リフティングをしたり、プールに飛び込んだり。



 と会ってから、練習の後が楽しみになった。












    星の消えるまで 















 朝練にいくと、何人かが集まって、何かを話していた。




 渋沢や三上、藤代も入っているということは何かをするのだろうか。



 すると、笠井がきたのを気付いた渋沢が話しかけてきた。







 「おはよう、笠井」

 「おはようございます、キャプテン。何の話をしているんですか?」







 笠井が渋沢の方を向くと、首に腕をガシッと回された。









 ・・・・・・・・三上だ。




 不機嫌度がいつも以上で、目の下に薄っすら隈ができているような気がした。










 「笠井、テメエ昨日はよくも逃げやがったな・・・」

 「何のことですか」

 「お前が逃げたせいで、俺が昨日バカの宿題を見る破目になったんだよ」








 三上のこの態度の原因はやはり藤代か。

 他の宿題を教えた時、笠井は大変な思いをしたのを思い出す。








 「それはご愁傷様でした」

 「・・・・・・・・お前わざと逃げやがっただろ」

 「やだなぁ、何のことだか。俺をそんなことしませんよ」






 両者睨み合って、火花をバチバチ飛ばす。




 これが蛇と蛙の睨み合いだったら周りはどれだけ楽だろう。

 狐と狸の化かしあい、に近く、両者引こうとしない。


 ・・・・・・・あぁ、笠井の少しかわいく言った口調が恐ぇよ・・・・・・・っ!
 



 すると、渋沢がまぁまぁ、と止めに入る。いつものパターンだ。







 「もうすぐ夏休みも終わりだろう?実は明日の夜、一部で花火をやらないかということになったんだ」

 「・・・花火、ですか?」

 「部活ばかりで休みがないままだったからな。少しは思い出を作ろうかと」








 そういって渋沢が笑うと同時に監督がやってきた。


 同時に、渋沢の優しい笑みは消え、集合!と真剣な顔でいった。





















 今夜は珍しく涼しかった。




 昼は変わらず暑かったが、夜にはその暑さが少しだけおさまった。




 いつも通りに呪いの部屋に行くと、ちょうどが大きなあくびをしているところだった。







 「あー、ふぁく」

 「・・・・・・・大口開けて変な声だすなよ」

 「いいじゃん別にー」

 「っていうか、あくびできるんだ」

 「失礼な」






 星といっても、人間となんら変わりはないみたいだ。

 そういえば昨日、プールからあがったときくしゃみもしていた。








 「あ、そうだ。明日の夜、部内で花火するから、ここにはこれない」

 「花火!?ずるいよ、あたしも行く!」

 「・・・バレるって」

 「大丈夫!花火が一つくらい浮いてたって誰も気にしないよ!」







 いや、絶対気にするだろう。それは怪奇現象だ。








 「あたし花火ずっとしたかったんだー!やったね、明日が楽しみだっ」

 「まだ俺はきてもいいって言ってないんだけど」

 「あと3日だよ?思い出作りに花火くらいいいじゃん、ね?」

 「・・・・・・・・わかったよ」

 「やったぁ!」








 笠井が渋々承諾すると、は飛び上がる勢いで喜んだ。










 「じゃあー、今日は何しよっかぁ。花火は明日だし、プールは入ったでしょ。あと、夏っていったら・・・・・・・・」

 「スイカは明日食べるって」

 「マジッ?やったー、楽しみ増えた!」
 
 「で、今日は何すんの?」







 うーん・・・・・・・とは悩んだ末、ポンッと手を叩いていった。













 「肝だめし!!」










 そしてそのまま笠井の意見も聞かずに、は昨日と同様、笠井を校舎まで引っ張っていった。




















 裏の裏を通って、二人は誰にも見つからず、校舎の中に入った。



 薄暗い校舎の中はとても静かで、足音がとても大きく聞こえた。









 「肝だめしっていっても、理科室とか絶対カギ掛かってると思うけど?」

 「そうなのっ?うーん、じゃあ、校舎の中を歩き回るだけにしよう!」

 「・・・・・・・それって恐いの?」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・さぁ?」








 聞き返した笠井には、あんまり・・・となんともいえない苦笑を浮かべる。





 なんだかんだ言いながらも二人は歩き出した。



 は笠井の手に自分の手をしっかり握らせて。






 




