窓から寒い風がひゅう、と吹き込んだ。
ほんの少ししか開いてないのに途轍もなく寒かった。
もしかしたら、自分の見間違いなのかもしれない。
寒さで、夢でも見ているのかもしれない。
そんな考えを打ち消すように、堂々といつもサボリ場所に使う
第二美術室に現れた奴は、笑った。
「腕、怪我しちゃった☆」
「うそ!?」
いやいや、☆とかつけてる場合じゃないでしょう。
仮にも君は選抜にも選ばれちゃうサッカー少年。
快速ウィング?だっけかなんていう通り名まであるらしいのに。
少し埃臭いが、古いヒーターがあるこの部屋の
一番暖かいところに座っていたは、つかつかと歩いて
自分の隣に座った日生を呆然と見ていた。
「いやさぁ、ちょっとへましちゃって」
「へ、へまって・・・折れてるの、それ?」
「ううん、酷い打ち身」
折れてなくてよかったよ、ハハハと笑う日生。
その右腕には包帯がぐるぐる巻いてあって、首から布で吊るしている。
いつも元気なだけに、凄く痛々しい。
「ノートとかは俺元々コピーだし、いいんだけどさ、」
「そうだね、私の全部コピーだもんね」
心配そうに日生の右腕を見つめる。
どれくらいで治るのだろうか。
というか、何で昨日誰も教えてくれなかったの?
大体選抜で怪我をすると雄大君がメールしてくれるはずなのに。
「飯が食えないんだよなぁ、右手だし」
「・・・・・・そうだよね、大変」
腕から視線を上げたに、微かに笑った日生は
すぐ俯いて、眼は弁当を見ていた。
いつもパンのくせに、今日は手作りの弁当だった。
・・・・・・何だか、この後いいそうなことが判った気がする。
そして案の定、日生はとんでもないことを口走った。
「だからさ・・・・・・が、食べさせて」
にっこり、といつものように爽やかな笑顔を向けられ、
語尾にはハートマークがつくような声音。
思考が一時停止した。
ひぃ・・・っと思わず声が漏れる。
「や、やや、やややや、やだよっ!」
「えー・・・何で?」
「何でじゃないよっ、嫌なものは嫌!」
大体それって、食べさせるって、アーンってやることでしょ?
そんな恥ずかしいことできるわけ無い・・・!
それに私たちは、別に付き合ってるわけでもないし。
ただ一方的に、私が日生を好きなだけで。
「俺食えないじゃん、腹減ったー」
「そういうのはクラスの女子とか友達にさせてよっ」
「・・・・・・いいんだ、させて」
急に低くなった声に、え?と間抜けな声を出してしまった。
弁当を掴んで立ち上がった日生は、スタスタと扉に歩いていく。
「じゃあ、この間告白された娘と食べこようかなー」
他の子が、日生とあんなことをする?
何だか、背筋が寒くなった。
愛しいヒーターの温もりを捨て、は立ち上がって駆け寄り、
日生の着ているパーカーを掴んだ。
そんな行動をとった自分が恥ずかしくて、は顔を紅くして俯く。
叫ぶなんてこと、出来ない。
でもこんな状態でいるのもわけわからないし・・・っ。
さらに熱る顔を見られないように、髪が肩から落ちる。
「・・・・・・や、だ」
出た言葉はか細くて、古いヒーターの音で掻き消されそうなほどだった。
弱々しく搾り出すような声だったのが更に恥ずかしくて
は穴があったら入りたかった。
三秒くらい沈黙が続く。
その間、ヒーターの音だけが部屋中に響いていた。
「俺も、やだ!」
沈黙を破ったのは、日生の凄く嬉しそうな声と
思いっきり抱きつかれて出たの悲鳴だった。
その後、は箸を使い、全部食べさせたのはいうまでもない。
そのときの互いの顔が赤かったのは、温かすぎる
ヒーターのせいだということにしておきたい。
((だって、まだ))
面というには恥ずかしくて
「日生、どうしたんだよ、その包帯!」
「あははー、ちょっと昨日のが(黙っとけよ!)」
「昨日の怪我は擦り傷だったろ?(に手ぇ出すな)」
「げ!お前、ちょっ、」
間。
「え・・・?」
「驚かすなよな、俺のせいかと思ったじゃん(ザマアミロ!)」
「日生、どういうことか教えてくれるよね・・・?」
「あはははははは」
ガバッ、と日生の包帯を剥ぎ取る。
「うわっ、嘘っ、信じられない!日生の莫迦っ!」
顔を紅くして走り去ったの後ろ姿を、日生は微笑って眺めていた。
(また二・三日口利いてくれなくなりそー・・・)
それでもまぁ、本来の目的は果たせたし、いっか。