あぁ、君と一緒に遊べるのも今夜が最後。
明日のいつかはわからないけれど、君は消えてしまう。
・・・・・・・・今日は、最後の思い出を一緒に楽しもう!
星の消えるまで
いつも通りの練習が終わると、渋沢が笠井のところにやってきた。
引っ付いてくる藤代と格闘中の笠井に、渋沢は笑った。
「随分仲がいいな」
「羨ましいのなら喜んで代わりますけど」
そういって、笠井が藤代に裏拳を入れる。
もろに鼻に入った藤代は大声をあげて笠井から離れた。
「・・・そういえば、笠井。今日はプレーに集中できてないようだったが・・・何か、あったのか?」
・・・・・バレてる。
いつも通りやっていたつもりでも、サッカーの事はなんでもバレてしまう。
「いえ、何にもないですよ」
「・・・・・そうか。なら、いいん「なんかあったら俺にいえよッ!」
突然出てきた藤代に二人は一瞬驚き、少し間があった。
「・・・あ、キャプテン。今夜の花火何時ですか?」
「あぁ、大体9時くらいから始めようと思っているから、それくらいに外に居てくれ」
「わかりました。じゃあ、また後で」
「・・・って、俺は無視ィィィィィィッ!?」
藤代を爽やかに無視して、苦笑する渋沢も気にせず、笠井はさっさと歩いていった。
藤代の虚しいツッコミが響いた。
皆で集まる時間の少し前。
笠井は藤代のいないときをはかって、部屋を出た。
もちろん、行く先はいつものところ。
「あ、タクー!待ってたよー」
「・・・・・今日は早いんだ」
「今日は日が沈むの早かったからね」
は今までのように、笑顔を浮かべている。
笠井は、少し胸に突っかかるような感じがした。
「・・・・・・・・・・・じゃあ、もう行こうか」
「花火!スイカ!夏万歳!」
は変な掛け声をしながら、皆がいるところへと向かった。
渋沢にいわれていたところに行くと、もう何人かが集まっていた。
一軍の皆のようだ。
笠井たちが近づくと、いち早く気付いた藤代が手を振った。
・・・・・・・・・・・あぁ、ここから苦労が始まるのか。
笠井は小さく息を吐いた。
「あ、タクー!どこ行ってたんだよ」
「ちょっと、ね」
内心ヒヤヒヤしながら答える。
藤代は、にあったことがあるが・・・・・・・他の人にはどうなのだろう。
姿が見えてしまったり、声が聞こえてしまったりするのだろうか。
「これが誠二君ね。あっ、タレ目の三上さんもいる!
あの真面目そうな人が渋沢さん?キャプテンって感じ」
そんな笠井の心配など気にもせずに、は歓声を上げる。
笠井以外の人と会ったのがそんなにも嬉しいのだろうか。
「・・・・・、皆が花火に集中するまで黙ってろ」
「えーっ、なんでっ?」
「なんでも。バレたら終わりだって言っただろ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・はーい」
渋々と返事をした。
だが小さく、タクのケチッ!と呟いたのを笠井はバッチリ聞いていた。
ケチとかいう問題じゃなくてさ・・・・・・。
面倒になるのは目に見えてるから、なんだけど。
笠井が小さく息を吐くと、渋沢が楽しみそうに微笑んだ。
「じゃあ、全員揃ったことだし、始めようか」
その言葉を合図に、待ってましたぁッ!と皆がいっせいに花火に火をつけ始めた。
笠井は、皆が集まっているところから少し離れて、縁石の上に座った。
も笠井の隣にわくわくした表情で座る。
笠井は、足元に置いた花火の入った袋から花火を取り出し、蝋燭で火をつけた。
も笠井をまねて同じように花火に火をつけた。
鮮やかな光が、パチパチと咲く。
の花火は赤で、笠井のは緑だった。
