自らを星と名乗る少女はあと少しで消えてしまうという。
友達になった少女とのカウントダウンが始まった・・・。
星の消えるまで
けたたましく鳴る目覚まし時計。
笠井はそれを叩くように止めて起き上がった。
カーテンから射す光が眩しい。
「朝・・・」
・・・昨日の事は夢だったのだろうか。
自分が星と友達になる。
そんな夢物語をいまだに夢見ているわけではないけれど、
あの少女はふざけている様には見えなかった。
嘘のようで、嘘ではない。
冗談めかして発せられる言葉は
本当の事を・・・真実を薄っぺらい嘘みたいなもので誤魔化してるだけに聞こえた。
・・・騙されたら騙されたで。
少女の言っていることが嘘か真実か、それは少女の言った
5日間が経てばわかることだ。
「・・・上等」
笠井は両頬をパンッと軽く叩くと、ぐーすか大きなイビキをかいて
爆睡している藤代に三上直伝のかかと落としをきめた。
松葉寮に鶏のコケコッコー!という鳴き声の代わりに、
藤代の悲鳴が大音量で響いた。
・・・・朝練に出た藤代は体中傷だらけで、
そのかわり笠井はとても上機嫌だった。
そんな様子を渋沢が苦笑し、三上が笠井の方を嫌そうな顔で見ていた。
消灯時間になり、寮内が大分静かになった。
笠井はまたいつものように格ゲーをやっている藤代を無視して
呪いの部屋に歩を進めた。
出会ったばかりの・・・友達に会う為に。
呪いの部屋のドアを開けたと同時に何かが飛びついてきた。
「うわっ」
「遅いじゃんかぁー!あたし暇で暇でしょうがなかったんだから」
そういうと飛びついてきたものは笑った。
笠井はドアを閉めると、を軽く押して自分から離した。
は少し残念そうに唇を尖らせると、笠井の手をとって一緒に座った。
「あたしにはあんまり時間がないんだよ?一秒も無駄にはできないの!」
「それは知ってるけど・・・」
は夜しか出てこられないし、笠井自身は部活の練習。
星の出ている時間と言われてもさっぱりわからない。
一体どうしろというのだ。
「一秒をバカにすると一日嘆くって・・・ってある人が言ってたわよ」
「・・・誰?」
「あたしの尊敬するご老人」
凄く素敵な人よ、と胸を張る。
あっそう、と適当に返事を返すとはムカツク、と言って笠井の頭を小突いた。
「こうして、人と話すこと自体嬉しくて。
・・・笠井との思い出をいっぱい作っておきたいの!」
にっこりと笑ったの瞳の端には、涙の粒が一つついていた。
その笑みは今までの太陽のように明るいものではない、儚さを含んだ笑み。
そう、満月のような、星のような・・・夜空に浮かぶ哀しげな光。
「・・・タクでいいよ」
「え?」
「そう呼んでるの、友達の誠二だけだから」
わざと『友達の』を強調した言い方をした笠井。
驚いているを横目で見て、立ち上がった。
笠井は少し頬を染めながら、に笑って手を差し出した。
「ほら、立って。座ってる場合じゃないんだろ?」
「・・・うん!」
笠井の手を借りて立ち上がる。
下を向いていて笠井には見えないが、その顔いっぱいには
はちきれそうな太陽の笑みが浮かんでいた。
寮の外に出た二人は空を見上げて足を止めた。
田舎のように一面の星空、とまではいかないが、東京にしては星が多く見える。
すごい、と少し星を見た後、は笠井の方を向いた。
「・・・で、ここで何をするの?ただ星を見に来たわけじゃないよね?」
「当たり前。ほら、これしようと思って」
そういって、笠井が自分の後から出したのはサッカーボール。
一体どこから出したのだろう・・・。
「サッカー?」
「うん、サッカー。俺、一応サッカー部だからね」
「でも9人もいないよ?」
9人。
その言葉に笠井はガクッとする。
「サッカーはちなみに11人」
「えっ、知らなかった」
嘘ォ!と頬に手を当てるに笠井は、ボールを右足で
コロコロ転がしていじりながら言う。
「は他の人には見えないから皆でやるのは無理だけど・・・、
リフティングならできるだろ?」
「そっか!」
そういうと笠井はポンポンとリズムよくリフティングをしていく。
その華麗な姿には大きく拍手をした。
「凄い!さすがサッカー部」
