練習試合がみれなかったことを詫びると、結城はそうかと
   いうだけだった。ちなみに、御幸は本当にシメられたみたいだ。
   まぁ、御幸くんのことだしうまくかわしたんだろうけど。

   

   「・・・何かあったのか?」

   「え、ううん・・・何にも、ないよ」

   「・・・・・・・・・」



   結城は少しの間、考え込む。
   そしてふと、純がいっていたことを思い出した。
      


   「・・・今日限定のチョコレートのシュークリームが売っているらしい」   
       
   「っばか哲!早くいってよそういうことはっ!」
          
            
   
   はがたりとイスを鳴らして立ち上がると、運動部でもないのに
   無駄に速い足で駆けて行った。





   「はい、終了ー!」

   


 
   だが、がついたと同時に、おばちゃんの元気な声が響いた。

 

   「そ、そんなぁ・・・」
   
   「ごめんね、ちゃん」

   「うぅ、とっておいてよぅ」

   「それが分けておいたやつ、取られちゃったのよぅ」

   

   また今度、二つとっておいてあげるから!とおばちゃんが慰めてくれたので
   はパンとチョコボールを買った。



   

   「先輩」





   とぼとぼと歩いていると、階段のところに降谷がいた。
   声をかけられ、心臓が跳ねた。立ち止まる。

  
  
   「あっおはよ、降谷君」

   「・・・これ」



   す、と差し出してきたのは、こげ茶色のパッケージの。

  
 

   「あぁー!限定チョコシュー!」


   

   月に一回だけでる違う味のシュークリーム。
   ほしくてほしくて先ほど慰めてもらったばかりだというのに。





   「・・・あげます」

   

   

   ばっと勢いよくは降谷を見上げた。  

   


   「えっ、いいの?」
  
   


   目を輝かせるに、降谷は心の中で可愛いなぁと思いつつ
   こくり、と頷く。  
   の表情が一瞬にして明るくなった。





   「ありがとっ!」



   

   嬉しい、とは降谷の手を取って礼をいう。

   



   「あ、そうだ!じゃあお礼に・・・」




   スカートのポケットの中に入れておいた飴を取り出して、
   降谷の手にのせる。




   「即効のスタミナ回復にいいんだってっ」

   

    
   この間友達に教えてもらった。
   女子バスケ部ではインターバルで舐めるんだって。

   にこにこと満面の笑みではそれを伝える。
   これからくる炎天下の中の練習や試合は否応なく
   体力を奪っていくだろうし、北海道からきたならなおさらだ。

   


   「・・・ありがとうございます」



    
   降谷はぺこりと頭を下げた。

   優しい、なぁ。はいつだって、一人の選手としての身体を案じてくれる。
   先輩もしているだろう降谷へのエースとしての期待を口に出さず、
   身体をいたわってくれる気持ちが嬉しい。

   

   「あ、明日試合なんだって?」

   「はい」
   


   一軍として、青道を背負う試合。
    
   

   「先発、です」

   「そうなんだ!」

   

   明日は平日なので授業中に試合となるため、応援も野球部のみが許されていた。

   あの人たちと野球ができる。
   御幸先輩が球を取ってくれる。   
   そして、応援してくれる先輩がいる・・・。




   「ベストを尽くして!応援してるよっ」




   降谷はこくり、と頷いた。


   表情はあまり変わっていないが、とても嬉しそうだった。
   柔らかくなった表情。周りに花が飛んでいるような上機嫌。
   話すたびに、彼の表情の変化や感情を知ることが出来て、とても嬉しい。
   知れば、クールなんかじゃなくて、熱い人だってわかるし。
   素直で可愛い。そしてちょっと淋しがり屋さん。

  
   



   「頑張ります」






   そう言って表情を和らげた降谷の本当に嬉しそうな顔に
   どくん、と鼓動が高鳴った。







   「失礼します」


   


   
   春市に呼ばれて去って行った降谷。
   はその背中をぼんやりと眺めていることしか出来なかった。

   頬に手を当て、気づく。



   熱い・・・っ。


    
   頬も、耳も。
   嘘、でしょ・・・・?