ぐー、という腹の音で、降谷は目を覚ました。
   ちょうど、授業が終わるチャイムが鳴った。


  
   「お腹すいた・・・」
   

   
   朝も夜も疲労で重い体に吐くくらいの量を食べているというのに、
   順調に腹は減る。
 
   素直な身体に従い、春市を誘って購買へと足を運んだ。
   
   
    
   でも、そこは戦場だった。



   倉持先輩や伊佐敷先輩だったら、なんの苦もなく買えるんだろうな。
   そう思いながら人の山に入っていく。
   遠くで伊佐敷先輩の大声が聞こえた。

   だが、人に押され揉まれて、とても前に進めない。
   体、大きくてよかった。
   かといって痛くないわけでもなく、空腹でフラついて辛い。




   「降谷君、遠慮してたら買えないよっ」




   春市に押されるように前に行くと、御幸先輩がいた。
   ぺこり、と頭を下げる。 

       
  
   
   「おっ。お前もパンか?こっちこいよ」



  
   珍しく親切だったので、お言葉に甘えようと人を掻き分ける。
   大体の人は自分より背が低いので、そこまで抵抗力はない。   


   すると、とん、と最前列から出てきた人にぶつかった。
   

  
   「っ」


   
   シュークリームとコロッケパンと紙パックのジュースを
   抱えている女子生徒。
   小柄で、赤みがかった茶色の髪が目立つ。
 




   「あっ、ごめんなさいっ」





   大きな瞳が、上目遣いに降谷を覗き込んでそういった。




   「・・・っス」

   


   大丈夫です、というつもりが言葉にならなかった。
   洋菓子のような、甘い香りが鼻に残る。
   彼女は、人垣を越えた廊下で待っている友人らしき人のところへ
   そのままパタパタと走っていった。 
 


   「買えたよー!」
  
   「今日もシュークリーム?」

   「うん!」



   満面の笑みを浮かべているのが見えた。
 




   どくん。




   目が離せなかった。
   甘い香りの、赤茶の人。




   「降谷ー、買わねーのかぁ?」
   
   「降谷君?」




   二人に呼ばれて、降谷ははっと我に返る。

   



   「・・・やきそばパンとしゃけおにぎりが欲しいです」





   もう一度視線だけ振り返っても、彼女はもうそこにはいなかった。
   だが、その笑顔が一日中頭から離れなかった。