自慢の脚で走っているとき。


     
     自分は風になったような、風と一体化したかのような感じがする。


     そして、走りきって見上げた空の綺麗さと、輝く太陽が好きだ。    
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     




 
        もう一つの太陽
















     

     走って、走って。


     風を感じて。目を開いた瞬間に見える、輝く太陽。






     「すごいっ!12秒フラット!」
  
     


      

     顔を上げて、タイムを計っていた友達を見る。

     その子は、ほらほら!と歓喜の声を上げての傍に駆け寄ってきた。

     その声に他の部員の意識もそっちに集中し、




     「さすが、わが陸上部のエース!」

     「やっぱ部長だわっ。頼りにしてるよー」

     「すっごーい!12秒?次の大会もいけるよ!」




     などという、賞賛の言葉があちこちから飛び交った。



     は周りにありがと、と笑った。


     期待されすぎるとプレッシャーだが、逆にいい感じのカンフル剤になるのかもしれない。

     この東北地方、冬になると練習が完璧にできなくなるので

     次の大会が二年最後の大会となるのだ。  
   




     「じゃあ今日はこれで終わり!解散!」


    


     部長のがそういうと、ありがとうございました!!と言う声が響いた。
  
     みんな散らばって用具を片付け、部室に向かっていった。




     しかしはまだ終わらない。

     この後も使用可となっていたので、今日も自主練だ。
 
    


 
     「さよならー!」

     「あれ、またやってくの?がんばれー」
 




     そういって、更衣が終わった部員たちは帰っていった。



     普通より少し多めの練習量。

     それだけでもきついのに、その後に練習しようとする人は以外いなかった。
      
     自分とは好きの強さが違うのか、と少し寂しいような気持ちになる。



     そんな気持ちを首を振って振り払った。

     深呼吸をして、制服姿でサッカー部の何人かがゲームをやっているのを

     横目で見ながら、ダッシュの練習を始めた。






     
     位置について。よーい・・・・・・・・・・ドンッ!




     

     

     タイムを計るときと同じように50mをダッシュする。

     今日も、これを50本。周りに言うと驚いた顔をされるが、にとっては日常だった。

    



     走って走って。 走って走って。
       
 
         


     
     「またやってるよ、陸上部の

     「そういえば、大会あったっけ」

     




     そんな周りの声も聞こえないくらい、は走ることに集中していた。











  








     

     気付いたら、もう日がかなり傾いていた。

     今までよりも早い太陽の傾きに、もうすぐ冬が来るんだなぁ、と季節を感じた。


     でも、あとはタイムを計って終わりだ。


     よしっ、とたれてきた汗を拭うと、は走り出した。



  
     走って、走って。



     







     「危ない!!」








     サッカー部のほうから声が聞こえて。
 
     気付いたとき、足元にはサッカーボール。

     しかも、脚が地面につくところ。      

     

     あっ、と体を止めようとするが、スピードがついた体は急には止まらなかった。

     あー、ブレーキが甘いって前にコーチに言われた気がする。それってこういうことなのか・・・・・・。               

    
    
     思いっきりボールを踏んだはそのまま足を捻ってこけた。






     「あいたたたたた・・・・・・っ!」

    
  

  
     
     座ったまま呆然としていたが、右足首に違和感があった。

     それは、立ち上がろうとしたとき、激痛となって襲ってきた。
  
     
     どうやら、足首を捻ったみたいだ。
     
     


 

     「大丈夫かっ!?」





     サッカー部の人が一人、代表者のように走ってきた。

     みたことのない人だったけど、走ってきたその速さはサッカー部にしておくのは

     もったいないんじゃないか、と思うくらい速かった。

     

     ホント、誰だろう。もったいない。


     こんなに速いのなら、エースになれるのに。私じゃなくて・・・・。     

     二年にもなって、知らない生徒なんていないはずなのに、は彼の事を知らなかった。 

     

   



     走ってきた彼は、の傍にしゃがんだ。






     「立てるか?・・・・・って、足首、どうした?」
     
     「捻った、みたい・・・・・・」
  
     「うわっ、大丈夫かよ!悪い、俺たちのせいで」





     が足首を押さえながら苦笑すると、彼は頭を下げて謝った。   

      

    

     「って、お前陸上部のエースじゃん!、だっけ」
  
     「そ、そうだけど・・・・・」

     「余計ヤバいじゃん!保健室っ!」 

 
 


     エースじゃなかったら別のよかったのだろうか。・・・・そういうわけでもなさそうだ。

   
     次の瞬間、彼は私を抱えてさっきと同じくらいの速いスピードで、保健室までかけていった。






     「えっ、ちょっと・・・・いやァァァァァッ!!」





     
     速い速い速いーっ!!


