毎日毎日大好きなサッカーをやって
学校でも寮でも友達や先輩とわいわいやっている。
何も不満はないはずなのに
俺の心はあの日、癒しを求めていた。
星の消えるまで
武蔵森のサッカー部は寮制だ。
松葉寮では夏休みに入ってから毎晩、藤代が格ゲーで連戦連勝記録を伸ばし続けている。
そう、同室の笠井の事なんてお構いなくに…だ。
「うぉっ、藤代そんなハメ技ありかよっ!」
「ありですって!へっへーん、まった俺の勝ちぃ!」
「チクショー!」
ギャーギャー煩い部屋を笠井はハァ…と溜め息をついて出て行った。
・・・・・・誠二、また寝坊してキャプテンや監督に怒られても俺は知らないよ?
今日は新しいゲームが入ったらしく、いつもよりも煩かった。
ゲームの相手をしても良いのだが、笠井はあまり好きではないし
ギャーギャーと煩い中に入っていくのは
自ら自分の耳を犠牲にすることと同じと思い、やめたのだ。
結果、またいつものように部屋はお祭り騒ぎ・・・。
笠井は部屋から避難するしかないのだった。
笠井はいつものようにある部屋に向かった。
笠井達の部屋からすぐ近くの鍵の掛かった、使われてない部屋。
ポケットからヘアピンを取り出して、鍵穴に挿しこみ少しいじると
小さくカチリ、と音がしてドアが開いた。
周りを少し確認してから、笠井は中に入り、鍵を閉めた。
ここは、松葉寮の怪談話で知られる『呪いの部屋』だそうだ。
なんでも、ここの部屋もかつては使っていたそうだが
夜中に女の幽霊が出る、この部屋になると大怪我をする、不幸が続く…など
不可解なことが起きたので生徒の希望で使われなくなったそうだ。
実際は見間違いや偶然を騒ぎ立てて大事にしただけだろう、と笠井は思っている。
部屋は薄暗く、窓からは綺麗な月が見える。
今日も天気が良いので星も月も綺麗に見えた。
月光が差し込む以外に明かりはない。
もう寮内を出歩いていて良い時刻ではなく、バレるといけないので
電灯はつけられないのだ。
月明かりの中、頼りない視界を頼りに慎重に一歩一歩踏み出して
部屋の奥へと足を進める。
「うわっ…!」
すると、見えなかった何かにつまずいた。
こけないように慌ててバランスをとり、何とか踏ん張った。
ふぅ・・・と安堵の息を吐いて足元を見てみると
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何かが、寝ていた。
いや、正しくは誰かが、だ。
「誰・・・?」
笠井はしゃがんでその人の顔をうかがった。
月明かりに綺麗にうつされたのは、可愛らしい少女の寝顔だった。
歳は同じくらいで、小柄で華奢な体は丸まるように縮こまっていた。
月の光だけでもはっきりとわかる、ふわふわなウェーブの栗色の髪。
とりあえず、つまずいたってことは触れる、つまり幽霊ではなさそうだ。
「あのー・・・・」
何で少女がこんなところで寝ているのだろう。
というか、彼女はうちの生徒なのだろうか。
色々と考えていると、目の前で少女がガバァ!と起き上がった。
覗き込んでいた笠井は首がグキッとなるくらいの勢いで顔を上げた。
「だ、だ、誰?」
「いや、それはこっちの台詞」
少女の丸い大きな瞳が驚きで見開かれる。
長い睫毛がその目を縁取っていて、その顔は儚げで・・・
でも芯の強そうな顔だった。
少女はえっと・・・と頬をぽりぽりとかいた。
「・・・とりあえず、自己紹介といきますか」
・・・・・・は?と呆気にとられ、
笠井は自分でもわかるくらい間抜けな顔をしていた気がする。
「俺は笠井竹巳。二年のサッカー部だけど・・・」
『君は?』
と視線できくと、少女は一瞬躊躇ったが
『・・・・何を言っても笑わない?』
と上目遣いできいてきた。
