夏休みも近づき、練習や試合が多くなって降谷とは
その後なかなか会うことはなかった。
降谷は何よりも合宿の疲れで、それどころじゃない。
日々重くなる体。窓に全体重を預け、空を見上げて
思い出すのは先輩の笑顔。気づけば眠っている。
会いたいな。
ふとそう思うけれど、そんな余白はなかった。
よく考えれば、メールアドレスも携帯番号も知らない。
現代でそんなことってあるの?っていわれるかもしれないけれど。
毎日あって話していたから、思いつきもしなかった。
「本当?」
春市にいったら、やっぱりびっくりされた。
聞かないの?とあえて春市はいわない。
身体は重いし、そんなこと降谷にできるかときかれれば苦笑するしか
ないことをわかっているからだ。だって彼もシャイだから。
まぁ、と春市は降谷に向かって微笑む。
「明後日の試合で合宿も終わるし、何かあるよ」
そういって降谷の頭を撫でた。
+
夜、結城の家にが訪ねてきた。
「・・・やっぱ哲は死んでないね」
「主将だからな」
哲らしい、とは笑った。少し、元気がない気がする。
昨日の試合で野球部は合宿を終えた。
久しぶりに帰ってくる家に、が母親からと結城に
果物を持ってきた。
「初戦、来週だっけ?」
「あぁ」
三年の、最後の夏。
でも、丹波君が昨日怪我をしたってきいた。
そのことに、はあえてふれない。
もう立ち直ったのだろうか、彼らは。
エースの怪我が、相当な動揺を与えたことは想像に難くない。
今はまだ立ち直っていなくても、彼らはすぐ自力で
持ち直すだろう。そして、エースを待つだろう。
いつだって、彼らは勝利だけを見据えているのだから。
そんなの心に気づいた結城は、洗濯物が抜かれた
合宿のバッグからをごそごそと漁った。
「そうだ。これを、お前に」
御幸から預かってきた、と結城はたたまれた紙をへ手渡した。
小さな、メモ用紙。
「へ?御幸くん?」
心当たりがないは、目を丸くする。
御幸くん・・・前に哲に頼まれた物を届けに行ったら、目を輝かせて
口説かれた記憶しかない。兄妹のように育ってきた幼馴染の視線を受け、
笑顔で交わして誤魔化していたけど。
その後のプレーの巧さは、本当にすごいと思った。
・・・あの流し目がなかったらなぁ。普通にかっこいいとは思うけど。
はそんなことをぼんやりと考えながら、メモを持った指が
少し、震える。
今、野球部っていって、思い浮かべるのは一人だ。
「・・・そういえば、最近あってないなぁ」
元気のない理由はそれか、と結城は納得する。
気に入っているしな、あいつを。
は呟くように、小さな声で続ける。
「そういえば私、アドレスすら知らないや」
「・・・・・・・・・」
結城は眉をあげて、驚く。
うん、まぁ当たり前の反応だよね。あんな仲良くなっといてさ。
友達作る基本て、アドレス交換の時代なのに。
そもそも仲良いっていうの、私の勘違いとか・・・?
・・・いやいやネガティブ入りすぎだから。
知りたいな。
今更、気恥ずかしいけれど。
どんなメールなんだろう。口数少ないけど、メールだと饒舌なのかな。
うーん、想像つかないなぁ。あ、絵文字は少なそう。ほとんどない感じ。
黙りこむに、結城は軽く咳払いをして聞く。
「それは、見ないのか?」
はっとは我に返って、結城を見た。
そっか、頼まれたんだもん、見たかどうか明日聞かれるもんね。
「ごめん、ごめん。見るよ」
開く。
そこには、アドレスと名前。
降谷暁
どくん、と心臓が跳ねた。
文字をみただけなのに。どうしちゃったの、私。
・・・もう、誤魔化しきれない、自分の心。