     ・・・・・・トラウマになりそうだよ、これ。
     






    
 




     
     校舎内を走りぬけ、保健室に着いた。


     彼はを抱えたまま、保健室のドアを開けた。





     「センセー!・・・・・って、いないし。帰ったか」
  


   

     しょうがないよな放課後だし、と彼はをイスに降ろした。
 
     
     そしてゴソゴソとシップや包帯などを取り出す。

     いいのかな、勝手に持っていって・・・・・。


     の心配もよそに、彼はの前にしゃがみこむと手当てを始めた。

     サッカー部だからだろうか、その手つきは慣れていた。






     「よぉーっし。これで平気だと思う」

     「あ、ありがとう。ごめんね、わざわざ」

     「いいって。俺らがボール飛ばしちゃったし」





   
     二カッと笑った彼の笑顔は素敵だった。太陽みたいに、明るかった。    


     
     でも自主練で勝手に使ってたし、とが言うと、

     俺らだって時間過ぎて自主練だったし、おあいこじゃん?と彼は笑った。 





     「あ、俺は日生光宏。この前転校してきたんだけど、知らない?」

     「そうなんだ。だから勧誘できなかったんだ」

     「勧誘?」

     「そう。そんなに足速いんだから、本当なら陸上部のエースだったよ」

     


     もったいない、というに日生はやめる気ないからさ、といった。

     サッカーが一番、ということか・・・・・。

     



     「、それじゃあ歩くの辛いだろ?送ってく」

     「わ、私チャリだから大丈夫っ」
    
     「余計ダメじゃん?」

     「う・・・・」

     「よし決定な!」
  
     「でもっ、私重いし、悪いからいいっ!」
  
     「大会あるんだろ?早く治さなきゃいけないじゃん」

     「でも・・・・・っ」




     が何か言う前に、日生は荷物取ってくる、と保健室を出て行った。

     









 



     日生が戻ってくるのは凄く速かった。役に立つね、その脚。
  




     「あ、先生」

     「帰ってきたね」

     「今、先生に診てもらったから」




   
     どうやら、帰ったと思った保険医は週番らしく、まだ残っていたらしい。





     「大丈夫、そんな重くないよ。よかったね」

     「ホントごめんな、

     「う、ううんっ。包帯ありがとね」

     


     笑ったの足首には、日生のやった包帯がそのまましてあった。





     「さ、脚治ったら勝負しようぜ」




     日生はまた太陽のように笑った。

     ひまわりとはちょっと違う感じ。太陽、っていうのが一番合う笑顔。
  
     走るの、好きなんだなぁ。しかも自慢の脚と見た。
    



     「100mで?」

     「そう」

     「いいよ。治ったら、ね」




     じゃあ、送ってく、と日生がもう一度言う前に、は立ち上がった。
 




     「じゃ、じゃあ日生、君。怪我もそんな重くないし一人で帰れるからっ」





     そういうと、は保健室を飛び出した。










     飛び出したはいいけれど、よく考えれば練習してたままの服装。


     さすがに寒いので、はトイレで着替えた。



     しかも、包帯をしているとはいえ脚は結構痛かった。


     お金があったので、しょうがなく自転車を置いて、バスで帰ることにした。      

     よかった、まだバスあって。そう思いながら、はバスに乗った。





     ・・・・・・きっと、自転車の二人乗りは、恥ずかしかっただろう。     










    
     「日生、光宏・・・・・か」







 
 
     人のほとんど乗っていないバスの席で、彼の太陽の笑みを思い出した。

   

 

     初対面だったのに、の心はもう、彼に奪われていた。



     あたたかい、太陽のような彼に。

 

     走りきった後の、景色のような彼に。

  

     一目惚れは信じない方だったのに、大好きなものと同じ彼に恋をした。





  
   
     ・・・・・・・・このときから、彼は私のもう一つの太陽。