「うわぁー!キレー!コレが花火!うわ、すごーいっ!」
花火を両手に一つずつ持ってクルクル回りながらは喜ぶ。
花火の明かりで照らされたの顔には満面の笑みが浮かんでいた。
その表情はとても嬉しそうで、笠井はつれてきてよかったかも、としみじみ感じた。
・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや、ちょっと待て。
「あぁー!花火が宙に浮いてる!」
「・・・・・・やっぱり・・・」
気付けよ、自分。
そう思いながら、笠井はがっくりとうなだれた。
は終わってしまった花火をバケツに入れながら、ん?と首をかしげる。
「なぁなぁ、タク!今、花火宙に浮いてたよなっ?!」
「・・・・・・・さぁ、見間違いだろ?」
「いーや、俺は見た!」
指を指して俺はみたー!と言い張る藤代。
指し示した指の先には、もちろん・・・がいた。
笠井とが困っていると、三上と渋沢がやってきた。
「ついに馬鹿菌が脳まで侵食したか。いい病院紹介してやろうかぁ?」
「三上先輩ッ!見間違いなんかじゃないっスよ!」
「自覚がない、と・・・これはかなりの重症だな」
「絶対見えた!きっと正直者の心が綺麗な人にしか見えないんですって!」
「・・・・へぇ。それはここにいる全員を敵に回すってことだな」
「だって事実でしょ!?きっと根岸先輩とかはみえたって!三上先輩は一生ムリそうだけど!」
「・・・・・・・・てめぇ、この野郎!灼熱の炎を浴びやがれ!おらお前らもやっちまえ!」
「ぎゃーっ、暴力反対!っていうかそれマジ危険ッスから!助けてキャプテンー!」
そういって、三上と藤代が言い争いをかねた追いかけっこを始める。
ホッと胸を撫で下ろすと、今度は渋沢が笠井に話しかけた。
「笠井はここにいたんだろう?花火は宙に浮いていたか?」
「・・・・・・・・・そんなバカなことありませんよ」
いや、実際は他の人にはそう見えるのだけど。
「うーん、花火と同時に肝だめしもできたらいいと思ったんだが・・・」
「・・・男だらけの肝だめしなんて気色悪いです」
「それもそうか」
「どうでもいいですけど、時間が勿体無いです。早くやりましょう」
「あぁ、そうだな」
渋沢が藤代と三上の仲裁に行こうと立ち上がると、渋沢にバレないように
笠井はに口パクで俺の隣にきて、と言った。
は嬉しそうに笠井の隣に小走りで駆けた。
赤、緑、黄色、オレンジ・・・様々な花火が咲く。
笠井はバレないようにと、花火を持ったの手に自分の手を重ねた。
重ねられた手を見て、が嬉しそうに微笑む。
その顔が少し赤かったのを笠井は花火のせいだと思っていた。
そのうち、大量にあった花火は残り少なくなり、時間もかなり経っていた。
そう、最後は線香花火大会だ。
笠井とがいる少し遠くで、三上と藤代が対決している。
それを見守る渋沢。全部、三上の圧勝だけれど。
「うわぁー、キレー・・・。どっちが長くできるか、競争しよっか!」
「・・・いいけど」
「よーし、スタート!」
そういって、途中からだけれど始めた。今のはつけた時間は大体同じくらいだった気がする。
じーっと線香花火とにらめっこをする。
不安そうな、でもとても楽しそうな表情に、笠井は笑みがこぼれた。
・・・・・・・とか、思っていたら。
ボト、との花火が落ちた。
「あぁー!!」
「俺の勝ちだね」
「もう一回!」
は張り切った様子で、今度は自分のだけ、花火を二つねじってつける。
「ズル・・・・・・・」
「いいの!裏技よ」
「・・・・・・・・なんで知ってるの?」
「さっき三上さんがやってた」
「・・・・・・・・なるほど」
