毎日毎日くるくる廻る日常。
同窓会とかが多い季節に、いつも厭な思いをするのは私。
昔を思い出して懐かしいねぇ、なんて笑うことができないから。
欠けたピース補う君
今日はとてもいい天気だ。
風通りも気持ちよくて、屋上に行きたくなるような。
こういういい天気の日は、いい事が起こるか厭なことが起こるかのどちらかだ。
そういえば、今日は夕子ちゃんが機嫌よかった気がする。
・・・・エスオーエス。今日かどうかバットデーになりませんように。
風が気持ちいい窓際で、朝からうとうと夢の世界へ片足突っ込んでいたら
ふっと目の前が暗くなった。
見上げると、人。小さな男子生徒。
「あれ、もしかしてさん?」
「・・・・・・・誰?」
懐かしい、
嬉しい、
久しぶり、
そんな感じの笑顔だった。あぁ、綺麗な笑みだなァ。
優しい雰囲気があった。でも私はその感情に胸が押しつぶされた感じがした。
そういえば二限目くらいに、今日武蔵森から転校生が来たって事は聞いたような。
あれ、今何時だ。・・・やば、もう四限目。
時間間隔が完璧にずれてるや。
「・・・・覚えて、ない?」
「いや、何を?宿題はバッチリ忘れてるけど」
「そっ、か・・・」
『誰?』
そう答えたの言葉に、彼は少し悲しそうな顔をした。
でもすぐに皆に向けていたのと同じような微笑み。
「風祭将です。昔、君の家の隣に住んでいたんだ」
「・・・・・・・・・へぇ、そうなんだ」
いわいる、幼馴染。
でも私は彼のことを知らない。記憶の片隅にも、彼の存在はなかった。
・・・・なぜなら。
私には小学校卒業までの記憶がないから。すっぽりと、抜けてしまっている。
理由など知らない。私はその理由を心の奥に閉じ込める為に、記憶をなくしたんだろう。
しかし彼は知らない、私の記憶がないことを。
きっと家に帰って『風祭将』の名前を出したら、あぁ、将君!なんて
母さんは懐かしそうな顔をするのだろう。
そう、私だけが知らないんだ。
周りは彼を知っていて、彼も私を知っていて。
私の中で私の人生はここ1年くらいしかない。
彼は私の人生のほとんどを知っていることになる。そんな存在すら、覚えていないなんて・・・。
眠いのに更に頭がぼぅっとなった。
同時に将は夕子ちゃんに促されての後ろの席に座った。
その表情は、なにか言いたげだった。
*
「さん、ここなんだけど」
「ごめん私頭ゼロだから。っていうか武蔵森出身が聞く問題なんてないでしょうがッ」
「そんな、僕なんて全然だから」
「体育以外万年アヒルが並ぶ私にとっては、羨ましいほどこの上ないね!
むしろ教えてくれない?次当たるっぽい」
「いいよ」
将はよくに話しかけてきた。
物腰が柔らかく、優しい雰囲気の彼はにとって新鮮だった。
彼は私と仲が良かったらしく、他の人とは違う他人行儀ではない態度が
の心を惹いた。
「さん、お昼ってどうしてる?」
「一人で屋上」
「一緒に食べてもいいかな?」
「いいよ。・・・ただし、その美味そうな弁当分けてね。私いつも購買だから」
友達は毎日昼は生徒会で忙しいので、はいつも一人だった。
生徒会長目当てで入って、少しでも長く居たいとか言いやがって・・・!
別に一人は嫌いではなかったけれど、将がいると自分も優しい気分になれた。
毎日になった「さん」という言葉から始まる将との会話は
にとって楽しみになっていた。
*
まぁすっかり遅くなっちゃったなぁ・・・と
は闇が多くなってきた夕空を見て大きく伸びをした。
その顔にはうっすら腕の痕。
よだれがついてないだけいいと思おう。
とろとろとのんびり一人で帰り道を歩いていると、後から将の声。
「さん!」
「ありゃ、カザ君」
「随分遅い時間にいるんだね」
「そう?図書室で寝てたらこんな時間でさ」
いくら頭悪いからって、のんびり空見てる生徒に参考書渡すか?
