あれから、何度夏が過ぎただろう。
決して止まることなく過ぎていく時の中
俺はいつの間にか社会人になり
昔の事などほとんど忘れてしまいそうだった。
しかし、中等部のときのサッカーと
あの夏の日のことだけは、決して薄れることはなかった。
そして今年も、夏が来た。
星の消えたあと
「たーくー!」
大声で呼ぶ声に振り向くと、そこには懐かしい顔がいた。
いつもは何かを媒介にしてみている、親しい顔だった。
「誠二」
久しぶりに会ったが、全く変わらないままだった。
毎日騒がしかった日々が懐かしい。
駆け寄ってきた藤代は、満面の笑みを浮かべ
あの頃より更に大きくなった体で抱きついてきた。
大人の分別というものは、まだないようだ。
「懐かしいなぁ、ここも」
「そうだね」
今日は同窓会。
W杯出場を決めた、藤代と渋沢の両選手に
お祝いというのも含まれていた。
プロにはならなかった笠井も、未だサッカーに近い仕事をしている。
切っても切り離せないような関係に、藤代がしたのだろう。
騒がしいと思いながらも、この雰囲気が好きになっていた。
「笠井!藤代!」
「お久しぶりです、キャプテン」
「あぁ。でももうキャプテンではないだろう」
「でも、俺の中ではそのままですから」
久しぶりに見る校舎。
メンバーも大人になっただけで、中身は変わらなかった。
つーか、日本代表のキャプテンっスよ。
という藤代のつっこみを流し、笠井は久しぶり笑った。
「うげ」
「あ、三上先輩もいる」
「何だよ、お前ら試合とかねぇのかよ・・・」
「スケジュール調整して、オフの日にしたんスもん」
「何が悲しくて男ばっかのとこにこなきゃいけねぇんだよ」
「そんなこといって、ホントは嬉しいくせにぃ!」
藤代と三上の会話も、変わっていなくて、何だか嬉しかった。
変わりいくのが当たり前の中、変わらないものがあるのは誇らしい。
決して薄れることの無い記憶の中のものたちは
全て現実の今でもそのままだった。
消せない悲しみはいつか
逃げない強さに変わるのだろうか。
願いを誓いに変えることができた人たちと
俺はいつまで笑っていられるのだろうか。
大人になっても勢いは変わらず、昼から始めた同窓会は
夜も更けた頃まで続いた。
やっと開放された笠井は、闇の中動くものを見つけ
その近くに見に行った。
もう夜も遅いし、誰もいないはずだ。
同窓会に集まっていたメンバーも渋沢を除き笠井が
一番最後に帰った。
空中に浮かぶそれは、どうやら寮の前にあった。
懐かしい、サッカー部の松葉寮。
その前で、誰かがサッカーボールを蹴っていた。
「よっ、と・・・・・・ありゃ」
どうやらやっているのはリフティング。
しかし続いたのは三回くらいで、ボールは足から遠くはなれ
あさっての方向、笠井の前まで転がってきた。
注意しようかと悩みつつ、笠井はそれを拾った。
あぁ、ともやったっけ。
リフティングなんて全然続かないし、ボールはなくすし。
プールにも侵入したし、校舎にだって入った。
懐かしい、あの日々。
彼女は二度と還ってはこない。
涙はもう涸れ、悲しみと虚無感だけが残っている。
タッ、タッ、と足音がして、ボールを蹴っていた人物が
笠井のとこまで走ってきた。
今の笠井より一回り小さい、あの頃と同じくらいの歳の
女の子だった。
言葉が、出なかった。
「・・・久しぶり、タク」
初対面のはずの子だった。
でも、その少女は、彼女に似ていて。
話し方も、雰囲気も、笑顔も、
二度と逢えないはずの、彼女だった。
「・・・・・・?」
体が硬直する。頭も働かない。
ただ、目を見開いて、少女を凝視した。
「うん、私」
嘘、だろ・・・?
漏れたその言葉に、少女は首を振る。
嘘じゃないよ。
「あの日、私は生まれたの」
あのままの姿で、が目の前にいる。
信じられなかった。
でも、それは事実だった。
「ただいま、タク」
「おかえり」
自分の胸に飛び込んできたをしっかり受け止め、
笠井はもう二度と離れることの無いように
きつく、きつく抱きしめた。
「タクにね、いいたいことがあるの。十四年分たっぷり」
「・・・・・・俺も、だよ」
人になった君と、俺はいつまでも一緒に生きていく。
今度果てるときは、二人一緒だ。
fin