とんとん、と友人が、の席を指で叩く。
   前に座った彼女は小さな紙を畳んで、机に置いて、また前に向き直った。
   授業中だというのに、クスクスと笑う。

   ん?と思って、は紙を開いた。



   先に食堂行ってて、昼
   生徒会室寄ってから行くからさ!
   ちょっと
   やらなきゃいけない書類もらってくるから
   ってか、今年どうする?      
   くりすます
   あいてるなら
   いっしょに遊ぼうよ!
   てか遊んで!親出かけるから
   るすばんなんだ・・・
   



   「ブッ・・・!」
   


   
   思わず吹き出した。
   顔を上げて教壇にいる教師をみて、また笑う。
 
   教師はいつも通り真面目な顔で化学式について語っている。
 
   それが可笑しくて、笑いが止まらない。
   必死に堪えるが、堪えきれず声が漏れる。
   プルプルと震えながら机を叩いて、友人に抗議する。 
   だが友人も口元を押さえて視線を合わせ、首を振っている。   
   
   もはや、互いに限界だ。



   「!何がおかしい!」

   「っ、む、無理・・・!先生、あいてるっ、て!あははははっ」
  
   

   ついに堪えられなくなり、は友人と大声で笑い出した。   
   それを封切りに教室中が笑いに包まれた。
   終業のチャイムが鳴るまでそれは続いた。

   


   「、手紙落ちてる」

   「え、うそ。ありがとー」



   後ろから日生が紙を渡してくる。
   先ほど爆笑させてもらった、友人からの手紙だった。
   笑うあまりにくしゃくしゃに握りしめてしまったので
   そのまま落としたようだ。
   受け取ってから、机に載せてしわを伸ばす。
   
   
   
   「・・・これ、みた?」

   「うん。クリスマスに留守番なんて淋しいな」

   「ほんとにねー」   



   どうやら、日生はこの手紙の本当の読み方に気づいていないようだ。
   
      


   「あ、まだ落ちてる。二枚」

   


   え、と受け取って中身を見て、は硬直する。
   昨日やりとりした、二枚。
   

   すーがく
   きらい!
   なんか
   ひとケタとりそうだよテスト・・・
   とりあえず赤点回避したいなぁ
   ってことで
   てすと勉強しようよ
   だれかの家集まってさ!
   れんらく回して決めようよー
   よるでいいからさ
 

   
   友人が渡した一枚目。

   もうすぐ今年も終わり、来年からは受験に向けて忙しくなる。
   だからだろうか、それとも日々の行動に気づいたのだろうか。 
   クリスマスが近いからという流れで友人がきいてきた。
   その内容を手紙に隠して。

   ・・・ううん、隠すなんてできてないのかもしれない。
   読み方さえわかれば、小学生レベルの暗号文だ。
   それでも、口にするには恥ずかしいことをいうには充分で。


   二枚目を見る。友人への答えを素直に書いた、の手紙。
   ずっとずっといえないでいた、気持ち。  
   友人という立場に甘えて、隠してでも近くでいたい。 
   ずっとずっとみてきた、人。   
 


   ひりつのとこ全然わかんない!
   なんでこーなるの?
   せんせーに聞きに行く?  
            



   「・・・たち、数学できないの?」

   「うっ、うん!もう二人して文系だからさっ」

   


   読み返して、恥ずかしくなった。
   熱くなった顔を誤魔化すように、首をぶんぶんと縦に振る。
   日生はちょっと不思議そうな顔をしたけれど、俺も!と笑うだけだった。

   わかってない、よね?
   そうだ、日生はさっきの手紙も読めなかったんだもん、大丈夫。
   大丈夫な、はず。

   心臓はうるさいほど鳴っている。
   本当は逃げ出したいほど恥ずかしい。
   でもバレてないなら、ただ平然を装う方が自然なはずだから。


   
   「日生!マネージャーが呼んでるー」

   「おー、わかった!今行く」


 
   じゃあな、と教室の外へと出て行く日生を見送って
   は深く息を吐いた。
   同時に友人が席へ帰ってきて、小さく尋ねる。



   「読まれた?」

   「・・・うん。でも、読み方わかってないみたいだった」
 
   「そっか。なら、普通にしてなよ」
 
   「そうだよね。ありがと」

   「の下手だから他の読まれたらバレちゃうしね」

   「うるさいなぁ、もう」



   帰り支度をしながら、放課後の予定を話す。
   どうせ二人とも部活も入っていないし、今日も教室で
   話してから帰るのも楽しい。お金もないし、席からはちょうど
   グランドがみえるのだ。



   「席に着けー」



   プリントを一枚手に戻ってきた日生が席に着くと同時、
   担任が入ってきてHRが始まる。
   補習の日程表が回されて、悲鳴があがる。
   まだテスト範囲すら配られていないというのに、気が早い。
   どうせこの時期、雪で外に出られなくて中止になるとわかっていても
   恐いものは恐いのだ。
     
   ぼちぼち頑張れよー、と緩く話は締めくくられ、HRが終わる。
   次々に立ち上がって出て行くクラスメイトを見ながら
   は友人に放課後の提案をする。

   すると後ろから、他の皆と同様に帰り支度をした日生がの名前を呼んだ。
   振り返ると、満面の笑みを浮かべた彼が小さく畳んだ紙を投げてくる。 
 





   「これ、俺から!」

     



   慌てて両手でキャッチして、彼をみるが
   じゃあな、と手を振って教室を出て行ってしまった。
  
   開くと、それは手紙だった。
   が友人とやっていたのと、同じ。  



   おれもテストやばい!せんせーが母親に
   れんらくしたみたいで
   もうすげー
   おこっててさ
   まいった・・・あ、そうだ!
   えいごの
   のーと貸して!
   こんどのテスト 
   ともだちと賭けてんだよー
   すーがく教えてやるからさ
   きょうしつで待ってて 

   
   


   「・・・・・・・・・・・っ」



   
   う、うそつき・・・っ。
   彼は何でもお見通しだったということだ。 

   教室で待つか、逃げるか。
   ・・・そう、がどちらを望んでいるかということさえ。