眩しい。眠い。
   太陽はどうしてこんなにも輝いているんだろうか。
   まぁすべてはキャンパスと家が遠いせいで早起きせざるを得ないからなんだけれど。
   
   今日は5限までぎっちり講義が入っているため
   左肩にかけた大きめのバッグにはこれでもかってくらいの教科書が
   詰め込まれている。

   次は公開授業だから早く行かなきゃ席がなくなっちゃう・・・。
   そう思って、は重力に負けそうになりながらも、左肩が下がらないよう懸命に歩く。


   教室まであと少し、というところで、横から誰かにぶつかった。




   「いた・・・っ」



  
   不意で、しかも結構勢いもよかったため、大きくふらつく。

 


   「っ、危ない!」




   声と同時に腕が伸びてきて、支えられる。

   そのおかげでかろうじて倒れることはなかったが、バッグは
   重そうな音を立てて、廊下に落ちた。
   つめこまれていた教科書やノート、プリントが派手に散らばった。

   

   「すみません、大丈夫ですか?」

 

   声にはっとする。
   支えてくれたらしい人が心配そうに顔を覗き込んでいた。 
   は慌てて体勢を直して、礼をいう。
 
   その横にいる、すごく寝不足なんじゃないかと思うほど
   ぼーっとしている人が、二人をゆっくり振り返って口を開く。

      


   「おー。ケースケ、すごいなお前。ベタな少女漫画みたい」         
 
 


   ぱちぱち、と手を叩く。
   



   「そんなことよりお前も拾えよ!」




   ケースケと呼ばれたその人はしゃがみこんで、廊下に散らばったバッグの中身を
   拾っては丁寧に埃や汚れを払って、その手に集めていく。
   プリント類は元々入っていたファイルにいれてくれて、教科書は大きさごとに
   揃えている。
   も慌てて一緒に拾うが、彼のほうが早く、7割ほど拾ってもらうことになった。
   
      

   「はい、これで全部?」

   「はっ、はい」



   爽やかな笑顔で手渡されて、は面食らう。
   その笑顔と透った声に、心臓が一つ跳ねた。
   よくみると身長は高くスタイルもよくて、容姿は整っていた。

   め、めちゃあかっこいいんですけど、この人・・・!

   が思わず見惚れそうになっていると彼は先ほど拍手していた人の
   首根っこを掴むように引き寄せる。
  
 


   「ほら、お前も謝れよ、平馬」
   
   「うん。すみません」

   


   ぶつかったの俺だったみたいだな、と平馬はぺこりと頭をさげる。

   しかし二拍くらいすると、その頭を少し起こして首だけを
   ケースケのほうに向けて首を傾げた(器用だ!)。
    

 
   「・・・てかなんでケースケも謝ってんの?」
   
   「お前が気づかずにふらふら進んでくからだろ!」

   「ひゅージェントルメーン」

   「そういう問題じゃなくてだな・・・!相手は女の子だぞ!」

  

 
   しかもこんな小さくて可愛い子なのに!とケースケは平馬の頭を叩く。  

   確かに平馬の身長はより20センチ以上は高く、衝撃も凄かったけど
   私の不注意もあったし・・・って、可愛いって誰のこと?
   思わぬ言葉に先刻手渡されて抱えたままの教科書類をきゅっと握る。


   
     
   「・・・スケベー」
 
   

 
   頭を上げた平馬がぼそりと呟く。
   いっきにケースケの顔が赤く染まった。
   
   しかしそんなことは気にせずに、平馬はふとの抱いている教科書類の中に
   ある、一枚のプリントを凝視していた。




   「それ、宿題あったんだ」
  
   「え、うん。次、提出ですよ?」




   どうやら同じ授業を取っているらしい。
   平馬がみていたのは今日提出の課題だった。




   「マジで?みせてくださーい」

   「お前どんだけ図々しいんだよ!」 
   
   


   ケースケがまた平馬の頭を叩こうとする。
   が、平馬はそれをひょいと避けてしまい、空振りにおわる。

      

   「いいじゃん、困ったときはお互い様」

   「主に困らせてばっかだろうが」

   「あ、じゃあついでに昼食べるのは?お詫びとお礼と
    ついでにケースケからのナンパってことで奢りますよ、ケースケが」

   「おい平馬!」



   突然の誘いには驚いて反応できない。
   どちらもこうして一緒にいるだけで周囲の視線を集めるほど
   容姿は整っていて、目立つ。そんな人たちと一緒にご飯だなんて・・・!
   
   

   「ダメ?誰も損しないし、いい案だと思うんだけど」 

   「だからって勝手に話進めるなって。彼女まだ何もいってないだろ」

   

   マイペースに話を進めていく平馬と声を荒げているケースケ。
   心なしか、ケースケの顔は赤いようにみえる。
   



   「だって断る理由なんてないだろー」




   なぁ?と平馬がの顔を覗き込む。

   その距離があまりに近くて、は更に動揺して思考が混乱する。
   言葉がうまく出ない。





   「えっと、あの、」





   キーンコーンカーンコーン 
   
   



   「あ、先に教室入らないと」


   


   タイミングがいいのか悪いのか、ちょうど授業開始のチャイムが鳴る。

   平馬は身体を離して、そのままの背中を押して教室へと入っていく。
   その行動にされるがまま、は足を動かす。
   明らかに困惑しているにケースケが苦笑した。





   「ごめん、こいつマイペースで」
   

   


   こんなかっこいい人に眉を下げてそういわれたら何もいえない。
   は平馬に押されるまま、空いている席へとついた。

   一つの机につき3席で間の一席は空けなければならないため
   二列に別れる。は前列の左端に、その後ろにケースケが座って
   平馬はケースケと同じ机の右端についた。
 
   教授はまだきていなかった。
   はノートを広げ、ペンケースを出し、授業に備える。
   他の教科のものは丁寧にしまう。
 
   すると後ろから平馬が首を伸ばして覗き込んでいた。


  

   「あ、ノートきれい。ついでにコピーもいい?」

   


   もう呆れるほどのマイペースさに、は頷くしかない。
   平馬にノートと課題のプリントを渡すと、ふぅと思わずため息が出た。
   
   周りを見回すが、いつもいるはずの友人はいなかった。
   ついでに気づいたのは周囲からの痛いほどの視線。
   そりゃあこんなかっこいいんだもんね・・・。
   今まで眠くて全く気づいていなかった自分が鈍すぎる。
   
   もう一つ大きくため息がでた。   






   とんとん。





 
   ふいに小さく肩を叩かれる。後ろから・・・?
   が振り返るより早く、ケースケが小さく耳打ちしてくる。


   


   「さっきからごめんな、平馬が」





   低い、男の人の声。
   手で覆ってにしか聞こえない彼の声。






   「でも俺も、さっきの話OKしてくれると嬉しいかな」






   君と一緒にお昼食べたいし。

   ちょっと照れくさそうに紡がれた言葉。囁かれるように、甘く響く。
   全身を電流が駆け巡ったように、何かが奔った。
   それは一気にの身体を熱くさせる。
   声と、言葉の意味を理解して、ぼっと頬が紅潮した。
   
  
   約80分間、講義の内容など全く頭に入らなかった
   教授が去って行ったあと、もう一度問うてきた二人に、こくんと頷くしかなかった。