何ページかやっとけよ、だって。
開いて数ページみただけで寝たっての。
そういってが笑うと、将はうっすら残っている腕の痕を指差して
さんらしい、と笑っていた。
「危ないよ、女の子がこんな時間に一人なんて」
「あははっ。女、ねぇ。大丈夫だって、ゲテモノ趣味じゃなきゃ」
が笑って、将が何か言おうとしたとき、軽快なメロディーが
のバッグから流れた。
ごめんね、といってがケータイを取り出す。よかった、メールだ。
開いてみると、小学校の同窓会をやるらしい。
中学校に入ってから仲良くなった友達を経由してのメールだった。
「・・・・同窓会だって、カザ君」
「本当っ?」
「うん、小笠原さんから」
「小笠原さん!昔よく一緒に遊んでたよね、さん。懐かしいな」
将の言葉に少し息が詰まった。
小笠原さんなんて、私は知らない。今書いてあったのを読んだだけだから。
「佐倉くんが主催者らしいよ」
「へぇ、佐倉君。一緒にサッカーやったの覚えてるや。どうしてるだろう」
メールに書いてある人の名前を出すたびに、将の顔は輝いていった。
懐かしい、嬉しい。転校してきた日にに見せた表情と似ていた。
でも、にとっては誰?という存在。
今までもあった同窓会。一度も行かなかった。
皆みたいに、昔を懐かしむことなど、昔を知らない私にはできないから。
「あれ、じゃあ水城さんも来るのかな。
近所に住んでいたんだけど引越ししちゃった、仲のいい人だったよね」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「よくこの辺にある公園で遊んでたよ。木登りしてさん降りれなくなって
水城さんが凄い困ってた。」
「・・・・・・この、公園?」
「うん。もうあの大きな木がなくなっちゃたんだね。
さんと水城さん猫が好きで追っかけてそのまま、ってことよくあって」
「・・・・・そう、なんだ」
あのときも、と将は話を続けていた。
でもの頭には全然入っていなかった。昔の、思い出話なんて。
一生懸命思い出して話をしている将が、微笑ましくて羨ましくて。
逆に、妬ましかった。自分にないものを簡単に持っている。
同窓会に行ったって、覚えてなどいないんだ。
現に今、将が話している水城さんも小笠原さんも佐倉君も知らない。
誰だかなんて、欠片も思い出せない。
・・・なんか、とても彼らに悪い気がした。
そんな思いが顔に出ていたようで、将は心配そうにの顔を覗き込んだ。
「さん?」
「・・・・・・・・・・ごめんね、何も覚えてないんだ」
「え・・・・・・?」
「私、記憶喪失なの。小学校の記憶なんて、何にもないんだ」
将はとても驚いていた。
そして、悲しそうに顔を歪ませた。自分を責めるように。
「か、カザ君は何も思わなくていいよ。私が言ってなかっただけだし」
「・・・・でも、」
「ごめんね、せっかく話してくれてるのに相槌も打てなくて」
「・・・・・・・僕の方こそ、知らなくて」
「いいんだって・・・・ッ!」
お願いだから自分を責めないでね。
悪いのは私。傷付いて欲しくないの。
共通できる部分を分かち合えなくて、ごめんね。
同窓会って、嬉しくて懐かしくって。楽しい気持ちになるはずなのに。
一緒に懐かしいねぇ、なんていえなくて・・・・ごめん。
「私だって思い出したいよ・・・・・・でも、ムリなんだ。ごめんね」
医者にも言われた事実。なくてもいいって言ったから、治療は受けてない。
「さん、」
「・・・・・ごめんね」
は必死に、ごめんねと言い続けた。
自分の中の何かに言い聞かせるように。涙を抑えるように。
今まではなくても良かった過去のこと。だから治療も受けてない。
他人に、親に教えてもらうだけで充分だった。
凄く仲のいい、大切な人を忘れていても、平気だった。
でも、今は・・・・・。
将に悲しい顔をさせたくない。自分のせいで彼の笑顔を奪いたくない。
「・・・・・・さん、きいて」
「ごめん・・・カザ君」
「君が僕の事を覚えていなかった、記憶喪失だったのは凄くショックだけど」
将の顔は真剣だった。思わず目を奪われた。
「僕は君の顔を見て、変わらない表情を見て、凄く嬉しかったから」
「カザ、君」
君は知らないだろう、僕の気持ち。
サッカーの事で頭がいっぱいの僕にも、初恋はあったんだ。
恋だ、好きだ、なんてわからないほど幼かった自分の感情。
「でも、覚えてないならいいんだ。思い出さなくて構わないよ。無理だけはしないで。
・・・・・・・さんのその顔のほうが、辛いから」
我慢しないで、と彼は言った。言っている将の方が泣きそうだった。
彼の一言一言は考えて発されたもので、温かかった。
伝えたいことを言葉にするのは本当に難しくて。
でも、わかって欲しくて。
人の事なのにどうしてこんなに一生懸命なんだろう。
そんな彼が、すごく輝いて見えた。
とても、綺麗だった。
「カザ・・・君・・・・・ッ」
鼻の奥がつんとした。胸が締め付けられた。
気付けば、頬には一筋涙が流れていた。
ありがとう。ありがとう。
ごめんのかわりにそれだけを言い続けた。他の言葉なんて浮かばなかった。
「どう、したのっ、さんっ?」
「・・・・・そう、だよね」
「え、何で、涙っ」
慌てる将がおかしかった。
さっきまでの真剣な表情はどこへやら。
「人生80年、思い出なんかこれからいくらでも作れるし!」
「うん、そうだよ」
「忘れた今までの分、しっかり補わなくちゃね!」
思い出作りはこれからさ!
だってまだ中学生、青春してやろうじゃないか!