煩い蝉の声もだいぶ少なくなって、夜は鈴虫が鳴き始めた。
夏休みももうすぐ終わる。
互いにあと少しだけ残っている課題を終わらせようと
一馬の家にはきていた。
「あー、もう夏休み終わるじゃん」
「意外と短いもんだな、やっぱ。あと二週間・・・ないか」
「ねー。早く大学生になりたいなぁ」
ぐでー、とは横に滑るように床に倒れる。
部屋の真ん中に置いた机の上は、終わらせた課題。
三歳上のは、高校の課題の量に四苦八苦していた。
結人の八月末の姿に少し、似ていた。
七月中に大体の課題が終わっていた一馬は、今日は主にの
課題の手伝いをした。今頃英士の家には結人が居ついているだろう。
課題ついでに泊まってゲームでもしているのが恒例である。
「あ、そういえばさ」
が力なく口を開く。声も少し間延びしていた。
だが身体はばっと元気よく起き上がる。
「一馬、もうすぐ誕生日だね」
「あぁ。そういえば」
「なにかほしいものとか、ある?」
アルバイトをしているは経済的にも余裕があるようだ。
夏休みだからといって積極的に遊ぶのかと思っていたが
やはり今年の蒸し暑さにクーラーとの愛を深めている。
そのため常にダイエットに成功しているの財布だが、今は肥えているらしい。
したいことは沢山あるんだけどな、というのがの口癖のようになっていた。
一馬はほぼ毎日練習で、二人でどこか出かけることもほとんどできない。申し訳ない。
だがそれをいってもは笑うだけだ。
でも普通、花火とかプールとか海とか祭りとか、行きたいものだろう。
自分も行きたい。花火はこの前英士と結人を交えてやったが、他はない。
夏らしい思い出をつくっていなかった。
と付き合いだしたのは夏休みに入る頃。
約一ヶ月あったが、二人はまだ手すら繋いでいない。
近所に住む従姉妹であるとの関係は長く、ずっと仲のよい親戚・・・というより
友達でいたため、その雰囲気が抜けないのだ。
でも今年は初めていとことしてではなく過ごす夏。
今までとは異なった日々を過ごしたいと思っていたのだが。
実際は、なにもない。
一馬がオフのときにどちらかの家に遊びにいくか、もしくは英士たちの家にいくか。
二人っきりになる機会は半々くらいあった。でも、二人の関係は進まない。
「・・・特に、ない」
「もー、それ一番困る答えだよ。でっかい花束とかあげちゃうよ?」
「どこに飾るんだよそれ。絶対いらない」
「じゃあ他に本当にないの?何でもいいから、言ってみてよ」
微笑んで尋ねるは、とても楽しげだった。
そして、綺麗だ。うっすらした化粧。服も化粧品も自分で買っているという。
結構時給のいいところで働いているので、は一馬の母親の誕生日に
エナメルバッグが買えるほどの値がする花束をあげていた。
その贈り物一つでも、やはりは大人に近く感じる。
普段から感じる精神的な余裕や心遣いと併せて、増長するジレンマ。
自分は年下で、高校生からしたら子供という事実。
やっと想いを伝え、付き合うことになってもその歳の差をたまに感じる。
子供のように甘えることも出来ないし、かといって大人のような余裕や技量が
あるわけでもない。部屋に二人っきり、なんていう機会も多い。そして今もそうだ。
それでもどのようにに触れていいのか、よくわからない。
「どうしよっかなぁー。スパイクはこの前一馬新調してたしなー・・・」
くるくるとは染めた茶色の毛先を指に巻きつけて遊ぶ。
少し痛んでいるが、それでも綺麗だ。
桜色の爪。日に焼けにくいらしい白い肌。爪の色が映える細い指。
柔らかそうな手。
ほしいもの。
「なぁ、じゃあ・・・指、触って、いいか」
のその、きれいな指を。
小さな声だったが、静かな部屋には充分なほどだった。
途端、の頬が真っ赤に染まる。
言葉の意味を理解したらしく、どんどんその朱は面積を増す。
「プレゼントなら、それだけでいい」
じ、と一馬はの目をみつめる。
「そっ、そんな、確認しないでよ!恥ずかしい・・・っ」
「・・・ダメ、か?」
はぶんぶんと首を振る。真っ赤になってうろたえる姿が可愛い。
今まで彼氏がいたことだってあるだろうに、なんとも初々しい。
普段は一馬をからかうのは、だというのに。
手を伸ばして、一馬はの指を自分のそれと絡める。
柔らかくて温かい。触れたところから熱が移ってくる。
ゆっくりとなぞるように撫でる。少しだけ、の指が反応する。
は耳まで真っ赤だ。
二人は互いの指を食い入るように見ていた。
だががはっと顔を上げ、一馬を見る。
「・・・こんなの、プレゼントにならないよ」
瞳は少し、潤んでいた。羞恥からか、喜びからか。
聞かなくともわかるほど、の顔は可愛らしく幸せに満ちていた。
「もう一馬には、許されてることだもの」
今度は一馬が全身真っ赤になる。
なにを、いっているんだ。
「・・・それは好きなときに好きなだけ触っていい、ってこと?」
「うわ、さん大胆!」
部屋のドアの向こうで、遊びに来たのはいいが中の雰囲気に
入るには入れない友人二人が思わず小さくつっこみを入れていた。
デバガメに気づくのは、二人が初めてキスをした後のこと。