あの人がやりそうなことだ。
別に、やらなくたって相手が藤代なら楽勝なのだろうけど。
「でも誠二君は失敗してたけどね。落ち着きないねー、面白いなぁ誠二君」
「あの性格で線香花火をやるのは無理があるね」
「そうだね、じっとしてるの苦手そう。
三上さんの言葉にいちいち反応するから体が揺れるし。三上さん楽しそう」
そういうと、は藤代の方を見て笑った。
どんな表情で笑っていたかは、笠井には見えなかった。
「友達になれたらなぁー」
「・・・・・・・見えてないみたいだね、のこと」
「うん。・・・あーあ、三上さんなら見えると思ってたんだけどなぁ」
残念、と息を吐いたの表情が少し曇った気がした。
一体はどういう想いでいるんだろう。
目の前に今までずっと焦がれていた人がたくさんいるのに、その人達には自分の姿も声も無い。
友達になって欲しくても、相手にとって自分は“無”なのだ。
表情には出さないようにしていた笠井に不意に大声が発せられた。
「あっ!タクの線香花火落ちたー!」
「・・・・・・・・・・・ほんとだ」
「イエイッ、あたしの勝ち!アイアムウィナー!じゃあ、もう一回ね!」
・・・・・こんなに幸せそうに笑っているの前で、暗いことを考えるのはもう止めよう。
こんなに、現在を生きているのだから。
今日で・・・最後なのだから。
「これが最後の花火だよー」
「マジ?早かったね」
「じゃあ、レッツファイト!」
「できない言葉を遣うのは止めた方がいいと思う」
「うっさいわっ!」
は笑うと、最後の花火に火をつけた。
パチパチ・・・・・・。
最後となると、やっぱり虚しいものがあった。
笠井が複雑な気分になっているのに気付き、空気を変えようと思ったのか、
ただ、何も考えていなく、やりたかったのか・・・正しいところはわからないが
はいきなり線香花火を持っている手の反対の手で、大きくガッツポーズを取った。
「よぅし、次こそ勝ってやる!」
「ガンバッテ」
「棒読みかい!ってわぁっ、危ない危ない落ちるとこだった・・・」
ゆらゆらと不安定なの火の玉は今にも落ちそうだ。
も全くもって藤代のことは言えない。
「・・・・・・・チッ」
「今舌打ちしたな!うわわっ、落ちるぅっ。ちくしょーう、反撃だぁッ!」
「うわっ、なにすんだよ!」
笠井の安定していた火の玉が揺れる。
のより大きな火の玉は、ジュッと音を立てて落ちてしまったが、
小さな火の玉が残って付いていてどんどん大きくなる。
「うわぁー、セコイ!漢なら潔く散れよぉ!」
「男って字違うよ・・・」
そんな感じでボケてツッコミ、とやっていたら、二人の火の玉は小さくなっていった。
「タクの落ちろタクの落ちろタクの落ちろタクの落ちろタクの落ちろ」
「呪いかよ」
「あぁー、このままじゃ負けちゃう」
そうが言うと同時に、二人の火の玉は同時に燃え尽きた。
ピッタリ、同時に。
はその様子を見てがっくりうなだれ、燃え尽きた花火を見つめていた。
「結局は息ピッタリなのか」
「そう、かもね」
「・・・・ねぇ、あたしもこの花火みたいに綺麗に燃え尽きられるかなぁ・・・」
綺麗に咲いて、ぱっと潔く散る・・・そんな、花火のような。
後腐れの無い、あっさりした感じ。
花火のように目に残る、笑顔を残して・・・・・・・・・・。
「大丈夫、ずっと忘れないから。・・・俺の中にはずっとがいるから」
「・・・・・・・ありがと」
は笑った。いつものように。
でも、その目からは涙が流れ、いつものように笑ったつもりなのに、上手く笑えなかった。
そんなを笠井はそっと抱き寄せる。
そして・・・・・・・明日に迫った消滅の日が来ないことをずっと祈った。