 しかし、理科室など特別教室に入れないのはやはりつまらない。



 笠井は散歩?と内心呆れながらも、歩きながら楽しそうに校内を見回すを眺めていた。








 「あっ、トイレ発見!」

 「トイレの花子さん?」

 「うんっ、花子さん!いるかなぁ〜」

 「・・・・・・・いないって」







 そういって女子トイレの中まで入らされたが、もちろん花子さんなんて出てこなかった。



 この校舎の中は古い感じがしなく、あまりスリルがない。

 二人にはお化け屋敷のような恐さが全く感じられなかった。








 「つまんないのぉー・・・」

 「大体、うちの学校は出るなんていわれてないしね」

 「でも、なんだかそういう雰囲気無さ過ぎだよー」







 ぶぅ、と頬を膨らます


 笠井は息を吐きながら自分のポケットからあるものを取り出した。









 「・・・・・・・・・・じゃあ」

 「ん?」

 「音楽室にだけ行こうか」








 そういう笠井の手元がキラリと光る。

 そこには、鍵が握られていた。








 「も、もしかして、音楽室の鍵?」

 「うん、そうだよ」

 「うん、そうだよ、じゃないよ!何で持ってんのっ!」

 「秘密」








 笠井は片目を閉じてクス、と笑った。






 実は以前、先生に信頼されている笠井は

 ピアノをこっそり弾きたいから、と音楽室の鍵を借りたことがある。



 たった一日だけだったが、笠井は後々使えるだろうと合鍵を作っていたのだ。




 ・・・・・・・もちろん、このことは誰も知らない。








 「音楽室に行って何するの?あたしピアノ弾けないよ?」

 「俺の特技、言ってなかったっけ?」

 「え、きいてないよ」

 「俺、ピアノ得意なんだ」

 「うっそー!意外ー!!」








 そんな風に話しながら、二人はすぐ傍にある音楽室に歩いていった。





 月明かりだけが、二人を照らしていた。












 音楽室に入ると、は楽しそうにクルクル回って教室中を見回した。



 壁中に張られる肖像画。


 ステージの上に乗っているグランドピアノ。







 「ねぇ、タク。ベートーベンの眼、光んないかな?」

 「蛍光塗料でも塗れば?」

 「うわー、夢のない!」

 「・・・・・・前に誠二に同じこといわれたよ」








 はぁ、と息を吐いて笠井はピアノのイスに座った。

 そして、弾けるように準備をする。










 「・・・・・・・何が、ききたい?」

 「え、いきなり言われてもなぁ」

 「リクエストにお答えするけど?」







 はうーん、と唸りながら考える。











 そしてたっぷり30秒悩んだ末、でてきた曲。










 「ショパンの、夜想曲!」

 「・・・・・・・・オッケー」







 そう静かに返事をすると、笠井は鍵盤の上にその細くてしなやかな指をのせた。


















 笠井が指を動かすごとに、綺麗な旋律が生まれていく。



 哀しいような、不思議な気分にさせる音色。





 は静かに瞳を閉じた。






 心に直接届くような音。


 笠井の思いが込められているのだろうか。


 月明かりに照らされる笠井は何かの精のようだった。



 月夜に響くピアノはとても綺麗で。





 美しい旋律に身も心も任せ、は音の世界に完全に入っていった。






















 曲が終わると同時に、からは盛大な拍手が送られた。








 「凄い!タク、ピアノすっごい上手!!」

 「・・・・そんなに上手くはないよ」

 「ううん、あたしめっちゃ感動したし!」

 「・・・・・・・・・・・・どうも」







 笠井はピアノを元通りに片しながらいう。


 その頬が心なしか赤く染まっているのには気付き、笠井に気付かれないように小さく笑った。






 「あ、ここらからも凄く星が見える」

 「ホントだ」

 「お祈りしなきゃ。ほら、タクも」






 は両手を組んで願をかけた。

 ・・・・・・・思いが強すぎるのか、の頭からは何かが出ているように見えた。


 
 それでも、一生懸命願をかけているが、笠井にはとても儚く思えた。








 「は、何を願うの?」







 ボソリと笠井は問う。自分でも少し驚くくらい切ない声が出た。







 「・・・・・・・・・・・思い出が永遠になりますように、って」

 「・・・・・・・・・・。長生きしたいとは、思わないの?」

 「だって、寿命だもん。いいの、タクと思い出を作ってるから」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・」










 なんて、強いのだろう。



 死ぬのは・・・・・・・・誰だって恐いはずだ。

 なのに、寿命だから、と今を大切にしようとしている。






 笠井は喉が詰まるような感じがした。



 言葉が、出てこない。


 一体この少女に、どんな言葉をかけられるだろう。


 安易に言葉をかけたら、逆に失礼なような、傷つけるような気がした。








 「じゃあ、タクは何を願ったの?」

 「・・・・・・・・・・」

 「あ、言いたくなかったらいいけどさ」

 「・・・・・・・・が、・・・・・早く生まれ変わって、人間になって、俺とまた出会うこと」











 本当の願いだった。心から、そう願った。






 あと少しの日々で別れるなんて。


 何年かかってでもいいから・・・君が来るまで俺は待つから。


 行かないで、なんて俺には言えない。君が、言わせてくれない。


 




 だから・・・・・・・今は、今をしっかりかみ締めていこう。










 笠井の頬を一筋の涙が流れた。

 それは、月明かりに照らされ、銀色に光った。




 自分の瞳から涙の流れているのに気付かない笠井に、はにっこりと笑う。








 「もうっ、タクってばなんて顔してんの!せっかく星が綺麗なんだし、ちゃんと見なきゃ!」









 一見、いつも通りの笑みに見えたが、





 一瞬翳った月明かりの中での瞳からは大粒の涙が流れていた。












 二人の思いは同じだった。