どうやら、顔を覚えてもらえたらしい。
まぁこの学校で野球部は有名人だし。僕、エースだし。
最近、廊下や階段、もちろん購買でも、会釈すると笑ってくれる。
向こうから手を振ってくれることもある。
ぱぁ、と光るような笑顔を、向けてくれる。
・・・・・嬉しい。
「降谷君、最近機嫌いいね」
購買に向かう途中の廊下で、そんな降谷の心中を察したのか
春市がくすりと笑った。
先ほどの授業が少し早めに終わり、珍しく降谷が起きていたのもあって
いつもより早めに購買についた。
先輩が、いた。
少し、緊張する。いつもするすると姿を消してしまって
出てくるところしかみたことないのに、今日はまだ姿が見える。
経験からか買うのが上手なは、すいすいと楽に人の間をすり抜けて
よく通る声でおばちゃんを呼んで笑顔で人垣から出てくる。
だが、よく見なくてもの身長は小さい。
今日はちょうどバスケ部の軍団が固まっているようで、苦戦しているのが見えた。
(身長、僕とあんま変わらないけど・・・)
あれなら押しつぶされずに入れるだろうな、と思ってへ近づいた。
どくん、どくん、と心臓が煩い。
無表情、ってよくいわれるけど、自分ですごい緊張しているのがわかる。
・・・・・・・頑張ろう。
「何、欲しいんですか?」
初めて、声をかけた。
後ろからだったから、は頭上の声にびっくりして振り返る。
「えっ」
「代わりに買ってきます」
他の人みたいにもうちょっと愛想がよかったら、いいのにな。
そんな風に頭の片隅で思う。
は一瞬きょとん、とした顔で降谷を見上げた。
「しゅ、シュークリームと、カレーパン」
急な申し出に驚いて、大きな瞳を丸くしては答えた。
こくり、と頷くと降谷は人垣の中に入っていく。
その二つと、自分のおにぎりとやきそばを買った。
身長あって本当によかった。
何回かぶつかられたが、すんなり買えて、のところへ戻る。
「どうぞ」
そういえば、先輩っていつもシュークリーム買ってるな。
人気商品のため、降谷が来る頃にはいつもなくなっているが。
そんなことを思いつつ、差し出す。
「えっ、あっ、ありがと!」
は満面の笑みでその二つを抱え、差し出された手に代金を乗せた。
甘い香りと、笑顔。
こんなに近くで見れたのは、初めてだ。・・・すごい、可愛い。
降谷はこくり、と頷く。
その耳は真っ赤だ。
嬉しい。笑顔が見られて、話しかけられて、そしてこの笑顔をつくったのが
自分だということが本当に、嬉しい。
「降谷くーん!」
「ー!」
降谷は春市に、は友人に呼ばれ、それぞれの教室へと戻る。
軽く引きずられていたはくるりとこっちを向いた。
「本当にありがとっ、降谷君!」
ブンブンと手を振って、また笑った。
よく通るその声が、ひどく甘く響いた。
・・・自分の名前、こんなに嬉しく聞こえたの、初めてだ。