星の友達とのカウントダウン。
カウントダウンが始まってから一日目の思い出はリフティング。
・・・さぁ、今日の思い出はなんだろう?
星の消えるまで
いつものように誠二を起こして朝練に行くと、眠たそうな顔をした
三上に話しかけられた。
「よぉ、笠井」
「おはようございます、三上先輩。忙しい練習中に一体何の用です?」
丁寧に厭味をこめて返した笠井に、三上は鼻で笑うように言った。
「いやぁ、お前この頃やけに嬉しそうだなぁって思ってよ」
「別に変わりはないですが」
サラリと笠井が言うと、三上はニヤリ、と悪そうな笑みを浮かべた。
さっきより、笠井に近づいて、他の奴に聞こえないように言う。
「夜な夜な、部屋を抜け出して・・・・・・・女でもできたか?」
「・・・・・・!・・・・・・何のことですか」
平静を装っているつもりだったが、笠井の微妙な表情の変化を三上は見逃さなかった。
・・・・・・・・まったく、やりにくい人だ。
「俺は見てんだよ。この頃毎晩、お前が部屋を抜け出して、どっかに行ってるとこをな」
「・・・・・・・。毎晩部屋を抜け出していることは事実ですが、別に三上先輩が
期待しているようなことはありません。第一、先輩にはまったく関係ないですしね」
「ほぉ・・・」
「・・・というか、先輩自身が夜どこかに出掛けている事を自白したことに
なりましたよ、今の発言は。そういえばこの間、夜抜け出して桜上水の水野って人の
ところに行ってましたよね。監督に言っても大丈夫ですか?」
「・・・・ッ!」
三上の片眉がピクリ、と動いたのを確認して、笠井は自分の練習に戻っていった。
渋沢がボールが一つ足りません!と部員に言われたのを、笠井はあーあ・・・と横目で見ていた。
練習が始まってからも、笠井はずっと同じことを考えていた。
さっき、三上に言われたことだ。
・・・・・・・・・一体、いつ見られたのだろう?
部屋に入るときは少しは注意をしていたし、人の気配がすれば笠井は気付くはずだが・・・。
幸い、部屋を出て行くところを見られているだけで、
呪いの部屋=のところに行っているところは見られてはいないようだった。
これからは、もっと注意を払うべきなのだろうか。
そう思ったが、笠井は頭を振って思い直した。
別に、呪いの部屋にいたところを見られたって平気だろう。
なんたって、は笠井以外には見えないのだから。
もう少しだけ注意しよう、とだけ思いながらも、笠井にはなんともいえない優越感があった。
人に見られていた、という大切な情報をくれた三上には少しだけ感謝だ。
同時に、後々脅しのネタとなるものも事実だったし、いい収穫だった。
笠井は今朝三上に言われたことなど気にもせずに、今まで通り
特に注意を払うこともなく部屋を出た。
先ほど藤代が、三上たちの部屋に夏休みの宿題をするため、
遊びに行ったので今夜三上は部屋から出られないだろう。
ざまぁみろ、と心の中で毒づきながら笠井は呪いの部屋の中に入った。
「あれ、今日はあの人は一緒じゃないの?」
部屋に入った瞬間、かけられた言葉がそれだった。
「・・・あの人?」
「え、タレ目の性格悪そうなカッコイイ人だよ。いつもそこの角まで一緒に来る人」
「三上先輩だ・・・・」
なるほど。
コレで全てに一致がついた。
つまり、いつもつけてきてた・・・というわけか。
「へぇー、三上っていうんだ。いつも一緒なのにあの人は何で一緒に入ってこないの?」
「つけられてたんだよ。っていうかなんでは知ってるの」
「タクが来るのが遅いから部屋から顔だけ出して待ってるの。で、タクが来たら隠れるの」
「無駄な努力すんなよ。・・・あの人どこまで来る?」
「えっとね、そこの近くの販売機でいつもコーヒー買って部屋に戻ってくよ」
「へぇ・・・」
笠井はうっすらと意地の悪い笑みを浮かべた。
