
桜並木の下、心に春を纏った恋人たちをすれ違う。
群れられることに苛立つ前に、僕は君を想い出した。
今はもう隣にいない君も、今頃誰かと僕の知らないどこかで
この華やかに儚く舞う花びらを見ているのだろうか。
(そのうちお互いを忘れる日が来るかもしれないけど、)
ひらひらと舞い散る花びら。
蝶のように優雅に、ただ散る己を嘆くように地に落ちた。
(桜の花を目にしたら・・・)
囁くような声だった。搾り出すような声だった。
それでも君は笑っていた、この桜のように。
「・・・思い出してるよ」
頭の近くにあった枝を掴む。
先についた小さなつぼみは、君といた日々のように、淡い。
あの頃の僕らのようだった。
歩みは次第に遅くなる。
雪をとかす雨は咲き乱れる花々も壊していて、枝につく花びらは
とても弱々しく見えた。
ぶわ、と強い風が吹く。
一面の桜色の中にさした栗色に目を奪われて、その場に立ち尽くす。
目を見開いたままの僕は間抜けな顔をしているだろうけど、そんなこと
気にもならなかった。
君を想い、ただ思い出にしたくないと願って過ごした歳月。
僕の瞳はあの頃のままで。
何もかも夢のように、嘘に感じるすべては何故かやけに綺麗に見えていた。
君が綺麗だと笑ったから。
君が好きだと想うから。
人を愛することを教えてくれたのは君だった。
愛してると永久に強く想うから、君の笑顔は今でも僕の胸から離れないよ。
煉獄の炎のように灼けつき、身体を蝕んでいくこの想いを、
どうやったら手放せるのだろうね。
それでも君はもう新しい季節を生きているのだろう?
君といた春で止まったままの僕とは違って。
桜の花びらは次に雨がきたら終わってしまうだろう。
けれど、覚えていてほしい。
僕が確かに君を愛していたことを。
僕らが共にいた季節を。
そして、ずっと忘れないでいてほしい。
(桜の花を目にしたら・・・)
あの日の約束の言葉を。
君 と い た 春
もう一度やり直したいと願うほど輝かしい、君といた季節。
けれど君はそれを拒むから。
桜の花を目に、散りゆく花びらを指で摘んだ。
次の雨でこの胸にあるすべても流れることを願って。
(そうしたら、約束だけが残るといい)
19.02.10