いわくつきの部屋であった少女は
自らを星と名乗り
更に他の人にはその姿は見えなかった・・・。
星の消えるまで
『なんで、他の人の目には映らないの?』
笠井がそういうと、は少し哀しそうな目をした。
目を伏せてギュッと瞑ったかと思うとはにっこりと笑った。
「・・・・・・。・・・それは笠井君があたしを星だって認めてくれたら教えてあげる」
「そう・・・。・・・また明日、ココにきて。俺戻るよ、誠二が待ってるから」
「うん、わかった」
「じゃあ」
が頷いたのを確認してから、笠井は踵を返して
早くこいよー、と煩い、藤代のもとへ走っていった。
朝練は最悪だった。
昨夜、あの後対戦しようという藤代に少しだけ付き合った。
眠くなったので、すぐ止めたおかげでぐっすり眠れたのだが、
やはり藤代はずっとゲームをやっていて朝はいつも以上に最悪だった。
部屋は目覚まし時計の大合唱。
5個の目覚ましがなり続けても起きないので、笠井が仕方なく起こそうとした。
しかし、あんまり寝てないのだろう、布団を蹴っ飛ばして枕を抱きしめて寝る藤代は
どんな関節技を決めても起きなかった。
ぐっすり寝て、体力も気力も回復しているはずなのに、
気力をすっかり使い切ってしまってやる気が出なかった。
仕方なく先にいったのだが、もちろん監督に怒られるのはいつも通り、笠井だった。
しかし、渋沢がフォローを入れてくれて、罰走は免れた。
その後藤代を三上が起こしに行き、腹にかかと落としを決めるなど
違う意味で眠りに付きそうな起こし方をしたらしい。
「大体さー、タクももっとちゃんと起こしてくれよなぁー」
「十分やったよ。・・・大体もう中2だよ?いい加減一人で起きれるようになれよ」
おかげでこっちは超機嫌悪いよ、と笠井が心底嫌そうな顔をすると
藤代は何かを発見したように笑った。
「でもタク、今日なんだかんだいって機嫌良いほうじゃね?」
「・・・・・・そう?」
「微妙に。・・・なんかあんの?」
わくわく。
そんな擬音が付きそうな期待に満ちた顔で見られて、ちょっとひいてしまう。
そういえば、今日はの正体を確かめようとしてたんだっけ。
それが、無意識に楽しみになっていたのかもしれない。
・・・にしても、藤代に気付かれるほどなんだから他の人にはバレバレだったのだろうか。
複雑な思いになりながら、その日一日の練習が始まった。
今日の気温は36度。
溶けるような暑さの中、練習はいつも通りハードで、
飲んだスポーツドリンクがそのまま出ているようにも感じた。
シャワーを浴びて、晩飯を食べおわって、部屋に戻るともう9時過ぎだった。
夜だというのに暑い・・・。
扇風機の前に張り付いている藤代を軽くノートで叩くと、藤代は大げさに痛エ!と叫んだ。
「風こないだろ」
「だってあっつい・・・死ぬって」
「死ね。俺だって暑いんだ」
何度叩いてもこりずに扇風機に張り付いて
「あ゛ー・・・」
と親父臭く声を出している藤代に呆れて、笠井はうちわを一つ持って
他の部屋に行こうと立ち上がった。
すると藤代が笠井の服をガシッと掴んだ。
「いやっ、置いてかないで・・・っ!私、あなたなしじゃ生きていけないわ!」
「・・・・・・」
「おい、タク無視すんなって!軽いジョークだろ!」
「・・・残念ながら俺はオカマの友達は持ってないよ。どちら様ですか?」
「うわー、俺が悪かったって!」
ウザッたくくっついてくる藤代に回し蹴りを決めて
笠井はスタスタと部屋を出て行った。
・・・少し早いが、もういってしまおう。
笠井は、渋沢の部屋の方向へ向いていた足をピタリと止めて
呪いの部屋の方へ歩を進めた。
周りを確認してから、笠井はいつものように鍵を開け、
静かに中に入った。
「?」
「あ、きた」
鍵を閉めて、部屋の奥に進むと窓の下に座るが居た。
はひらひらと手を振って笑っていた。
「俺、遅かったかな?」
「ううん。っていうか、別に時間の約束してなかったよね」
「そういえば・・・」
また明日、とだけ言って時間は言ってない。
とりあえず暗くなって皆が部屋にいれば良いのだと思っていた。
そんな笠井にあはは、とが笑って「ほら、座りなよ」と
自分の隣をぽんぽん叩いた。
笠井は言われた通り隣に座ると、壁に寄りかかった。
「笠井君はあたしが星だって認めてくれた?」
「・・・また唐突だね」
世間話みたいなのから入ると思ったら違かった。
いきなり本題に入られてちょっと驚いた。
「だって笠井君、顔に『知りたいです』って書いてある」
バレバレだよーとはにっこり笑った。
実際そうだから、笠井は否定ができずに照れた笑いを浮かべる。
「星かどうかは別として。いや、仮にが
星だったとして、どうしてここにいるのか知りたい」
「・・・では、お話しますか」
ふ、との瞳に哀しげな陰りができた気がした。
は瞳をゆっくりと閉じると、まるで絵本を読むように、
哀しい歌を歌う歌姫のように・・・語り始めた。
「あたしはね、あの月にずっと寄り添っていた
誰にも気付かれることのない小さな小さな星。
何十年、何百年・・・すっごい昔から地上を見ていたの」
の穏やかな語りに笠井は相槌も打たず、ただ、耳を傾ける。
静かな部屋にその声は綺麗に響き、心に届いた。
「でも、最近・・・。地上に人間の姿で出てこれるようになったの。
っていっても、星の見える夜だけで、出られるところも限られているんだけど」
生まれたころからひとりぼっち。
隣には大きなお月様が居たけれど、お月様は大きくて近くて遠い存在だった。
「でね、何でだろうって思ってお月様に聞いたの。
そしたら・・・あたし、もうすぐ消えちゃうんだって。あと5日で」
「・・・!」
涙の色が窺えるの声に穏やかだった笠井の表情が歪む。
あと、5日・・・。
でも、新聞にもニュースにも星が消滅するなんて書いてはなかった。
・・・星の一生は長いけれど、最後はあっという間に静かに終わるときいたことがある。
「だからお願い。残りの5日間だけでいいから、友達になって」
・・・・・・・・・・・・・・・。
躊躇いから生まれる沈黙が、少しだけ流れる。
の目に偽りはないように見える。
しかし、言っていることはめちゃくちゃだ。
・・・さて、どうしよう。
なんて、自問してみても笠井の答えは決まっていた。
頭では色々考えているが、なんというか・・・めずらしく、心で決めたと言うのだろうか。
自分らしくない、と笠井は心の中で笑ったが、その答えは覆ることはなかった。
そして。
儚い笑顔を見せるの頭を軽く撫でると、笠井は微笑んで
よろしく、といった。
笠井がの、初めての友達。