練習試合当日。
見に行くかどうかが悩んでいると、担任から呼び出された。
どさ、と置かれたのは大量の課題。
「えっ先生、何でっ?」
「こ、れ」
ぴら、と出されたのはこの前の英単語のテスト。
ぎくーん。
「お前さん、一回も受けてないってどういうことだおい」
「あははー・・・」
笑うしかない。
月二回、月曜日の朝にある英単語のミニテスト。
全10問しかないが、何故かSHR開始前に行われている。
は、寝坊して本番も追試も追追試も受けていない。
だ、だいたい朝早くに始めるのが悪いと思うの!
「確かに結城に彼女が出来て頼み辛くなったのはわかるけどな・・・」
「いや、そんなこと気にしてないっていうか、むしろ一緒に起こしに来てますけど?」
「どんだけ仲良いんだお前ら」
「彼女の方があたしのファンなのっ」
「・・・・・・。とりあえず受けてねーんだから、課題だ、課題」
提出したら点数はやるから、との言葉をさらりと流した担任は
ノート一冊分はあるんじゃないかというプリントをの手に押し付ける。
あ、と煙草を取り出しながら担任は手を振った。
「それ、今日中だからなー」
「はいぃ!?」
「まぁ今からやれば大丈夫だろ、なら」
きばれや、と背中を押されたはちらりと時計を見た後に
泣く泣く教室で課題と格闘した。
+
「つ、かれたー・・・」
延々と単語を書き続けるという単純作業なだけに、憂鬱だったが
そんなことより、手首が痛い。
あー、これ絶対腱鞘炎になるって。
ふらふらと歩いて提出して、校舎を出る。
外はもう真っ暗だった。
野球部の練習さえも終わっている。
「マジでー・・・?」
でもまだナイターはついたままだった。
の家はすぐそばなので、グランドの脇を通って帰る。
すると、誰かいるのが見えた。
「降谷、くん・・・?」
はその姿をみて、立ち尽くした。
自分の右手をみて、ぐっと唇を噛み締める彼。
悔しい、苦しい。そんな表情だった。
内に秘める情熱を、その瞳にたぎらせていた。
そばには縄のついたタイヤがあるので、これから自主練かな。
そんなことを頭の端でちょっと思ったけれど、の意識は
降谷の瞳に吸い込まれたように離れなかった。
真剣な顔。
ずっと焦がれて、でもまだ足りなくて。
自分の力をもっと伸ばしたい。
もっと、上に。もっと、強く。
向上心と現状の不甲斐なさを悔いるように翳る顔。
そうか、彼は野球をするために、遠い北海道から東京に来たんだ・・・。
まだ高校生の彼が、親元を離れて、ただ強くなりたい一心で。
もうすぐ夏が始まる。負けたら終わりの、夏大会が。
それにはまだまだ課題が多いと聞く。
でも、彼は前だけをみて、勝つことだけを欲している。
どこまでも貪欲に。
高校球児の・・・いや、彼の本気がそこに見えた。
「・・・・っ」
心臓が締め付けられたように痛くなる。
は思わず手をあて、そこを握り締める。
目が、逸らせない。
耳に聞こえるのは、自分の鼓動。
彼を初めて、遠いと感じた。