あー眠い・・・。
   
   がたがたと揺れる電車に身体を任せながら、うとうと・・・どころか
   もうすでに8割は夢の中に引きずられている。
   昨日レポートやってたから、ほとんど寝てないんだよね・・・。

   運良く車両の端で、端の席というベストプレイスに座れてしまったため 
   もうこれは神様が寝ろっていっているということだろう。
   どうせ今日もまたケースケ先輩とあって体力使うんだろうし・・・。

   学校の最寄り駅まであと20分以上はある。
   ・・・あ、もう、無理。












     夢は盲目? 
     










   懐かしい夢を見た。ケースケ先輩を初めて見た日。
   たまたま従兄弟が出ている選抜の練習試合を見に行ったときだった。
   大きなスタジアムなんかじゃなくて、市営のサッカーグラウンドで
   やっていた試合だったので、は最前列を確保してみていた。

   その試合の中で一際目立っていた司令塔。的確なパスとボールコントロールの正確さ。
   周囲との呼吸も気持ちいいくらいぴったりで、きれいなプレーに思わず目を奪われた。

   試合終了後、彼は初夏の風のように爽やかな笑顔で、こちらに向かって手を振った。
   あの時は自分に振られたのかと思って、焦った。
   本当はのそばにいた妹さんに振っていたみたい。

   あの頃は知らなかった、この爽やかな笑顔の人が超がいくつついても
   全然足りないくらいのシスコンで、この爽やかさをすべて台無しにするくらい暑苦しいってことを。

   だから思わず、その選手をみてどきどきしちゃったんだ。
   ・・・あぁ、懐かしい。
     

   


   「!」





   ・・・あれ?

   思い出の光景と、夢は違っていた。
   そのままのそばにいた妹さんの名前を大音量で叫ぶはずの彼が
   なぜかのところへと走って来る。 
  
   満面の笑みを浮かべたケースケは、その勢いのまま
   の身体を抱き締めた。ぎゅっと、きつく。



    
   「!」

   「みてたかっ。勝ったよ、俺たち!」

   「・・・・っ」




   ぎゅーっと胸板に押し付けられる。
   視界はケースケの来た青いユニフォームで埋まる。  
  





   ・・・青?



   


   選抜のユニフォームは違う色だ。
   というよりこれは・・・!






   「W杯本戦、出場だ!」

   




   日本代表の、青だ。
   
 

   遠くに聞こえる大勢の歓声。伝わってくる、熱。
   呼吸が出来ないくらいきつく抱き締めてくるケースケの身体を押して、は周囲をみた。

   あの時のグラウンドじゃなくて、スタジアムの控え室のそばだった。
 
   向けられるのは、精悍に育った大人の表情。
   勝利に喜びが溢れ出ている、眩しい笑顔。
   今よりもさらに逞しくなった身体。
   


   

   呼吸を、忘れた。




 
   ・・・心臓が止まったかと思った。
   でも次の瞬間から心臓は元気一杯というよりむしろフル活動して
   破裂するんじゃないかってくらい、うるさく動き出す。
   どく、どく、と自分でわかるほど大きい鼓動。

   背中に回された腕はまだそのままで。
   こんな近くにいたら、きかれちゃうんじゃないか。
   こんなにそばにいたら、この熱が伝わっちゃうんじゃないか。
   急にケースケのそばにいるのが恥ずかしくなった。
      


   彼が、男の人にみえた。






   「・・・・・・っ」






   ずるい。 
   
   いつもの先輩は暑苦しいくらいのテンションで、妹バカで
   私のことも別に娘でもないのに「お父さんは」っていうのが口癖で
   爽やかな容姿とサッカーしているときのかっこよさをぶち壊すくらいうざいのに。

   私のそばにいる先輩はうざいってイメージが大きくて、もちろん尊敬できる
   人間的にいいところもあるし優しいけど、やっぱ「先輩」って感じで
   中身を知っていくうちにどきどきなんてしたことなかったのに。
 


   こんなの、サギだよ・・・!













   「?」












   とんとん、と肩を叩かれて、目を開ける。
   



   「?もうすぐ駅つくぞ?」
 
   「ケースケ先輩・・・?」


   

   思考がはっきりしない。これは夢の続き・・・?
   



   「ん?よく寝てたな。・・・あ、ついた」




   くい、と手を引かれて、促される。
   手首から伝わる熱が温かくて心地いい。 
  
   もたつくに顔だけを向けながら、ケースケは微笑った。





   「ほら、おいで。




   
   夢の中と同じ、眩しい笑み。
   夢の中と同じ、「男の人」に心臓が跳ねた。
   



   「・・・はい」




   ふわりと笑みがこぼれた。

   いつもなら振り払う手もそのままで、電車を下りた。
   電車が去っていくときの風が熱い頬を撫でる。

   


  
   「・・・?どっ、どうした?」

   


   人の流れが少なくなっていっても、二人はまだホームで立っていた。   
   ケースケは降りたときのまま固まり、数拍後に我にかえったが
   平素と全く違うの態度に、ただあわあわとするだけだ。
     
   少し染めた頬。
   見惚れるようにケースケに注がれる視線の熱っぽさ。
   まるで、






   「っそそそそんな可愛い顔してもお父さんは何も持ってないからな?」




   

   ど、どうしたんだ!

   寝ぼけているのか?だとしても危険すぎる。
   こんな可愛い子を男が放っておくわけないじゃないか!    
   だめだ!他の男なんかに渡せるわけがない!
   どこの馬の骨かわからないようなやつ、お父さん認めないぞ!
   ・・・でもこの表情って、もしかし、て?
     


   思考がだだ漏れのケースケの大声で、はっとは目が覚めた。







   「・・・・・・!」






   同時にかあぁっと顔が赤くなる。ほ、本人・・・!

   先刻見ていた夢を思い出し、あまりにも恥ずかしくて
   はケースケの方を全く見ずにスタスタと足早に歩き出す。







   「っ、な、なんでもないです!!」

 




   
   つかまれていた手を振り解いて逃げ出した
   慌ててケースケはその後を追う。


   

   「あ、こら!待てって、せっかくだから一緒に」

   「ついてこないでー!」 
  
   「何だって!反抗期なんて悲しいだろー!お父さんの何が嫌なんだ!」

   「うるさいうるさいっ!娘じゃないし!・・・先輩のバカ!」 




   心臓が煩いのも、声がやけにきこえちゃうのも、
   先輩の顔を見れなくなっちゃったのも、顔がやけに熱いのも
   みんなみんな気のせいだ!
   そう、さっきみた変な夢のせいだもん!
   あ、あんなの先輩の1割くらいなんだからっ。
   
   熱くなった頬に手を当てて、は更に歩を早めた。   
 


   私を追い立てるのは、彼か、想いか。