朝練の後、先輩たちが更衣室に向かっていく中
   御幸が降谷のところにきて、笑った。




   「そういえばこの前、先輩グラウンドの傍にいたぜ」




   この間、校内で行った練習試合の日だという。
   


 
   「あそこらへんに立って、こっちみてた」
  
   「え・・・」   

   「お前がスタミナ切れでボロボロだったの、みてたかもな」
 
   「・・・・・・・・・・・・・・」




   図星をさされて、黙る。不甲斐ない結果だった。
   ぐ、と手を握り締め、力を込める。
   それに気づいた御幸は、降谷の方を叩いた。



   「嘘、嘘。練習後だよ」

   「・・・・・・・・」

   「お前がタイヤ出したとき、ちょうど校舎から出てきてた」



   よかったな、と御幸は更衣室へと入っていった。
   それでも、降谷の気は晴れない。

   タイヤでの走トレを始める前。
   自分の不甲斐なさに、もっと投げたいという欲望についていかない身体に、
   右手を見つめ、唇を噛み締めていた。
   落ち込んだ、あんな姿を、よりによって見られるなんて。

   ふぅ、と息を吐くと、着替えて教室へと行くのが余計面倒に感じた。






   
   「降谷くーん?」





 
   名前を呼ばれ、はっとする。
   教室へ向かう階段の途中。甘い香りが鼻孔をくすぐる。


   目の前には、
    
 
   眉をさげて、降谷の顔を覗き込んでいる。
   心配そうな顔。

   
 
   「元気ない?」

   「・・・いえ」

   

   ふるふると首を振った。
   そっか、と息を吐いたに、降谷は素直に口に出す。





   「・・・この前、グラウンドにいたんですか」


 
   
 
   急な質問に、一瞬面食らう。
   校内の練習試合の日しか思い当たらず、はこくりと頷いた。 
   あの日からずっと、の心には彼が住んでいるのだ。  

   頭から離れない、本気の彼。 
   
    
   でもなぜかそれを聞いて、降谷は複雑そうに顔を歪める。
   むすっとしている降谷には首をかしげた。

   どうしたの、かな。
   あっもしかして走トレって秘密練習で知られたくなかったとか?
   だったら悪いことしちゃったなぁ。

   どうしよう、と悩んだは、ちょっと待ってて!と購買へと走った
   かと思うとすぐに戻ってきた。




   「はい、これ」
    
    


   笑って差し出されたのは、しゃけおにぎり。
   降谷の、好物。




   「これ食べて、機嫌直して?」 




   好きなものって食べると笑顔になるし!といつもの笑顔を
   浮かべる
   降谷は驚いて目をぱちくりさせる。




   「どうして・・・・」
  
   


   どうして、が知っているのだろうか。





   「え?だっていつも買ってるでしょ、降谷君」




  
   その言葉に、嬉しくてこくりと元気よく頷いた。

   ・・・・・・みてて、くれてるんだ。

   そんな他愛もないことなのに、こんなにも嬉しくなるのは先輩だからだと
   伝えられない気持ちが心の中に溢れた。