赤茶の人。甘い香り。嬉しそうな笑顔。
   




   「・・・やくん、降谷君てば!」 
  
   

 
   朝練が終わって、フラフラになって教室へ向かう。
   ・・・またあの人のこと、考えてた。

   春市がバッグを引っ張って、降谷は後ろに傾いていた。
   眼前には、壁。
  
  


   「ぶつかるよ!」




   階段を登る途中、踊り場の端にぶつかる寸前だった。
   もう、と春市は同じくフラフラで頑張ってくれていた。
   
   


   「もうすぐ本鈴なっちゃうし、急がないとっ」
  
   「・・・うん」




   そのまま降谷を引っ張るように春市は歩き出す。

  



   「おはよーっ!今日は間に合ったよー!」


  

   どき、とした。

   振り返ると、下の階で友人に抱きつくように挨拶をして
   笑っている彼女がいた。
   よく通る、綺麗で元気な声。


  
   「次遅刻したらモーニングコールなんだよー」
   
   「何それ。誰から?」

   「担任」

   「うっわ、嫌だわそれ・・・」

   「しかもねー・・・・・・」

   


   楽しげに話す姿に、捕らわれるように目がいった。
   何年生、なのだろう。下の階ということは先輩だということは確かだけれど。
   名前は、なんというのだろう。よく聞こえない。

   また今日も、彼女は購買に来るだろうか。
     
   

   知りたい。


 
   彼女の事を、もっと知りたい。




   「わわっ、あと二分しかないっ。降谷君、早く!」




   春市の急かす声が、遠く聞こえた。