現世への任務が終わって、報告書を書いていたら
ここにくるなんて凄く恐かっただろう、4番隊の子がきた。
そう、お気に入りの花太郎が。
いつものんびりしてる花太郎の表情は、とても焦った様子で。
「・・・・・・・・・・・・え?」
いっそ4番隊に移動してしまおうかと思ったくらい可愛いくて
ちょっと抜けてる花太郎が言った言葉に、思わずペンが手から落ちた。
あ、インクが報告書に付いたかも。また何か言われるよ。
・・・・・・・じゃなくて!
視線でもう一度花太郎に問うて、極めて危険な状態です、と言う
返事を聞いたと同時に駆け出した。
机の上の報告書などの書類が宙に舞い、てめぇどこいくんだこらっ!という
隊員の怒鳴り声が響いた。
果実といえば
もちろん向かったのは檜佐木さんのところ。
あの人とは、真央霊術院で出会った。
確か、私が4回生であの人が6回生だったときだと思う。
「檜佐木さん、ここにいますかっ!?」
ドカッと扉が壊れそうな勢いで入ってきたが見たものは
花太郎の言ったとおり、包帯ぐるぐる巻きで寝台に寝そべっている檜佐木。
・・・・・その堂々とした様は、とてもじゃないが怪我人には見えなかった。
「うわ、マジだよ・・・・」
「・・・・・・・お前、久しぶりに会った一言がそれかよ」
檜佐木は寝そべったまま、首だけをのほうへ向けた。
カラダの方はどうやら本当に動かないらしい。
・・・なのに、態度はいつもと変わらずだった。
はハア、と息を吐くと、近くにあった椅子に座った。
「うーわーァ。花太郎から聞いたから嘘だと思ってたのに」
「悪かったな、嘘じゃなくて」
「いや、ほんとビックリ!檜佐木副隊長ともあろうものが・・・・虚ごときに」
「・・・・・・・・・・・・・・」
ジロ、と檜佐木が睨んできたのでは一旦言葉を切った。
だって、檜佐木さんですよ?
私たち後輩からすれば卒業前に護廷十三隊への入隊が決定してた
超有望株の憧れの先輩の・・・・はずで。
しかも今、9番隊副隊長。実力もあるのだから。
・・・・・・・まぁ、そんな心の内は秘密にしておくけれど。
は檜佐木の恐い視線を気にしないようにして、自分が持ってきた
モノを膝の上に乗せた。
「はーい、現世土産のありがちなお見舞い品、果物セットでーす!」
「・・・・・・・・・・・・どーも」
珍しく檜佐木がお礼を言った途端、はブッ!と思いっきり吹き出した。
檜佐木の目の前には可愛らしい苺や林檎、メロンやバナナなど様々なフルーツがあって。
「・・・・・・・・・・・・ひ、檜佐木さんって、ホント可愛い系の小物似合わなぁーっ!」
その場で腹を抱えて笑い転げる。
ふ、腹筋が攣る・・・・ッ!腹が痙攣している感じがした。
あ、アハハハハハ・・・っ、ま、マジ死ぬ・・・・ブッ!
バカみたいに笑い続けるの頬が、むんずっ、と檜佐木によって摘まれる。
そのままぎゅーっ、と引っ張られて、は笑いで浮かんだ涙とで更に涙目になる。
「いたたたたたたたたたっ!」
「お前はそれを言うためだけにきたのか、コラ?」
「い、いひゃいふで、ほひはけふはひゃひへ・・・・・っ!」
さ、さすが副隊長。元11番隊と噂される方・・・・ッ!
だ、だ、だってもう気迫が違うよ!こわいなぁもう!
痛さで涙目になった目で、檜佐木のほうを思いっきり睨む。
11番隊仕込みのガラの悪い睨みに、決して臆したわけではないだろうが
檜佐木はパッと手を離した。
「こ、これでも一応、檜佐木さんが大怪我したって言うんで
心配してすっ飛んできたんですよ!・・・報告書ほったらかして」
「・・・・・・・・・といいながら右手の握りこぶしとちょっとだけ、みたいな動作は何だ」
「そんな事気にしてるから虚なんかに騙されるんですって」
はうーふーふー、と笑って誤魔化した。
檜佐木がやられたのは、虚の能力が厄介だったから。
誰に化けてたかは聞いてないが、どうやら檜佐木が
絶対に切ることのできない、見破ることができないような状況にするほどの
能力と知能を持っていた虚だった、と聞いた。
・・・・・あ、もちろん指はわざとだけれどね。
「で、何でフルーツセットかっていうと!」
「・・・・きいてねぇよ」
「前に一角のときは猿はこれでも食っとれ栄養ばっちしじゃー!って
バナナあげたんで、そのシリーズでいいかなぁって思いまして」
猿って言うより他の生物っぽいけど、知能は猿っぽいから。
・・・・あ、もちろん猿よりも全然かっこいいよ、うちの3席は。うふふ、ひみつだけどね。
「でも、檜佐木副隊長様はイメージないんで、めん・・・・・・セットで」
「嫌味か。そして含みの部分が凄く気になんじゃねぇか」
「うーふーふー。あ、他の人はですね」
「・・・だからきいてねぇって」
「涅隊長がドリアン。あの得体の知れないところがそっくりでしょう?