もちろん、と笠井が答えると少女は笑っていった。
「あたし、っていうの。・・・あの、小さな星なんだ」
「・・・は?」
あれだよあれー、とは月の隣にある小さな小さな星を指差した。
もうすぐ消えそうな、弱い光を放っている星。
「・・・からかってる?」
「いや、ホントのことだって!信じてくれないの?」
「普通の人は信じないと思う」
いきなり男子だけのはずの寮の部屋に少女がいて、
しかも・・・あたしあの星なの、なんていわれて信じる人がいるだろうか。
あの藤代だって少しは疑うだろう。
不法侵入で警察を呼んだ方が良いのだろうか・・・。
「でも、ホントの事だから、信じてもらわないと」
「そういわれたって・・・証拠、っていってもな・・・」
言いかけて笠井は苦笑する。
コレが証拠です、なんてなんか出されても
星である証拠なんて見せられてもわからない。
そんな笠井の気持ちを察したのか、も困ったように笑っていた。
どうしようか、と考えていると廊下が少し騒がしくなった。
どうしたのだろう。この部屋にいることがバレたのだろうか。
ともかく、部外者のがここにいることのほうがマズイ。
見つかったら警察に突き出されるだろうか。
に喋らないで、と言うと笠井はドアに耳をつけた。
「おーい、タクー!・・・どこいったんだよ。タクいないと対戦相手いないじゃん」
本人にしては控えめな声で、藤代が叫んでいた。
どうやら、皆各自の部屋に帰ったらしく、暇になったので
対戦相手の笠井を捜しに来たようだ。
笠井は今までいなくなったのに気付きもしなかったくせに、と心の中で毒気づいた。
ぺたぺたぺた・・・
足音がだんだん近づいてきて、ドアの目の前で止まった。
「あとはこの部屋だけだな。・・・ヒャー、呪いの部屋だココ」
鍵はかけた。ドアは絶対開かないはず。
藤代がドアノブに手をかけたとき・・・
「藤代君、こんなところで何しているの?」
寮母さんの声だ。
ますます見つかったらまずくなった。
藤代はタク捜してるんスよ、と軽く説明した。
後はこの部屋だけで・・・・とドアノブを回した。
カチャリ…と音を立てて開かないはずのドアが開いた。
注がれる明るい光に笠井は目を見開いた。
なんでだ・・・・っ?俺は確かに鍵を閉めたのに・・・。
「あっ、タク!こんなトコに居たのかよぉー」
「あら笠井君。こんなところで何してたの?もう遅いって言うのに」
あぁ、は見つかって警察に出されるのだろうか。
出会ったばかりで何にも知らないが、笠井はなんだか嫌な気持ちになった。
「すみません。暇だったので呪いの部屋がどんなところか験しにきたんです」
「んだよタクー。俺も誘ってくれれば良いじゃんかぁ」
「ゲームに夢中だっただろ、誠二は」
内心冷や汗をかきながら適当に思いついたことを並べた。
チラ、と横目で部屋の中を見ると、が不安そうな表情でいた。
笠井が口パクで大丈夫、とやると、の顔の強張りが少し取れた気がした。
寮母は適当に言った笠井の嘘を信じたようで、おっとりと笑った。
「でも、ここは実際使われなくなって長いし、怪談が本当かなんてわからないしねぇ。
見ても特に何もないだろうけど…」
そういって、寮母は部屋を覗き込んだ。
笠井はハッと目を見開いて、自分の後ろを振り返る。
「あ・・・っ!」
「ほぉら、誰も居ない」
「・・・・・・・!」
「もう遅いから早く寝なさいね、二人とも」
そういうと、驚いている笠井をよそに寮母は去っていった。
藤代も早く戻ろうぜ、と急かしている。
おかしい。
笠井は藤代にすぐいく、と言って、部屋を覗き込んだ。
・・・・・・・・・・やっぱり、はいる。
もうしゃべってもいい?と笑って聞いてくるに、
笠
井は思った疑問をそのまま口に出した。
「なんで、他の人の目には映らないの?」