「一応ここ、名門武蔵森だからね」
「うわぁ、自慢?」
「これくらいできて当たり前だよ」
「やっぱり自慢じゃん、このナルシストぉっ!」
「・・・顔面に思いっきりシュートするよ?」
「ごめんなさい」
そう言いながらも笠井はずっとリフティングを続けていく。
ボールの方なんか一度も見ずに、の方を向いて普通に話している。
「もっとやって!100回以上いく?」
「・・・めんどくさい」
「えー!」
「もやってみる?」
「うん!」
が大きく頷くと、笠井はリフティングを止めてボールを渡した。
よーし、とは気合を入れてリフティングを始めようとする。
「タクみたいにたくさん続けてやる!」
「ガンバレ、ファイト」
「棒読みじゃんか!」
酷い!と笑いながらは笠井のようにポン、とボールを上に蹴った。
しかし、そのボールはの頭の上やもう片方の足に行かずに・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・笠井の顔面にぶつかった。
「あ・・・・ッ!!」
「・・・・・・・・・・」
まさか自分の方に飛んでくるとは思わなかったのだろう、笠井はの不意打ちを
もろに顔で受けてしまった。
普段だったら避けられたはずだが、いくら素人でも近くにいる人に
ボールをシュート並の速さで蹴ることは無いと思っていたからだろう。
笠井はボールが当って少し紅くなった額をおさえる。
その表情はなんともいえないもので、静かな怒りが感じ取れる気がした。
「ご、ごめん!まさかあたしもそっちに飛んでいくと思わなかったし
何しろボールに触れるのも生まれて初めてだったし・・・!」
「・・・・・・・」
「う、うわっ・・・やっぱり怒ってるよね?」
笠井がずっと黙っていると、はおろおろと慌てまくっている。
その様子が今までの少し強気だった感じと違うのが面白くて、
笠井はついに吹き出してしまった。
「・・・アハハ!、面白すぎ」
「あ、笑ってるし!面白いって何さ!こっちは怒ってると思って必死だったのに!」
「本当に面白すぎ。しかも俺、別に怒ってるとは言ってないし」
あー、でも痛かった、とわざとらしく額に手を当てる笠井。
そんな様子には少し意外そうに口を開いた。
「・・・タクって、もしかしなくても意地悪?」
第一印象というか、イメージ的には誠実そうな人だと思っていたのに。
優等生タイプ、というか、なんというか・・・。
しかし、これは・・・・。
「それが、自分がボールを当てた被害者に対する言い方?」
「やっぱり怒ってんじゃん・・・」
の笠井に対するイメージがガラガラと音を立てて崩れていった。
笠井は別にそんなことを気にする様子もなく、転がったままのボールを拾って
に差し出した。
「はい、次は当てないようにやって」
はーい、とは適当に返事をするとまた先ほどのようにボールを蹴った。
今度は、笠井のほうに行かないようにしたのだが・・・。
「「あ」」
二人の声が見事にハモった。
の蹴ったボールは笠井のほうにはいかずに、凄いところに飛んでいってしまった。
暗くて、探すのは困難なところに。
はもう、恐ろしくて言葉も出なかった。
「あ、あたし探してくるッ!」
「・・・いいって」
でも・・・と渋る。
一応あれはサッカー部の備品だろう。なくなってはマズイのでは・・・。
そんなの心配を跳ね除けるように、笠井はサラリと言ってのけた。
「別にボールが一個くらいなくなってもわからないだろうし。
二軍や三軍のせいにすれば誰も疑わないと思うしね」
「で、でも・・・」
「もう遅いし。は見えないけど物音はするんだから、誰かに聞かれて
夜な夜な探されたらそれこそ遊べなくなるだろ」
笠井の言葉にはやけに説得力があった。
はその通りだと思ったので、大人しく頷いておいた。
「じゃあ、今日はこれで終わり。・・・おやすみ」
「う、うん・・・おやすみ、タク」
こうしてボールはどっかにいったまま、この夜は更けていった。
この夜、他の部屋で遊んだ帰りに廊下を通った奴が、
外で聞こえるボールを蹴る音と人影を見た、と騒ぎ立てて、また松葉寮に怪談が一つ増えた。