可愛い雛森ちゃんは桃。乱菊のときはイヤガラセでスイカ持っていきました!」
胸のサイズと一緒ってね!
・・・このデカチチめ!憎いんだよその色気が!
しかも喜んでたからね、嫌味が通じてくれよ。むしろ私が嫌いだったのに。
「剣八隊長にパイナップル持っていったら、やちるちゃんが
剣ちゃんの頭にそっくりだね!って含みの部分を言っちゃって
危うく一角が溜めに溜めた書類整理という残業地獄にされるところだったんですよ・・・!」
あれは恐かった。
だって隊長、目がマジだった。命の危険を感じたよ。
斬魄刀開放しようとしてたよ、だって。
しかも一角の溜めた書類って机いっぱいにあるんだからね、絶対終わらないから・・・・!
・・・・・恐かったそのときを思い出してぶる、とは体を震わせた。
頭を軽く振って気を改めると、自分の膝の上に乗っかった果物セットの中から
林檎を一つ手に取る。
真っ赤に熟したその林檎を左手に持ち、そして腰に挿していた刀を鞘から抜いた。
「ごっほん。では私が、大怪我で極めて危険な状態です、ってきいたのに
全然平気でピンピンしている檜佐木さんにこの林檎を剥いてさしあげましょう!」
「・・・・・・・・・果物が原形をとどめていることを祈るぜ」
「だーいじょうぶですって!・・・きっと」
微妙な笑みを浮かべながら、は手に持った林檎をするすると剥いていった。
ふんふふーん、とか鼻歌まで歌って。
「へっへっへー!じゃっじゃじゃーんっ、はいできたー!」
その声と同時に檜佐木がはっとすると、皿の上にはきれいに
皮が剥かれ、切り分けられた林檎が並んでいた。
そのような細かいことなど絶対できないと思っていたので、
その仕上がりの意外さに檜佐木はほぅ、と関心するように息を吐いた。
「さすが仮にも11番隊にいるだけはある、刀遣いは上手いな」
「当たり前。今まで何十人サバいてきたことか・・・・」
「・・・・・冗談だったんだけどな」
今度はため息を吐いた檜佐木は、皿の上から林檎を一つ取り、
口の中に入れた。
広がる甘酸っぱい香り。意外と美味かった。
「・・・・って、何食ってんですか!これ一番綺麗に剥けたのに!
しかも私が食べようと思ってた方の林檎だしっ、林檎大好きなんですよっ?」
美味い、と思った瞬間。の大声が響いた。
その目は本当に恨めしそうで、食い物の恨みは恐ろしいんです、と
睨んでいた。
・・・そういえばコイツは林檎が好きだったときいたな。
あいかわらず食欲は衰えてないのか。霊力の使いすぎか?
じゃなくてだな・・・・・!
「何でお前が食うんだよ!一体何しに来たんだっての!」
「食事です!」
「開き直るな!」
「だって檜佐木さん副隊長だから
お見舞い品もいっぱいくるし、あげくに高価なのが多いしぃ!」
「そういう問題か!」
「あー、美味しいこの林檎」
「しかも自分の分だけ、他の奴のちゃっかり剥いてんじゃねぇ!」
仮にも大怪我してるのに、大声でつっこむ檜佐木に
思わずは声を潜めて笑ってしまった。
「・・・・・おい」
その声と同時に、の体は寝台に倒れこんでいた。
え、え、え・・・っ?
と、状況把握がいまいちできないでいるに見えるのは
ニヤリ、といった感じの嫌な笑い方をした檜佐木。
「ひ、檜佐木さん・・・・どういう、つもりですか・・・・?」
途切れ途切れにしか出てこない言葉。
そして、いつの間にか覆いかぶさっている檜佐木。
筋肉質な両手を両脇につかれ、身動きが取れなくなっていた。
け、蹴り上げれば逃げられるけどさすがに怪我人にそんなこと・・・・って!
「檜佐木さん、動けるんですか・・・・・・っ!?」
「・・・・まぁな」
「え、えーっと・・・・せっかく剥いたんですし、林檎食べません?」
「・・・・・・・・・・俺は、こっちが食いたい」
檜佐木の顔がどんどん近づいてくる。
筋肉質な体が近くにあって、ちょっと恐いといわれているカッコイイ顔が近くにあって。
・・・・・ドキドキしない人なんて、いないでしょう。男でも道はずしそう。
「成熟した果実には程遠いが、俺はこっちの方が好きだしな」
「・・・・・・ひ、檜佐木さ・・・・・ッ?」
「・・・・さて、俺の林檎を食い漁ったお前は、どんな味がすんだろうな」
耳元で聞こえる檜佐木の低い声。
熟しきる前の果実は、甘酸っぱくて。
熟しきるよりも、美味いと思う。
どうせ俺は食われる果実じゃなくて、食うほうだから。
大人しく果実は、食われとけ。
低いその声に体が震え、力が抜ける。
きっと私の顔は赤いだろう。
「ったく、こんなところに毎日寝てたら体が鈍るんだよな」
更に近づいてきた顔と体。
騙したな・・・・っ!
動けるじゃんか、こんなに元気に。極めて危険だって言ったのに花太郎は。
あーもうこのクソ狐!
思いっきり悪態をつくけれど、その叫びはそのうち静かになる。
・・・・・・どんな味がしたかは、彼に聞いてみてください。