その頭の中では、今まで回収していた三上を脅すネタをどう使おうか、
三上をどうしてくれようか・・・という処刑の算段が浮かんでいた。
「いつも疑問に思ってたんだよね。なんだ、その様子じゃつけられてたんだ」
だから一緒に来ないんだね、と一人納得している。
しかし笠井の耳にはその声は聞こえてはいなかった。
「じゃあ、今日は何をしようか?」
「あたし、やってみたいことがあるの!」
「・・・・・・・・やってみたいこと?」
そう聞き返しながら、笠井はたれてきた汗を拭った。
この部屋は基本的に涼しいのだが、今日はやけに暑かった。
「うん!だから、一緒にきて!」
そういうとは笠井の手を引っ張って部屋を飛び出した。
に引っ張られるがままついてきて、辿り着いたところは・・・。
「プール?」
そう、学校のプールだった。
今日水泳部が使っている為だろう、綺麗な水が入っている。
その水面には大きな月が映っていた。
はなるべく物音を立てないように金網をのぼっていき、プールサイドに軽やかに着地した。
「ほらほら、タクも突っ立ってないで早くきて!」
「・・・・・・ボールは凄いトコに飛んでいくのに、金網はよじ登れるんだ」
「うるさいなぁッ!」
単純に反応するにクス、と笑うと笠井は金網を軽々とのぼった。
音もしないで着地するとがパチパチと拍手をしていた。
「で、やりたいことって・・・」
「もちろん、夏といったらプールでしょ!」
「・・・やっぱり」
「水遊びとかやりたかったんだよねー、今日特に暑いしさ!」
そういって笑うと、はそのままプールに飛び込んだ。
ザブン!と豪快な音がして波が立つ。
「きっもちーッ!水冷たいんだねー!」
はバシャバシャと笠井の方に水をかける。
「なんでわざわざ水遊び・・・」
「ほら、タクも入りなよ!」
グイッと腕を掴まれたと思ったら、そのまま水の中に引きずりこまれた。
ザバンッ!と大きな音を立てて、綺麗な水しぶきが夜の闇に光った。
「気持ちいいっしょ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まぁね」
「びちゃびちゃだけどねー」
ケラケラと笑って泳ぎ回るの足を掴んで思いっきり水に引き込んだ。
不意打ちで見事に沈んだは勢いよく水から浮かび上がる。
しかし鼻に入ったらしく、は苦しそうに咳き込んだ。
「何すんのよ、タク!鼻に入ったじゃん!」
「さっきの仕返し」
「くそぅ!こっちもやったるぅー!」
「やれるもんならね」
「こら待て逃げるな!あっ、潜るのはせこいっ!」
「潜っちゃダメなんて誰が言ったんだよ」
25mプールの中で、二人はずっと追いかけっこをしていた。
濡れて動きにくい洋服の事なんて気にもせずに。
月明かりの薄い光の中で、水が滴ったはとても綺麗に見えた。
笠井は一人静かに息を呑む。
そのの姿はまるで、淡く儚い、夏の夜の夢のようだったから。
「つかまえたっ!」
「・・・あーあ」
どのくらいがたったのだろう、がやっと笠井を捕まえた。
というか、いい加減泳ぐのがめんどくさくなってきて、笠井が
止まったところをが捕まえただけなのだが。
「・・・そろそろ帰ろうか」
「そだね」
そういって二人は水からあがった。
海草のように絡みつく重い服を両手で絞る。
それでもやっぱり重くって、二人は濡れたまま寮に帰っていった。
ズルズルとナメクジがはったような跡を残して・・・。
ずぶぬれになって帰ってきた笠井だが、いつもより時間が経っていて。
藤代はぐーすかとイビキをかいて寝ていた。
「・・・・・・・・・・綺麗だったな」
水と戯れる姿さえ、愛しく感じてしまいそうだ。
女の友達なんて、初めてだったし。
・・・・・・・・・・・って、待てよ。
まさか、嘘だろ俺・・・・・・・っ。
頭に浮かぶさまざまの事を、違う違うっと歳相応に悩みながら
笠井は眠りについた。